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ユーリンが胸をおさえて震えるから心配したが、本人が大丈夫だと断言しているし、あまり心配しすぎて面倒がられても困る。気がけて様子を見ていれば問題ないだろう。
それに、先ほど魔力の動かし方を練習したときに、彼女の覚えが早いことに俺は驚いていた。
これまで体内の魔力を感じたことがないから、体外の魔力をなんとか取り入れて魔法を使っていたと言っていた。取り入れた魔力を扱う術にきっと似通ったところがあったのだろう。
だが、むしろ体外の魔力を取り入れることができるなんて初耳だ。
体内の魔力の湧出量も桁外れに大きいというのに、体外の魔力も集めることができるなんて、彼女はもしかしたら、今後大きく成長する可能性を秘めているのかも知れない。
「リカルド様?」
「ああ、すまない」
ユーリンが俺の顔をのぞきこんでくる。俺が考え込んでしまったせいだろうが、彼女も随分と遠慮がなくなってきたものだ。
演習が始まった当初は俺の顔色をうかがってはビクビクしていたと思うが、今となってはジェードとさほど変わらぬほどに親しげに振る舞ってくれる。俺にとってはその距離感がなんとも心地いいものとなっていた。
演習が終わっても、このような関係でいられるといいのだが。
そう密かに願いながら、俺は彼女に提案する。これからも友人として付き合っていけるよう、少しでも彼女の役に立てるといい。
「ではユーリン、そこの岩に向かってエアカッターの上位魔法、エアスラッシュをやってみよう。昨日は不発だったが、今日の魔力量ならいけるだろう」
「おおー! 憧れのエアスラッシュ! 頑張るぞー!」
ユーリンは気合い満点で腕まくりしている。これまでは体外の魔力を使っていたからエネルギーの変換効率が悪くて、上位の魔法は使えなかったようだが、今日は状況が違う。
上位の魔法を使えれば、彼女にも一気に自信がつくだろう。
「俺も一緒にうとう。詠唱は大丈夫か?」
「授業でも習ったから大丈夫!」
「では、構えて。詠唱しながら魔力を両手に集めて、一気に放つんだ」
「はい!」
素直に返事をして、彼女は魔法を放つために岩に向かって構えをとる。俺は魔力を練りながらも、さりげなく彼女の後ろに立った。
上位の魔法になると威力が違う。初めて上位の魔法を打つ者は、自分が放った魔法の反動で吹っ飛ぶこともよくある話だ。いつでもサポートできるようにしておかなければ。
ユーリンの詠唱が、耳に心地いい。だが、微笑ましく思えていたのはここまでだった。
ちょっと待て、魔力の膨れ上がり方が尋常じゃない。これは、まずい。
「ユーリン……!」
「エアスラッシュ!」
俺の制止は間に合わなかった。
「よっしゃ、命中!!!」
拳を振り上げ、勝利のポーズをとろうと思ったあたしだけど、それはすぐに悲鳴に変わった。
「ひえええええっ!?」
岩が消し飛ぶ。
岩の周囲どころか、山の岩肌までもが抉れて石つぶてとなって飛んでくる。膨大な砂埃があたし達を襲うかと思った瞬間に、目の前を大きな影が覆った。
「ユーリン!」
「リカルド様!?」
庇ってくれたのは嬉しいけれど、石つぶてがリカルド様の体に容赦なくあたる音だけが聞こえてきて、悲しくなった。
あたしってヤツはどうしてこう、やることなすこと、迷惑をかける結果になってしまうんだろう。
「無事か?」
「あたしは、なんとも。でも、リカルド様が……! ごめんなさい、あたし……」
「いや、こんなにも威力があるとは思わなかった。もはやエアスラッシュの威力を遙かに超えている。すごいじゃないか」
なんでそんなにいい人なの。
あたしのせいで酷い目に遭ってるのに、怒ることもない。包容力が半端ないんですけど。
あれだけの石つぶてを体中に受けて、いくら体を鍛えているからって平気なはずがない。リカルド様の体には、服に隠れてみえないだけで、きっと痣がたくさんできているに違いない。
だって、それくらいの勢いはあったもの。
でも。でも……。
「どうしよう、回復魔法をかけたいのに、加減がわからない」
普通にうった筈のエアスラッシュが、授業で見たのとはかけ離れた威力だったんだもの。今のあたしが回復魔法をかけたりしたら、とんでもない結果がでてもおかしくない。
「泣かなくていい。まだ自分の魔力の出力を制御できていないだけだ。君のパワーが桁外れだと確認できて、むしろ俺は嬉しい」
「なんでそんなに優しいんですか……」
「別に優しくはない。回復は自分でもできるし、それよりも、今の君なら俺とでも張り合えるレベルの魔法が打てるし、きっと近い将来魔術師として名を馳せる筈だ。こんな劇的な場面に立ち会えて光栄だよ」
そう言って、自分で簡単に回復魔法をかけちゃうリカルド様は頼もしいし、あたしを褒めてくれようとするのは嬉しいけれど、本当に申し訳なくって仕方がない。
「良かったな。それに、これで学年主任のザルツ教諭を見返せるじゃないか」
今は学年主任の先生なんてどうでもいい……っていうか、今となってはリカルド様と出会わせてくれたことに感謝したいくらいだし。いや、会ったら多分、あの嫌味にすぐ辟易するとは思うんだけどさ。
学年主任の先生まで持ち出して、あたしの気分をあげてくれようとするリカルド様は、本当にどこまでも優しい。
リカルド様の優しさを噛みしめながら、あたしは夕食後、何度も何度も魔力の出力を精一杯に練習した。