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刻印の生存者

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刻印の生存者

3 - 第3話 観測者の視線

2025年08月11日

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【残り時間──59秒】
 龍真の肩が上下する。

 黒い靄はまだ揺らめいているが、さっきの勢いはもうない。


龍真「……クソッ」


 足元には落ちたナイフ。

 老女は座席の影に隠れ、必死に震えていた。


 俺は龍真から目を離さない。

 ここで油断すれば、最後の瞬間に何をしでかすかわからない。


【残り時間──10秒】


龍真「ふざけやがって……」


 その時、車内全体に低く澄んだ音が響いた。


【制限時間を超過しました。精算を開始します】


 次の瞬間、龍真の足元から光の鎖が伸び、全身を絡め取る。


龍真「な、なんだこれ──!」


【条件未達。対象は“排除”されます】


 光が一瞬で収縮し、龍真の姿は跡形もなく消えた。

 残ったのは、冷えた空気とざわめく乗客の声だけ。


(……やはりこうなるか)


 その時、空中に小さな光の粒が浮かび上がった。

 まるで観客席から投げられたコインのように、俺の目の前へ降ってくる。


【一部の観測者が、あなたの行動に関心を示しました】

【観測者《静かに囁く策謀家》があなたに100コインを送付しました】

【観測者《悪魔のような炎の裁定者》があなたの自己抑制に感嘆しました】


(……もう目をつけられたか)


 観測者──

 この世界の外側から、俺たち“化身”を見ている存在。

 彼らは観戦し、時に資源や能力を与え、代わりに俺たちの行動を娯楽として消費する。

 契約を結べば力を得られるが、相応の見返りを求められるのは避けられない。


(距離を取らないと、利用される)


 光の粒が消えたとき、車両後方から甲高い声が響いた。


???「おやおや、初戦にしては上出来じゃないですか、化身の皆さん」


 空間が歪み、赤い角を持った小柄な存在が姿を現す。

 人間のような体つきに、悪戯好きの笑み。


???「自己紹介が遅れましたね。私は“ドゲ”──このシナリオの進行役にして、観測者たちの案内人です」


 その笑みの奥に、冷たい光が見えた。

 俺は悟る。

(こいつもまた、ただの進行役じゃない)


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