テラーノベル
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あれから、二週間が経った。
今日はからっと晴れていて、夏前の刺すような日差しが照っている。
花斗と繋ぐ私の手は、汗ばんでいた。
緊張のせいもあるかもしれない。
花斗と反対の手を繋ぐ壱月も、きっと同じだろう。
「ばあば!」
花斗のその声に、駅前に立っていた女性がこちらに手を上げる。彼女は、花斗のばあばで、私の母親だ。
壱月に母を紹介しようと、待ち合わせをしていたのだ。
「花斗くん、久しぶり」
母の前へ着くと、母は花斗と目線を合わせるようしゃがんで微笑む。
花斗はもじもじしながら、私の後ろに隠れてしまった。
「ごめんね、お母さん」
「まあ、会うの久しぶりだものねえ」
お母さんは「人見知りは賢い証拠!」と笑った。
「それで愛音、そちらが……」
母は私の隣の人物を見上げた。
「初めまして、海野壱月と申します。愛音さんとお付き合いさせていただいております」
緊張気味なのか、壱月の声は硬い。
「花斗くんに目元がそっくりね。えらい男前」
母はそう言って、ふふっと笑った。
「あのね、子どもの遊べるスペースのあるカフェがあるのよ。いつも、外から見てて一度行ってみたかったの!」
そう言う母に先導されやってきたのは、小さな滑り台やボールプールのある子どもの遊び場付きのカフェだ。
遊び場を囲むようにテーブル席とカウンター席が並んでいて、どの席からでも遊び場を見渡せそうだ。
遊び場内には、ブロックや車のおもちゃ、おままごとの調理台まである。
花斗は店内に入るやいなや、「わぁ!」と目を輝かせる。その視線は、遊び場に釘付けだ。
「予約していた大木本です」
「四名様ですね、どうぞ」
予約までしていたなんて。
申し訳なさを感じつつ、靴を脱いで店内に入る。
すると、花斗がいきなり、滑り台へまっしぐらに走り出した。
「こら、花斗!」
「いいですよ。たくさん遊んでね!」
慌てて花斗を捕まえるも、店員さんに言われてしまっては仕方ない。
私は花斗の背中からリュックをはがすと「気を付けてね」と見送った。
案内された座席はボールプールの横で、ボックスに区切られた四人掛けのテーブル席。
私の隣に壱月が座る。
母は私の前に座り、何度も滑り台を楽しむ花斗に笑顔を向けていた。
「お義母さん……と、お呼びしてよろしいでしょうか?」
そんな壱月の言葉に一度ピクリと肩を震わせた母は、壱月に向かって微笑んだ。
「ええ、もちろん。それで――」
なにか言いかけた母を、今度は壱月が遮った。
「娘さんを傷つけてしまい、大変申し訳ございませんでした」
壱月は勢いよく頭を下げ、その額をテーブルスレスレまで下げた。
ふと目線を下げると、彼の手は膝の上で握りしめられており、プルプルと震えている。
母はそんな壱月を見て、目をぱちくりさせる。それから、「顔を上げてちょうだい」と笑った。
壱月が申し訳なさそうに顔を上げると、母は優しい瞳を彼に向ける。
「確かに、愛音は傷ついたかもしれない。でも、あなたも中途半端な気持ちでした訳じゃないんでしょう?」
見上げると、今度は壱月が目をぱちくりさせていた。
実は、母に約束を取り付ける際に、壱月と交際するにあたった経緯を、かいつまんで説明していたのだ。
「私ね、辛気くさいのはあんまり好きじゃないの。笑っていたほうが、ずっといい。だから、壱月さんもそんな顔しないで、笑ってね」
母がそう言ったところで、花斗がボールプールの向こう側から「ばあっ!」と顔を出した。
「ママ、おなかすいた!」
「じゃあご飯を頼みましょう!」
母はそう言ってメニュー表を開くと、そのまま花斗に見せる。
「ぼく、これ!」
即断即決。
花斗が指を差した先にあったのは、飛行機の形のお皿に盛られたお子様プレートだった。
「花斗くんは飛行機好きだねぇ」
母が話しかけると、花斗は「うん」と得意気に笑う。
「あのね、いつきはパイロットなんだよ!」
「おやまぁ」
花斗はそこまで言うと、また滑り台へと走って行ってしまった。
「パイロットさんなんですか?」
母が今度は壱月に向き直った。
「はい、私、NALJにてパイロットをしております」
「まあ、大手じゃない!」
母は両手を合わせて、ニコッと微笑む。
それから、
「ほら、あなたたちも選びなさい。注文しないと、花斗くんの腹の虫が騒ぎ出しちゃう」
そう言って、私たちにもメニュー表を差し出した。
コメント
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お疲れさまです、寺島あおいです🤍 壱月さんが頭を下げて謝った場面、すごく胸にきました。自分の非を認めて、それでも愛音さんと花斗くんのそばにいたいという誠実さがにじみ出ていて。それをお母さんが「笑ってね」と優しく受け止めるのも、大人の愛し方だなあと。花斗くんが「いつきはパイロットなんだよ!」と誇らしげに言うところも、もう家族の空気ができていてほっこりしました🌷