もしも私に翼が生えていたら
何色だったのだろう。
情熱的な赤。
知的な青。
神秘的な紫。
どの色にもそれぞれが持つ個性があり
素敵だが私に似合う色はないのだろう。
なぜなら私は情熱的でもなければ
知的でも神秘的でもない。
翼の色はその人自身を表す象徴なのだ。
すなわちその人の個性を体現している。
私は生まれた時から翼がなかった。
すなわち私には
個性がないという事と同じだった。
何となく生きて
何となく死んでいく。
きっとなんの変哲もない人生を送り
誰にも気づかれる事もなく
この世を去るのだろう。
私はこの人生に嫌気が差し
何度も何度もこの世を去ろうとした。
だが私には出来なかった。
死を目の前にした時
私は死から目を背けた。
もうこれで終わりなんだ
そう思った瞬間
怖くて足がすくんでしまった。
弱い私は一人でこの世を去る事も出来ない。
毎日毎日
息を吸って息を吐いて
同じ事の繰り返し。
誰の為に生きているのか分からない。
今の私に翼が生えていたとしても
その翼は何色にも
染まる事はないのかもしれない。
消えたい私は今日も生きる。
○視点
消えたい。
そんな感情を抱き始めたのは
いつだっただろうか。
私は赤色の翼を持つ父と
青色の翼を持つ母から産まれた
翼を持たない天使だった。
天使という種族は翼を持って
生まれてくるのが「普通」だった為
私の存在が異様だった。
町の人々からは
気持ちが悪いや不気味などと
心無い言葉を投げかけられた。
なぜ私には翼が生えていないのか。
どうして翼が生えていることが
普通なのだろうか。
翼の無い私は天使なのか。
次々と疑問が浮かび上がってくる。
私は幼いながらも
自分自身の異様さには気づいていた。
私が両親や町の人々と違うという事。
天使のあるべき姿と
大きく違うという事。
父の情熱的な赤色の翼でもなければ
母の知的な青色の翼でもない。
赤でも青でもなく翼自体がない。
翼の生えていない私は
何の為にこの世界に生まれたのだろうか。
生まれてくる場所を
間違えてしまったのだろうか。
私には人を助ける力も
笑顔にする力もない。
私という存在は一体何なのだろうか。
きっと私はこの時から
消えたいという感情を抱き始めたのだろう。
●視点
[あの子が居なければ
こんな事にならなかったはずなのに…]
[お前が化け物なんかを生むから
こんな事になったんだ!!]
[貴方はそうやって私ばかり責めて…
あの子なんて生まなきゃ良かったわ!!]
またあたしのせいで
ママとパパが喧嘩してる。
あたしの翼が
半分しかないから喧嘩してるんだ。
あたしが不完全なまま産まれてきたから。
きっとママとパパは完全なあたしだったら
喜んでくれたんだと思う。
小さい頃から鈍臭くて
怪我をする事は日常茶飯事だった。
怪我だけならまだ良い方だったが
それだけでは済まなかった。
町の人々に迷惑をかけては
ママとパパが頭を下げる。
翼が半分しかないから
町の人はあたしの事をバケモノって呼んだ。
そんな事をしてる内に
ママとパパの仲は悪化していった。
沢山迷惑をかけてごめんね
その一言ですら伝えられなかった。
だってあたしが喋ったら
パパに怒られちゃうから。
パパが怒るとママが泣くから。
痛い事は嫌いだしママが泣くのも嫌だから
怒られないように
静かにする事しか出来なかった。
あたしが居なくなったところで
誰も不幸にはならない。
あたしが居なくなって
ママもパパも仲良くなるかもしれない。
あたしが居なくなった方が
あたしも幸せなのかもしれない。
あたしなんか
生まれてこなければ良かったんだ。
小さい時にママが買ってくれた
白いワンピースを着て
小さい時にパパが買ってくれた
白の靴を履き静かに外に出る。
明るく眩しい太陽は沈み
冷たく静かに月が顔を出していた。
白のワンピースや靴とは真逆な
真っ黒なあたしの翼を大きく広げる。
月明かりに照らされた
あたしから影が伸びていく。
片方しかない翼。
誰にも愛されなかったこの翼は
あたしにとっては自慢の翼だ。
誰がなんと言おうと
あたしだけはこの翼の味方なのだ。
○視点
[貴方もう帰ってこなくていいわ。]
いつも通りの日々を送っていたある日
突然私は居場所を無くした。
この言葉は
私が恐れていた言葉でもあり
私が解放される唯一の言葉だった。
勝手に外に出る事は許されず
逃げる事は出来なかった。
毎日毎日人目のつかない場所で
雑用を押し付けられていた。
逃げたところで
翼の無い私は生きていけない。
そう思い私は私自身の心を殺し
両親の為に動くだけの道具になっていた。
どうにもならない
仕方がない事だと割り切った。
初めは何度も挫けそうになった。
何の為に生きているのかも分からず
何度も何度も消えたいと思った。
だが次第にそんな事は
どうでも良いと思い始めた。
ボロボロになった私の心には
消えたいという感情だけが残ったのだ。
そんな辛く苦しい日々は
母の1言で崩れ壊れていった。
「これからどうしよう。」
月の見えない真っ暗な日に
私は自由を手に入れた。
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