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「イザーク王子! この『王都名物コチュカ焼き』、本当に美味しいですね!」

「そうだな。久しぶりに食べたが、なかなか美味い」


広場のベンチに二人並んで座りながら、イザーク王子が屋台で買ってくれたコチュカ焼きを頂く。


なんでも、昔、猫好きの国王がいたとかで、いつからか飼い猫コチュカちゃんを模した焼き菓子が王都名物として売られるようになったのだとか。

笑顔のコチュカちゃん焼きに当たると幸せが訪れるそうなのだけど、残念ながら今回はダメだった。また今度来たときに買ってみよう。


「ラウラ、どうだ? 楽しめているか?」


コチュカ焼きを食べながら、街の賑わいを眺めていた私にイザーク王子が尋ねる。


「はい、とっても楽しいです! まさかこんなに早くまた遊びに来られるとは思ってませんでした」

「俺も心残りだったからな」

「ふふ、ありがとうございます」


今日は例のダブルデートから、ちょうど1週間後。

あの日、人攫い事件のせいで中止せざるを得なかった二人きりのデートをやり直しに、イザーク王子が連れてきてくれたのだ。


そして馬車を降りたところに、ちょうど美味しそうな屋台があり、私が釣られたというわけだ。


「これが、ラウラが王都の屋台で食べる初めての味だな」


イザーク王子が嬉しそうにそんなことを言う。

けれど、食べることに一生懸命になっていた私は、ついうっかり余計なことを言ってしまった。


「いえ、実は前にアロイス王子にビスケットを買ってもらって──」


そこまで言ってから、ようやく自分の失言に気がつく。

ちらりとイザーク王子の様子を窺えば、さっきまで楽しそうに綻んでいた顔が、みるみる不機嫌な色を帯びていく。


「……兄上に? ビスケットを?」

「あああの、前に無理やり連れ出されたときに、いろいろ高級品を贈られそうになったのが面倒で、代わりにビスケットを買ってもらったんです。何か1つ買うまで帰らないと言われたので。本当にそれだけで……」


まさに口は災いの元。

あわあわしながらも必死で弁解すると、イザーク王子は目を閉じて、ふーっと長い溜め息を漏らした。


「……分かった。ならば今日は俺がラウラにもっといいものをたくさん買ってやる」


なんだか、イザーク王子の目がメラメラと燃えている。

どうやらアロイス王子への競争心に火をつけてしまったようだ。


「さあ、菓子を食べたら行くぞ」

「わ、わかりました……!」


そうして私は急いでコチュカ焼きを食べ終え、イザーク王子に連れられて高級店ひしめく大通りへと向かうのだった。



◇◇◇



「ああ、どれも似合うから選べないな。仕方ない、試着したもの全部買うか」


高級ドレス専門店へとやって来た私は、すぐに大勢の店員さんに囲まれ、色とりどりの豪華なドレスに次々と着替えさせられた。

ちょうど今、10着目の試着を終えたところだったのだけれど、イザーク王子がとんでもないことを言い出すので、私は慌てて彼の無駄遣いを阻止する。


「イザーク王子、いくらなんでも買いすぎですよ!」

「そんなことはない。お前のためなら、いくらでも買ってやりたいと思っている」


キリッとした顔でそんなことを言われて、嬉しくないわけはないけれど、さすがに浪費が過ぎる。


「王宮にもすでにたくさんドレスがあります」

「いや、あれは仕事着のようなものだ。俺はお前に、その……恋人としてプレゼントをしたいんだ」

「イザーク王子……」


恋人、という言葉に心臓が跳ねる。

てっきりアロイス王子に対抗して手当たり次第買おうとしているのかと思ってしまったけど、そんな風に思ってくれていたなんて。


「嬉しいです、ありがとうございます。……では、それなら今日は一着だけ買っていただけませんか?」

「一着だけ?」

「はい、イザーク王子が私に一番似合うと思うものをひとつだけ。そうやって悩んで選んだドレスを贈ってもらえたら、きっとすごく思い出に残ります」

「……分かった」


それから、イザーク王子は私とドレスを見比べながら、悩ましげに顎に手を添えたり、額を押さえたりして一生懸命に選んでくれた。


「──よし、決まった」


選び始めてから数十分後、イザーク王子が神妙な顔をしてうなずく。そうして手に取ったのは、繊細なレースの装飾が美しい、淡いブルーのドレスだった。


「これが一番似合うと思う。……このドレスで着飾ったラウラが見たい」


照れたように少し目を逸らすイザーク王子がなんだか可愛く思えて、自然と笑みが漏れてしまう。


「真剣に選んでくださって、ありがとうございます。私もすごく可愛いと思います」

「そうか、よかった。では、このドレスを俺からのプレゼントとして受け取ってもらえるか?」

「はい、もちろん!」


私の返事に安心したのか、イザーク王子が頬をゆるめる。


「……こうやって、恋人のためにプレゼントを選ぶのは、悩ましいが幸せでもあるな。喜んで受け取ってもらえるのも嬉しい」

「そうですよね。今度は私が……」

「よし、次は靴とアクセサリーも買いに行こう」

「えっ!?」


今度は私がイザーク王子のためにプレゼントを選びます、と言おうとしたところで、イザーク王子が次なる買い物を宣言した。


「このドレスだったら、靴はシルバーかホワイト、アクセサリーはトパーズやオパールなんかがいいかもしれないな」

「あの……」

「同じ通りにシューズ専門店と宝石店がある」

「イザーク王子……」


そんなにいろいろ買わなくても、私はドレスだけで大丈夫なのに……。

もう一度イザーク王子を止めようとした私に、彼が幸せそうな笑顔を向ける。


「またお前に一番似合うものを選んでやりたいから、付き合ってくれないか?」


……そんな言い方をされてしまったら、付き合ってあげない訳にはいかない。


「わ、分かりました。そういうことなら、お願いします……」

「ああ、任せてくれ」


イザーク王子が流れるようにドレスの購入を済ませ、馬車の御者へ届けるよう店員に指示を出す。

それから、張り切った様子で私の手を取った。


「さあ、行こう」


冷血王子が「お前の魅了魔法にかかった」と溺愛してきます 〜でも私、魔力ゼロのはずなんですけど〜

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