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エンティリア伯爵家で二つの夜を過ごした後、私はラーカンス子爵家へ戻ってきていた。
お父様とお母様に何があったのかを報告した後、私は自室でゆっくりとしていた。
やはり、我が家というものはいい。思う存分、リラックスすることができる。
「お姉様、少しいいですか?」
「え? ああ、いいわよ。入って」
そんな私は、聞き覚えのある声にベッドの上から起き上がった。
その直後に目に入ってきたのは、弟のイグルと妹のウェレナが部屋に入ってくる光景だった。
まだまだ幼い二人は、いつもと違い遠慮がちにこちらに近寄ってくる。一応、長旅で疲れている私に気を遣ってくれているのだろうか。
「お姉様、おかえりなさい。長い旅でしたね?」
「ええ、色々とあったから」
「エンティリア伯爵家はどうでしたか?」
「皆温かく迎えてくれたわ」
イグルとウェレナは、私にそれぞれ質問してきた。
双子であるためか、二人はいつもそんな感じである。通じ合っているからか、交互に喋ることが多いのだ。
「えっと、お姉様は明日からお暇ですか?」
「ええ、特に予定はないけれど」
「それなら、一緒にお出掛けしませんか?」
「お出掛け? えっと……明日でなければいけないの?」
私の質問に、イグルとウェレナは顔を見合わせた。
二人の間に、特に会話はない。ただ、この二人のことだから見つめ合っただけでお互いの気持ちはわかるのだろう。すぐに頷き合って、私の方を向いてきた。
「明日でなくても大丈夫です」
「明後日とかでもいいです。でも、近い内にお出掛けしたいです」
「そう? そうね……そういうことなら、近い内にお出掛けしましょうか」
イグルとウェレナの提案に、私はとりあえず頷いた。
しかし妙である。今日の二人は、なんというか変なのだ。
「二人とも、何かあったの?」
「……え?」
「……どういうことですか?」
「なんだか、二人とも変よ? 気付いていないの?」
私の質問に、二人は再び顔を見合わせていた。
どうやら、自覚はなかったようである。そうなってくると、益々心配だ。
「二人とも、悩みがあったら私でもお父様でもお母様でもいいから相談した方がいいわよ? 抱え込んでいてもいいことなんてないんだから」
「別に……」
「悩みなんてありません」
私の言葉に、二人は強い否定の言葉を返してきた。それは何か悩みがあることの証明であるように思える。
よくわからないが、私に言えるような悩みではないのだろうか。それなら、お父様やお母様に相談して欲しいものである。
二人で悩んでも、恐らくそれ程進展はないだろう。むしろドツボに嵌っていくだろうし、誰かに相談してくれるといいのだが。
◇◇◇
約束をしてから二日後、私はイグルとウェレナとともにバンティスの丘まで来ていた。
この丘は、私達の家からそれ程遠くない場所にある丘で、よく家族でピクニックに来ている場所である。
お父様とお母様は忙しかったらしく、私と双子だけで出かけることになった。よく考えてみれば、この丘に三人で来るのは随分と久し振りである。
「ふう……やっぱりここは気持ちがいい場所ね」
丘の上にある大樹の下に、私達はゆっくりと腰掛ける。
周囲を見渡すと、広大な自然が広がっていた。そこから吹き抜けてくる風は、なんとも気持ちがいい。
こういう風にのどかな自然に触れるのも久し振りであるような気がする。
「お姉様、お弁当にはまだ早いですかね?」
「え? ええ、そうね。早いのではないかしら?」
「今日のお弁当は、私とお兄様も手伝ったんです。料理人さんに無理を言って、色々と教えてもらいました」
「あら、そうなのね……」
イグルとウェレナは、バスケットを私に見せながら事情を説明してくれた。
それは、驚くべきことである。まさかこの双子が、お弁当を作ってきてくれていたなんて思ってもいなかった。
なんというか、二人は最近様子が少しおかしいような気がする。一体何があったのだろうか。本当に心配だ。
「二人も成長しているということかしら?」
「成長……そうですか?」
「ええ、そう思うわ。日に日に大きくなっているでしょう?」
「はい。背は伸びています」
「まあ、背だけの話ではないけれど……」
この弟と妹も、日々成長しているということなのだろうか。二人のおかしな様子に、私はそんなことを思っていた。
思い返してみると、ガラルト様との婚約が決まってから二人のことをそこまで見てあげられていなかったような気がする。私も、色々と忙しかったからだ。
その空白期間で、二人はいつの間にか成長したということだろうか。それはなんというか、少し寂しいような気もする。
「……二人にこんなことを言うのは、少々酷なような気もするけれど」
「はい? なんですか?」
「ラーカンス子爵家のことをお願いね。あなた達は、これからきっと色々な困難に立ち向かうことになるけれど、二人で助け合って、この家を守ってちょうだい」
「あっ……」
「……あら?」
そこで私は、二人にラーカンス子爵家のことを頼んだ。それは近い内に家を去る私が、かけておくべき言葉だと思ったからだ。
しかしその言葉によって、イグルとウェレナの様子が変わった。二人とも、絶望的な表情で私の顔を見てきたのだ。