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とずり阿
来世は二酸化炭素がいい
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rttt
ヒーローusm×ヴィランsik
sikの一人称が僕です
見たいとこだけ書いたので変かもしれません
捏造、妄想
ご本人様とは関係ありません
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猫のようなしなやかさで電柱を伝って街を見下ろす。ゴーグル越しに見える沢山の花にうっとりと頬を染め、目尻をキュッと上げる。
なんて美しい!
あちこちで聞こえた悲鳴はもう鳴りを潜めてしまったが、それでもこの悪は嬉しそうに笑う。何故なら愛しの正義と戦うことができるからに他ならないからだ。
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宇佐美は恍惚とする悪を見上げていた。
バチバチと雷を纏う宇佐美の拳は、すでに戦闘態勢に入っていた。普段見せる柔和な笑顔はどこにもない。そこにあるのは、怒りと、それ以上に深い、胃を焼くような焦燥感だけだ。
「……降りてこい」
宇佐美の声は、低く、威圧的に響いた。
佐伯は電柱の上でくるりと身を翻すと、重力を感じさせない軽やかさで宙に舞った。宇佐美の数メートル手前、アスファルトの上に音もなく着地する。
「待ってたよ、リトくん! 」
ゴーグル越しに細められた目尻。その歓喜に満ちた声を聞くたび、宇佐美の心臓は嫌な音を立てて軋む。
「テツ、もうやめてくれ」
「やめる? どうして? こんなに楽しいのに。君と戦うのが僕にとって最高の瞬間なんだ」
佐伯はダガーナイフを抜いて、美しい刀身を満足そうに構える。
宇佐美は一気に距離を詰めた。雷を纏った右拳が、佐伯の顔横の壁を砕く。コンクリートの破片が飛び散る中、佐伯は猫のような反射神経でそれをかわし、宇佐美の懐へと潜り込んだ。
至近距離。宇佐美の鼻腔を突くのは、血の匂いと、今朝、同じベッドで嗅いだはずの、石鹸の匂いだった。
宇佐美は歯を食いしばり、佐伯の細い手首を掴んで組み伏せようとする。だが、佐伯はあえてその力を受け入れるように宇佐美の胸に体を預け、耳元で小さく、彼にしか聞こえない声で囁いた。
「……リトくん、今日の晩ごはん、何がいい?」
その場にそぐわない言葉に、宇佐美の思考が一瞬だけ停止する。その隙を見逃さず、佐伯は煙幕弾を地面に叩きつけた。
「っ、しまっ……!」
視界が真っ白に染まる。宇佐美が激しく咳き込みながら視界を確保したときには、そこはもう空だった。
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その後、現場の処理に時間がかかり家に帰ったのは日付を越えてからだった。
真っ暗な部屋の明かりをつけるとリビングのテーブルにはラップのかけられたミネストローネとご丁寧に『レンジで温めて食べてね!』と書かれたメモが置いてあった。それが誰からのものなんて一目瞭然で、愛おしさが湧くとともに昨日の戦闘を思い出して顔をしかめる。
宇佐美と佐伯は恋人であった。
宇佐美はキッチンへ向かい、言われた通りにスープをレンジに入れた。温まったスープを取り出しラップを取ると、トマトの香りが鼻腔をくすぐる。不揃いに切られた野菜たちがたっぷりと入っていて、テツらしいなと頬が緩む。
宇佐美の胃の容量に比べれば心許ないが、夜食と言うには十分な量を完食する。空になったカップをシンクに置き、宇佐美は音を立てないよう慎重に寝室のドアを開けた。そこには昼間、電柱の上で軽やかに跳ね回っていたあのしなやかな体が、今はシーツの海に埋もれ、驚くほど無防備に丸まっていた。
ベッドの縁に座って眠る佐伯の頬を撫でる。顔にかかった髪を耳にかけ、そのまま首に滑る。トクトクと脈を感じて、先程まで殺し合っていたとは思えないほどこの空間は穏やかだった。
「……ん、…り、とくん…?」
「起こしたか?悪い」
「んーん、僕も起きたかったから、いいの。……おかえり」
「ただいま」
佐伯は宇佐美の首に腕を回すと、ちゅっと可愛らしい音を立てながら唇に吸い付く。角度を変えながら何度も触れるだけのキスをした。満足した佐伯は宇佐美の首筋に頭を埋めてすんっと匂いを嗅ぐ。宇佐美は常々、『汗臭いからやめろ』というが佐伯は頑固として動かないのでもう諦めて好きにさせていた。
「今日のリトくんもかっこよかった」
「…あー、…そう」
「不満そうだね?」
「そりゃ、誰が恋人と敵対したいって思うんだよ。なぁヴィランやめねぇの?」
このやり取りも数え切れないほどした。そして佐伯の返答はいつも変わらない。宇佐美が正義である限り、悪に手を抜くことはない。恋人だからって私情は入れ込まないし本気で殺しに行く。市民を守る為に。
それでもこうして2人でいるときは佐伯のことが一番大切で愛おしい。愛おしさが憎しみを凌駕する。これが惚れた弱みというのなら随分と残酷なものだ。