テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#ハッピーエンド
瑠璃マリコ
15,100
#婚約解消
maruko
46
臣桜
49,091
ノベルティの盗作は、もちろん冤罪である。しかし弱小デザイン事務所VS大手企業の争いは、どれだけ違うと訴えても菜穂子の方が分が悪い。
しかも訴えてきた大手企業は、純玲の息がかかった会社だった。
これは絶対に私情が入っているとわかったが、これまでクリーンすぎるほどクリーンに経営してきたデザイン事務所はどうやって戦っていいのかすらわからない。
ひとまず弁護士を依頼して対策を練ろうとしたけれど、所長の知人から紹介された弁護士は相手が大手企業と知った途端、及び腰になる始末。マジで役に立たなかった。
やっと軌道に乗り始めたというのに、ここでまさかの経営危機。ふくよか体型の所長が、日に日にスリムになっていくのを目にした菜穂子は、もういっそ自分が退職すれば丸く収まるのではないかと、投げやりな気持ちになってしまっていた。
そんな風に思いつめ、いつ辞表を出そうかと悩み始めた頃、幹久と瑞穂が菜穂子に救いの手を差し伸べてくれたのだ。
「──ほんっっっとぉぉぉーーに、ありがとうございました!」
注文した料理が大体揃ったのを機に、菜穂子は瑞穂と幹久に深々と頭を下げた。
すぐに瑞穂が「なほ姉ぇー、もぉーやめてよ」と言いながら、テーブルをバンバン叩く。
「お礼なんていらないよ。うちと、なほ姉の仲じゃん!」
「どんな仲なんだよ」
「おにぎり!」
「はぁ?」
意味が分からないと眉間に皺を寄せた幹久だが、顔を上げた菜穂子と目が合うとプイッと目を逸らした。
「あー、みき兄、照れてるぅ」
「照れてないし」
「うっそぉー。耳、めっちゃ赤いし」
「うるさい。暑いだけだ」
「ふぅーん、かっわいいー」
「黙れ」
妹の弄りに、幹久は鬱陶しそうにするが本気で嫌がってはいない。複雑な事情を抱えている柊木家だが、兄弟仲は相変わらずいいようだ。
「幹久さんもありがとう。幹久さんのお陰で、うちの事務所は訴訟回避できたよ。本当に感謝してる」
「そんな大袈裟な。別に大したことしてないですから」
ツンデレ発言をする幹久に、菜穂子はつい「ふふっ」っと笑いを零してしまう。
幹久は大したことはしていないと言ったが、とんでもない。所長の知人から紹介された弁護士より1000倍頼りになった。
わざわざデザイン事務所まで足を運んでくれ、ビビりまくるスタッフに「違法性はないんで毅然とした態度でいてください!」と一喝し、想定問答まで用意してくれた。
あの時の幹久の鋭利な刃物のような視線で、スタッフ全員が冷静さを取り戻すことができた。
その後、所長は幹久から連絡が来るたびに怯えていたけれど、それは幹久には言わないでおこうと菜穂子は心に誓っている。
「なほ姉、食べよ!」
菜穂子が幹久を見つめながら回想しているうちに、瑞穂は三人分の料理を取り分けてくれていた。
ただよく見ると、瑞穂の皿にだけピザが多い。気が利くけれど、ちゃっかりしている瑞穂に、菜穂子はますます虜になりそうだ。
「それじゃあ、いただきまーす!」
三人で両手を合わせてそう言って、フォークを持つ。
菜穂子が選んだこの店は、サイトで高評価を得ていた。値段はそこそこするが、評価通りの味で菜穂子はホッとする。
瑞穂と幹久の口にも合っているようで、二人は気持ちいい食欲を見せてくれている。
「あ、なほ姉。なほ姉んとこ叩いた会社の人、左遷されたって」
あっという間に前菜を食べ終え、ピザを2切れ食べ終えた瑞穂は軽い口調でそう言った。
反対に菜穂子は、パスタを巻き付けたフォークを持ったまま目を丸くする。
「え!?そうなの!?」
「うん。来月から地方の営業所に転勤だって」
「おいそれ、確かな情報なのか?」
二人の会話を聞いていた幹久に尋ねられた瑞穂は、フンッと鼻を鳴らす。
「あったり前じゃん。うちの情報網を舐めないでよね」
「……お前、学校で何やってんだよ。ちゃんと勉強してんのか?」
呆れ顔になる幹久に、瑞穂は口を尖らす。
「してるよ。ただあんまり私が優秀だと、色々面倒なことになるからセーブしてんの」
吐き捨ててジュースをグビグビ飲み出す瑞穂に、菜穂子はかける言葉が見つからない。
今回の盗作疑惑が訴訟までいかずに済んだのは、幹久が尽力してくれたのもあるが、瑞穂の力も大きい。
瑞穂の通う学校は所謂”お嬢様学校”で、生徒は富裕層の家庭が多く占められている。その中で瑞穂は持ち前のビジュアルを活かし、友人知人から企業情報を引き出したのだ。
無論、高校生が知っている情報などたかが知れている。しかし瑞穂は頭が切れる。引き出した情報から、点と点を線につなげて、こちらに有利な情報を色々与えてくれた。
けれどその能力は、柊木家にとったら不要らしい。瑞穂もまた、愛人の娘だから。そして女の子だから。時代錯誤も甚だしい理由で、瑞穂が蔑ろにされるのはとても腹が立つ。
「なほ姉、顔怖い」
瑞穂の言葉で、我に返った菜穂子は空いてる方の手を自分の頬に当てる。
「ごめん、タバスコかけすぎたみたい」
「へぇー、このテーブルにタバスコなんてないですけどね」
すかさず突っ込みを入れられ、菜穂子は心の中で「黙れ!幹久」と唸る。
瑞穂といえば、菜穂子と幹久を交互に見て表情を柔らかくした。
「へへっ……なほ姉ってば、ほんと優しいね。でも心配しないで。うち、しっかり親のすね齧って留学して、将来自分のブランド立ち上げて、最終的に店の資金出させるつもりだから」
壮大なプランを聞かされて、菜穂子はひとまず安堵する。でもすぐ心の中がモヤモヤする。だからって、瑞穂が虐げられていい理由にはならない。
そんな気持ちが、顔に出ていたのだろう。瑞穂は、表情を険しくした。
「言っとくけど、うちは自分のこと不幸だなんて思ってないよ。むしろ恵まれてるって思ってる。なほ姉だって味方でいてくれるし。ってことでこの話はもう終わり!いいよね」
強く同意を求められて、菜穂子は頷くしかない。
「わかった。あ、これだけは言わせて。瑞穂ちゃんがお店出したら、私、一番に行くから」
「マジで!?嬉しい!うち頑張るね」
ぱぁあああっと顔を輝かせた瑞穂があまりに可愛くて、菜穂子は奮発してピザとパスタのお代わりを注文した。
コメント
1件
当麻月菜さん、第56話を読ませていただきました。 菜穂子さんの窮地を救った幹久さんの「違法性はないんで毅然とした態度でいてください!」の一喝、かっこよかったです。あの鋭い視線、スタッフ全員の心を一瞬で引き締めたんでしょうね。でも所長がその後怯えてたっていう裏話に笑いました(笑)。 瑞穂ちゃんの「おにぎり!」っていう謎かけ兄妹のやりとりもほっこりしました。複雑な家庭環境なのに、ちゃんと絆が感じられるのがいいなあ。最後のピザおかわり、菜穂子さんの気持ちがすごくわかりました。ああいう場面のさりげない優しさが沁みますね。