第三章:隠された真実
「……江戸時代 紅月 燈華 儀式」
朝の教室で見た、あの検索候補。他の言葉なんて目に入らないほど、不気味だった。
(まさか…燈華のことか?)
そんな考えを振り払うように、キヨは頭を振った。
江戸の夜は静かだ。虫の声と、遠くから聞こえる太鼓の音だけ。
その太鼓が、妙に胸をざわつかせる。
「キヨ様、どうされました?」
背後から声がかかった。振り返ると、提灯を持った燈華が佇んでいる。
月の光を反射して、黒い瞳が綺麗に揺れた。
「いや、ちょっと考え事。今日の太鼓…なんか、嫌な音だなって」
燈華は一瞬だけ表情を固くした。その変化をキヨは見逃さない。
「この町には…ずっと昔から魔が棲むといわれております。太鼓は、魔を遠ざけるためのものなのです」
「魔!?何それホラーじゃん!!」
そんなキヨを見て、燈華はくすりと笑う。
「大丈夫。私達が護っていますから」
──護る?
その言葉に、胸の奥が引っかかった。
翌朝。キヨは屋敷の奥に迷い込み、古い扉を見つけた。
「なんだここ…?」
扉には、朱色の封印のような模様。まるで開けるなと言わんばかり。
その時──
「開けてはいけません!!」
凛とした声が響く。振り返ると、燈華が蒼白い顔で立っていた。
「怖っ!急にどうした!?」
「そこは…儀式に使う神聖な場所。誰も、近づくことは許されていないのです」
儀式──その言葉が重く落ちてくる。
「儀式ってなんなんだよ」
燈華は答えない。ただ、悲しそうに目を伏せるだけ。
「隠し事なんてするな。自分が辛くなるだけだから」
キヨが言うと、燈華の手が震えた。
「…私は、破滅を招く存在なのです」
「は?」
「町を護り、魔を封じる役目が私にはあります。生まれたその日から決められた宿命です」
燈華の声は、今にも消えてしまいそうだった。
「じゃあ、その役目って…」
キヨが問いかけるが、彼女は静かに首を振った。
「…今はまだ、お話できません。けれど──」
燈華は、涙のにじむ瞳でキヨを見上げる。
「キヨ様だけには、嫌われたくないのです」
心臓が大きく跳ねた。
「嫌うわけねぇだろ。俺は…俺は、燈華を──」
言いかけたその瞬間、屋敷中に太鼓が響き渡った。
前よりも、もっと不吉に。まるで何かの合図のように。
燈華はその音に怯えた顔を向ける。
「どうか…忘れないでください」
「え?」
「私は、あなたに会えて幸せでした」
そう言い残し、燈華は小走りに去ってしまった。
キヨはその後ろ姿を追えずに立ち尽くす。
胸を締め付ける不安。彼は知らない。
儀式の日まで──あと二週間。






