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【残り時間──59秒】
龍真の肩が上下する。
黒い靄はまだ揺らめいているが、さっきの勢いはもうない。
龍真「……クソッ」
足元には落ちたナイフ。
老女は座席の影に隠れ、必死に震えていた。
俺は龍真から目を離さない。
ここで油断すれば、最後の瞬間に何をしでかすかわからない。
【残り時間──10秒】
龍真「ふざけやがって……」
その時、車内全体に低く澄んだ音が響いた。
【制限時間を超過しました。精算を開始します】
次の瞬間、龍真の足元から光の鎖が伸び、全身を絡め取る。
龍真「な、なんだこれ──!」
【条件未達。対象は“排除”されます】
光が一瞬で収縮し、龍真の姿は跡形もなく消えた。
残ったのは、冷えた空気とざわめく乗客の声だけ。
(……やはりこうなるか)
その時、空中に小さな光の粒が浮かび上がった。
まるで観客席から投げられたコインのように、俺の目の前へ降ってくる。
【一部の観測者が、あなたの行動に関心を示しました】
【観測者《静かに囁く策謀家》があなたに100コインを送付しました】
【観測者《悪魔のような炎の裁定者》があなたの自己抑制に感嘆しました】
(……もう目をつけられたか)
観測者──
この世界の外側から、俺たち“化身”を見ている存在。
彼らは観戦し、時に資源や能力を与え、代わりに俺たちの行動を娯楽として消費する。
契約を結べば力を得られるが、相応の見返りを求められるのは避けられない。
(距離を取らないと、利用される)
光の粒が消えたとき、車両後方から甲高い声が響いた。
???「おやおや、初戦にしては上出来じゃないですか、化身の皆さん」
空間が歪み、赤い角を持った小柄な存在が姿を現す。
人間のような体つきに、悪戯好きの笑み。
???「自己紹介が遅れましたね。私は“ドゲ”──このシナリオの進行役にして、観測者たちの案内人です」
その笑みの奥に、冷たい光が見えた。
俺は悟る。
(こいつもまた、ただの進行役じゃない)