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「望むのなら、その、どういったものでも構わない」
頬を朱色に染めて、恥ずかしそうに口元を覆い目を逸らすエリ。
その可憐な姿に一瞬だけ邪な想像がよぎったが、リーナがぎろりとエリと俺を睨み付けるから、すぐにかき消えた。
「先生は喪失魔術学に必要な人です。あなた個人の理由だけで好きにできるような人ではありません。そんな色仕掛けは無駄です」
「そういう君も、個人的な感情で動いているんじゃないかなリーナ。顔が赤くなっているよ。単にアデル様のことを好いているだけじゃ」
「な、なにを……!? 話を逸らさないでください」
などと、当の俺を前にして、舌戦が繰り広げられる。
二人の身分はかなり高いのだけれど、その内容はまるで痴話げんかの領域だ。
俺は、「なんだこれ……」と、二人の前で棒人間と化すしかできない。
「私と来ますよね、先生」
「いいえ、ぼくと来てください」
そして最後、二人に両脇から袖を引かれて決断を迫られた。
綺麗な女性二人に見上げられて、俺はたじろぐ。一歩、二歩とうしろに下がりながらも、真剣に一考する。
どちらを選んでも今より何もかもの環境がよくなるのは間違いない。だが、自分の心に素直に従えば、やりたいことは決まっていた。
「エリさんには悪いけど、とりあえずは魔術の研究をしたい……かな」
俺は、エリからの誘いに断りを入れる。
「先生…………!!!!」
感激からか、赤くなった顔を両手で覆うリーナ。
一方で、エリの方は少し顔を俯けていた。
「そうですか……。残念ですが、分かりました」
しばらくは沈んだ様子だったが、やがて顔を上げた彼女はにっと歯を剥く。快活なその笑顔は、かなり明るい。
「でも、これでアデル様の居場所も分かりました。今は依頼で時間がありませんが、近いうちにご指導を賜りに向かいます」
その眩しさには、一瞬ぐらりときたが、リーナに袖を引かれて正気を取り戻す。
結果その日に俺は、王立第一魔法学校での勤務契約書にサインを行った。
学長の追放され、失業し、二件も勧誘された上で新しい仕事が決まる。
俺にとって、節目になるような劇的な1日であったことは間違いない。