「やぁお前らー!」
「え、噓でしょ?なんで普通に来れんの……??」
「妨害目的なんじゃないですか?親愛なるhappy様を小賢しい手で酷い目に合わせようとするなんてサイテー!!」
「本当に思ってんのそれ……」
ここはネームドの会議室で、今回は一人を呼び出しとかじゃなく全員で話すらしい。
それで、今happy様がビビってる理由は、数日前にあったとある出来事にある。
数日前ーー
「happy様ー!!なんかちょっとすごいまあまあヤバいかもです!!」
「何?」
「手紙が届いてます!!」
「はぁ……?えっと?俺ら宛て?」
「……”こんにちは、happyとその取り巻きの皆様。我々はこの194回目にてすべての決着をつけることにしました。具体的には、第三ゲームにてhappyを殺し、そしてbloodを殺し、我々の大切な人を守るため、どんな犠牲も厭わずに戦わさせていただきます。我々には勝算があります。せいぜい第二ゲームまでの生存報告を頑張ってください。
私は私を作り出したあなたたちを許さない。 某フランス語とambitionより”」
「何これ……」
「任してくださいよhappy様ー!ちょっと解読できましたから!」
「いや別にいらな」
「解説していくんだぜー!」
「……」
「まあ多分、これはambitionとmeutrueさんからの手紙ですよね。それで、この194回目で何か大きい事をするっていう予告をしてくれてると。んで、具体的には第三ゲームでhappy様とbloodを殺すだなんて物騒なことをほざいてるんだわ。ふざけないでほしい。で、なんでそんなことするのって言えば、大切な人を守るためらしい。多分兄弟のことなのかな?でもambitionの大事な人って誰なんだ……?ともかく、なんか犠牲を出しつつ戦うらしくて、勝算もある。つまり作戦がもう立ってるってことなのかな、って感じです」
「それほぼ読み上げただけじゃん……」
「で、でも俺はhappy様のお役に立ちたくてー!しょうがないじゃないですかー!」
「読んだだけで大体わかったしいらないんだよ説明。てかさ、今僕が一番気になってるのは最後の一文なんだけど」
「私は私を作り出したあなたたちを許さない……英語の問題だったらだるい感じの文章ですね」
「で?この意味わかる?」
「全然見当もつかないです」「無能が」
ーーっていうことがあった。
つまり、今陽気にこんにちはしてる男、meutrueさんは、我々ネームドに宣戦布告してきたわけだ。
そいつが陽気にこんにちはしてるんだから、宣戦布告してきてる分際で普通に来るなよ、ということでhappy様がビビってる。
しかも、meutrueさんに関しては能力で自分の姿を隠すこともできるはずなので、仕方がなかったわけでもなく、
普通に姿を見せに来たというわけだ。どういうことなんだろう。承認欲求バチバチモンスターとかなんだろうか。
「何しに来たの?」
「え、それはこっちのセリフだろ。今から始まる会議に至って普通に参加しようとしただけなんだけど」
「は?あの手紙送ってきたのお前じゃん。裏切っといて普通に味方みたいな面しないでくれる?」
「一応ネームドではあるんだしいてもいいだろ」
「敵に情報をペラペラ話す馬鹿はいないよ」
「いやーあのさー……俺の部屋空調ゴミすぎて超暑苦しくてさ……耳栓3つくらいするから涼しい所に居させて欲しいと言いますか……」
「空調ゴミなのはみんなそうじゃん、てか飛行船に空調の良さを求めないでよ……って、さっさと出て行って本当に!」
「つまんないの」
「君が出ていったって確認できるまで会議しないから」
「耐久できるじゃん。仲間割れRTA」「死ね」
「まあでもさ、happyはblossom以外のネームドに俺の宣戦布告の話したの?」
「してないけど、もしかして本人から話してくれんの?」
「そうっすよ、あんま敵っていうので思考ロックしちゃダメだってよくわかる教訓だこと」「死ね」
「で、今誰が何人会議にいんの?happyとblossomはどうせ手紙見てるからいいとして……messiahはいんのか、jealousybloodは?」
「別の部屋で聞いてるらしい。てか神化人だし、君たちの手紙くらい知ってそうだけどね」
「ほーん……ambitionは相変わらず最下層で一人大富豪してるぞ」「あれ面白いのか……?」
「messiahはambition行き前最後なのか、おつ」
