第5話
窓から差し込む日光で目が覚めた。時計は6:45を示している。隣に244さんはもう居なかった。私は眠い目を擦りながらトイレに向かった。
(えっと、トイレはここで………お風呂は隣で………)
たった一晩泊まっただけなのに、場所を覚えてしまった。でも、この広い家にはまだまだたくさんの部屋がある。だから、知らない部屋もたくさんある。
(願わくば、全ての部屋を覚える前に逃げれますように)
そう思いながら、私は歯を磨きに洗面所に向かった。
(いや、私普通に生活しすぎでしょ!!)
リビングに向かうと、244さんがキッチンで料理していた。
「おはよう。随分と早いね。まだ、朝食が出来てないんだ。すぐ作るから、座って待ってて。」
「はあ、ありがとうございます。」
そう言って素直に椅子に座った。
テレビにはニュース番組が流れている。
(もしかしたら、私が映っているかも………)
「君は映ってないよ。」
私の考えを見透かして言った。
「………まだ、何も言ってないのに」
「でも、そう思っていただろう?」
何も言い返せない。
(あれ?でも、何で映ってないんだろう…..)
「1日に「行方不明だから探してくれ」と警察署に行く人はたくさんいるんだ。そして、そのほとんどが、別れや家出。だから、警察も昨日今日で探しはしないさ。」
そう言いながら、244さんは私の前に朝食を準備して言った。
(くっ、まだ何も言ってなかったのに。)
全部見透かされたようで悔しかった。
「………あの、何かお手伝いしましょうか?」
「いや、君は座っておいてくれ。」
断られてしまっては仕方がない。私は大人しく座っていたが、何だか申し訳なくなってきた。
(いや、良いのよ杏奈!私は誘拐されてる身なんだから!!)
“誘拐”そう改めて認識した。
「いただきます。」
「どうぞ、召し上がれ」
昨日の夕食もそうだが、やはり朝食も豪華だ。家ではいつも食パン1枚か、ご飯1杯だけどからか、1層豪華に見える。
「どうしたんだい?」
「いや、ただ豪華だなと………」
244は微笑んだ。
「このくらいならで豪華なのかい?だったら、毎日豪華な食事になるだろうね。楽しみにしていてくれ。」
「ははは………」
(毎日続く前に、逃げてやる!!)
そう思いながら、目玉焼きにかぶりついた。
「今日、何するんですか?」
「ん?何したい?」
「ん〜そうですね〜家に帰りたいですかね〜」
「ん?何て?他には?」
(うわっ!この人誤魔化してるぞ。)
そう思いながらも、閃いた。
「じゃあ、昨日のデパートに行きたいですかね。買い忘れたものがあったし、他の生活用品も見たいので。」
「………分かった。」
(えっ?!ほんとに!)
これで逃げることが出来る。そう思った。
(昨日のデパートは家の近くだから、あわよくば、逃げることが出来るかも!!)
「でも、昨日のデパートはダメだよ。その代わり遠くのデパートに行こう。」
「えっ!」
「ん?」
「あっ、いや!?私、昨日のデパートがいいです!!あそこが落ち着くんで!!」
私は必死になって言った。
(不味い。遠くがどのくらいか分からないけど、あまりに遠くすぎると、絶対逃げれない!!)
そんな私を見て244さんはため息をつきながら言った。
「はぁ〜、君は本当に嘘が下手だな。」
244さんはコーヒーを飲んだ。
「君、逃げるつもりだろう。」
244さんは今まで見たことがない目で私を睨んだ。
正直、めちゃくちゃ怖かった。ほんとにヤクザに見えた。
睨まれた私は何も言えなかった。
「ふふっ。そんなに怖がらないで。」
244さんはいつもの244さんに戻った。
(いや、どちらが本性かは分からんが)
244さんは食べ終えた皿を片付け始めた。私も急いで食べ始めた。