テラーノベル
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初恋は、忘れるものだと思っていた。
時間が経てば、思い出になるものだと。
でも、大人になった今でも春になると思い出す。
隣のマンションに住んでいた、一人の男の子を。
私とヤマが初めて出会ったのは、物心がついた頃だった。
隣のマンションに住んでいて、公園で見つければ一緒に遊ぶ。
鬼ごっこをしたり、駄菓子屋へ行ったり。
暗くなるまで遊んで、「また明日な。」と手を振る。
そんな毎日だった。
恋なんて知らない。
ただ、ヤマと遊ぶのが当たり前だった。
小学四年生になったある日。
「え、ヤマもこの学校やったん?」
近所では毎日のように会っていたのに、同じ学校だったことをその日初めて知った。
「知らんかったん?」
そう言って笑うヤマを見て、なんだか少しだけ照れくさかった。
そこからだった。
学校で見かけるヤマが、少し違って見えるようになったのは。
クラスでも目立つ存在。
男女問わず友達が多くて、いつも誰かが隣にいる。
私はというと、女子の友達も多くて、明るいグループにいた。
よく笑って、よく喋って。
「伊織っていつも元気やな。」
そんなふうによく言われていた。
でも、本当は少し違った。
人見知りで、初対面の人と話すのは苦手。
空気を読んで笑っていただけの日も、たくさんあった。
それでも学校では、そんな自分を隠すのが当たり前だった。
女子はみんな「伊織」と名前で呼ぶ。
男子はほとんど苗字。
でも、ヤマだけは昔から変わらない。
「伊織。」
当たり前のように名前を呼んでくれる。
その特別さに気付いたのは、もっとずっと後のことだった。
あの頃の私は、そんなこと考えたこともなかった。
ただ一つだけ分かっていた。
学校でヤマを見つけるだけで、一日が少し楽しくなる。
その気持ちの名前を、私はまだ知らなかった。
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M.S
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コメント
1件
うわあ、このエピソード、すごく切なくて温かいですね。幼い頃の「当たり前」が、気づけば特別なものに変わっていく感覚、すごく共感しました。特に「ヤマだけは昔から変わらない」で名前を呼んでくれる――その特別さに後から気づく、という構成が巧みです。言葉にしないもどかしさが、春の空気みたいにじんわり沁みました。続きがすごく気になります!