「それこそ神頼みしたいくらいだな」
「じゃあ俺が神様になってやるよ」
「ついにおかしくなったのか……」
「手紙の内容だけどな、まあ簡単に言えば俺とambitionが第三ゲームでhappybloodを殺して世界を救いますっていう感じ」
「それで世界が救われるとは到底思えないけどね……」
「そうですよ!happy様をぶっ殺したら世界は大洪水で終焉を迎えますって!!」「ノアの箱舟すんな」「この船乗ってる人みんな助かるじゃん」
「てかそしたら僕みんなの水をせき止めてんの??」「お前ダムなんじゃね?知らんけど」「ダムが人語をしゃべるな」
「happyのダム、ハピダム」「ス〇6かポ〇モンに居そう」「ツイ廃がよぉ……」
「脱線しすぎ!!今シリアスな感じだったのに!!重要な話を今からしますって雰囲気だったじゃんー!!みんな死んじまえばいいのに!!」「急にラスボスになるな」
「……これはmessiahにだけ話したいことなんだけど、もういいかってなったから話すわ。messiah、お前は近々ambitionの殺し合い大富豪相手になるよな」
「近々というか第三ゲームだな……。自分の余命宣告されてるみたいな気分だぜ」
「まあお前が絶望するのも最もな状況だよな、それこそ救世主が現れなければ」
「……もしかしてその救世主はmeutrue自身だ……なんて言わないよね?」
「勿論言うぜ。これは俺単体での予告だが、俺は確実にmessiahを助けに行く。まるで敵に囚われた姫を救うように」
「え、でもambitionと協力して僕たちを殺しに来るんでしょ?」
「それはそうだが、俺とambitionは完全に仲間ってわけじゃない。というか、俺がambitionに頼み込んで”協力してもらってる”方が近いな。条件付きで仲間になってもらってる。だから、」
「私をambitionに引き渡すことが条件になってるとでも……言いたいのか?」
「その通り」
「ふざけんなよ!なんでお前たちのいざこざの取引条件が私なんだ?!私を他人の身内の問題に巻き込まないでくれないか?!」
「しかも僕たち上側にとってもかなり有利な条件だよね」
「確かに、ネームドに歯向かえるネームドは現状messiahだけですし、そのmessiahが身動きを取れない状況にされるというのはかなり好都合ですね。そうなれば、ネームドに歯向かえるのは力が削がれた参加者だけになります」
「参加者に居た天神は偽物で、本当はもう故人だったんだろ?しかも変身してるやつは非力な黄落人。参加者側に戦える奴はいないし、情報も隠されてるから……」
「もしかしなくても、衣川が協力者と知らず、裏切者として指名手配のような形になっているやもしれませんよ?」
「完全に的外れな行動してる可能性はあるね。さらに、僕たちは今後君の対策も立て始める。正直、僕が君のような立場だったとしたら、勝算なんてありゃあしないと思って降参してるね」
「そもそも、私が味方みたいなことを決めつけてるみたいだが、私はambition行きになるネームドってだけで、上を裏切ってるわけでもないからな。ちょっと力がありすぎて、いや最強すぎて消されることになってしまったってだけで」
「ちょっとくらい教えてくださいよ、俺結構気になってきました。こんな劣勢から、どうやって参加者たちの信頼を取り戻すのか。そして、余ったメンツで俺達にどう対抗していくのか」
数秒の沈黙があった。
今まで俺達で話してきたことは、おそらく全て的を射ている。
ネームドを殺せる能力をもった人物は、参加者ネームド問わずmessiahしかいない。
そのmessiahの身動きを犠牲にしてambitionに協力してもらってるって言うのは正直致命的だ。
なんなら逆で、messiahを味方につけてambitionと対抗してって言う方がいくらか勝算がある気がする。
しかも、参加者たちはほぼ100%、衣川霧という人物を敵として見ているだろう。
本当はネームドなのに、参加者と偽っている裏切者として。
なので、参加者全員+自分の数うちゃ当たる戦法も不可能なのだ。
happy様を殺して信頼を取り戻すつもりなのかもしれないが、happy様の能力はとても強力かつ汎用性の鬼なので、タイマンしても勝てないだろうし、ambitionは色々あって最下層から動けないし。
つまり何が言いたいのかっていうと、信頼は取り戻せないし、唯一の味方も条件付き。
