テラーノベル
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M.S
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バレンタインが近づくと、決まって私の机の周りが騒がしくなる。
「伊織、これヤマトに渡しといて!」
「お願い!絶対やで!」
私は笑って受け取る。
「はいはい。」
そう返事をしながら、胸の奥が少しだけ苦しくなる。
ヤマは昔から人気者だった。
女の子から告白されることも珍しくない。
だから、私が特別なんかじゃない。
分かっていた。
それでも、彼女たちの想いを届ける役になるたびに思ってしまう。
本当は。
私が一番渡したいのに。
ランドセルの奥には、小さく包んだチョコレート。
最後まで渡せなかった。
好きだったから。
好きって言ってしまったら、この関係が終わる気がして怖かった。
その代わり、私たちは手紙を交換するようになった。
休み時間にそっと机へ入れる。
帰る前に返事を受け取る。
『今日遊べる?』
『また公園行こ。』
短い言葉だけなのに、それだけで嬉しかった。
でも、その幸せは長く続かなかった。
ある日。
「何それ。」
クラスの女の子に手紙を見られた。
そこから少しずつ、私の居場所は変わっていく。
陰で笑われる。
聞こえるように悪口を言われる。
それでも私は、いつも通り笑っていた。
「別に気にしてへんし。」
そう言って笑えば、本当に平気になれる気がしたから。
でも、家に帰って一人になると涙が止まらなかった。
ヤマまで巻き込みたくない。
その気持ちだけだった。
だから私は、自分から距離を置いた。
話しかけることも。
目を合わせることも。
本当は、一番したかったのに。
コメント
1件
第2話、とても切なくて胸が締め付けられました……。 「ランドセルの奥には、小さく包んだチョコレート。最後まで渡せなかった。」という一文に、伊織の秘めた想いと痛みが全部詰まっている気がしました。 クラスの子に手紙を見られてからの、無理に笑う姿が本当に辛くて。距離を置く選択も、ヤマを巻き込みたくないからって……その優しさが余計に切ないです。 でも、それでも手紙を交換していた日々の温かさが、きっと彼女の中にずっと残っているんじゃないかな。次の展開が気になります。