彼の敗北は決定的だった。これが俺ら三人の言いたかったこと。
しかし、彼が発した言葉は、俺らの想像を遥かに上回る答えだった。
「的外れはそっちだろ。別に俺は、はなから信頼を取り戻したいなんて一言も言ってないぜ?」
「……は?」
「え、なんで??明らかに参加者の敵になった方が辛くない?」
「今の味方がいまいち信用できないのなら味方を増やしといたほうがいいのでは……??」
「な、なんでわざわざ敵になりに行くんだ……?」
「それを会議で話しとけば?どーせ色々あった責任を誰かに押し付けようとしたんだろ、happyさん?今日処分されるmessiahあたりが相場か?」
「は、そんな言い方ないでしょ!!そもそも僕は何も悪くない、命令したことできないやつらが悪いんじゃん!!」
「あ、俺が居たら話せないんだっけ。んじゃ、ごゆっくり~」
扉が開き、meutrueが出ていった。
本当に今回の会議は地獄の予感がする。
最近、色々とイレギュラーが多すぎて、脳のキャパを完全に超えている。
それでも、実は俺には”成し遂げなきゃいけないこと”がある。
折角happy様のためになる事ばっかしてきたのに、ここにきて裏切らなきゃとは。
”あの女”、絶対に許さない。
*
「やあ」
「……珍しいな、meutrue」
「俺の宣戦布告聞いてくれた?案外俺にしては頑張れたと思うけどな」
「初期の頃と比べれば、の話だろう?」
「自分の親よりお前に面倒見てもらってた時間のが長いとか、とんだ茶番だよな。……改めてだけどさ、俺の話聞いてくれてたんだよな」
「当然だ。あれほど盛大に行われていれば、見逃すわけが無かろう」
「じゃあ、俺がお前を殺すってことも聞いてたんだよな」
「勿論。しかし、如何にして俺は殺されるんだろうか。生半可な方法では神化人は殺せないと、お前は一番分かっているはずだが」
「……色々考えたんだけどさ、やっぱオーソドックスな方法でいくわ」
「あまりにも露骨では殺せないのでは?」
「さっきからずっと思ってたけど、お前はどうして自分が殺されない心配をしてんだ?」
「……」
「それほど殺されない自信があるのか、それともーー」
「ーー殺されることを望んでるのか」
この言葉を言うのにはとても葛藤があったし、躊躇いがあった。
この計画を立てている最中、ずっと頭の中によぎっていることだった。
そもそも、「神化人育成プロジェクト」の根幹となるシステムを作ったのはbloodだ。
つまりある意味の黒幕である。
しかし、彼は能力の要素を作り出したことにより、「基本はネームド有利だが参加者にもワンチャンある状況」を作り出した。
そう、本当にこのプロジェクトを成功させたくば、もっとネームド有利にできたはずなんじゃないのかとか、参加者を全員人間にしてパワーダウンできたんじゃないかとか、そういうことをずっと考えてしまっていた。
そこで俺が思いついたのが、本当はプロジェクトを遂行したくなくて、心のどこかで200回目に到達せず、未完のまま終わってほしいという心境が、彼の中にはあったのでは、という考えだ。
正直、この計画を作ってる最中も色々な不確定要素に苛まれていたし、まともな脳みそは残っていなかったと思う。
黒幕が殺されたいって思ってるなんて変な話だし。
でも、なぜだかこの考えだけは、今でもずっと頭にこびりついて離れていない。
bloodは静かに窓の方を見ている。
椅子に座ってじっくりと空を眺める彼の姿は、どこか神秘的だった。
今までもずっと窓を見ていたが、多少座り方を変えているらしく、景色が少し違っている。
窓の外は6月とは思えないほど雲一つない快晴で、地上の子供たちが久しぶりに外で遊べる感動に胸を膨らませているのが容易に想像できる。
この船に乗ってるやつに、この空ほど明るい心境のやつは居ないだろうな、なんて思っていたら、窓から微動だにしなかったbloodの口がゆっくりと、かみしめるように動いた。
「……愚問を」
「……それどっちの意味だよ」
俺の言葉を遮るように、bloodは少し早口でまくし立てた。
「そろそろ時間だ。……行ってこい」
ドアを開ける直前、bloodの口元が少し緩んだように見えた。
彼は結局答えは濁したまんまだったが、俺にとってはその行動一つ一つから、もう答えは出ている。
とんだ邪神だ、人間に助けを乞うなんて。
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