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風が吹いて木の葉が揺れる音が聞こえる。
夜になって周りがよく見えなくて、なんだか不気味さを感じた。
「今ここでレト王子の命を奪うこともできる」
「それは私が絶対にさせません」
レトの前に行って腕を伸ばして庇う。
しかし、シエルさんは座ったままで立つ気配がなかった。
「落ち着いてくれ。
事情が変わったから、今はレト王子にいて欲しいと思っている。
敵対するつもりもない」
どんな事情なんだろう。
トオルからも教えてもらってない。
「気が変わったとか。そんなことがあるのかい……?」
「レト、その辺にしておけ。
今は敵対していないんだからそれでいいだろ。
シエルがいなかったら、ルーンデゼルトの道が分からなかったんだからな。
揉めるようなことはしないでくれよ」
あれほど憎んでいたのに、今ではシエルさんの味方になっている。
どんな話をして和解したんだろう。
「セツナはシエルさんと仲良くなったんだね。
きっかけはなんだったの?」
「そっ……、そんなんじゃねぇよ」
「僕も……、今は信じるよ。
シエルは一緒に旅をする仲間なんだからね」
「…………」
レトは狙われていたというのに笑顔を向ける。
でも、シエルさんは冷静な表情をして口を紡いでいた。
三人の王子の本心が分からなくて、何か起きないか心配だった。
テントに行って寝袋に入っても落ち着かなくて、聞き耳を立てる。
しかし、歩き疲れていたこともあって眠ってしまった。
幸いなことにその何かは起こることなく、次の日の朝を迎えた。
出発する準備を終えてから、ルーンデゼルトの王子に会うために王都に向かって歩く。
森を抜けると急に草がなくなり、ベージュ色の細かい砂が一面に広がっていた。
「砂だらけで歩くのが大変なんだけど……。うわっ!?」
「かけら、大丈夫かい?
転ばないように僕に掴まって」
「そういうのは、恋人同士ですることなんじゃ……。恥ずかしいって……」
レトは腕を組むように私を引き寄せて離さなかった。
いつも節操がないと言ってやめるはずなのに、どうしてしまったんだろう……。
「おい、セツナ。まだ片方の腕が空いてるぞ」
「ったく、デートをするために来たわけじゃないんだぞ……。
しかし、ルーンデゼルトは砂しかないな」
「草も木も生えていない、動物もいない砂漠。
だが、一日中、夜空で太陽が出ないから暑くない。不思議な国だ」
シエルさんに説明されてから顔を上げてみる。
森を抜けたあたりまでは青い空、地面が砂だらけになったあたりから夜空に変わっている。
それなのに周囲は明るい。
恐らく、大きな月が出ているから真っ暗にならないのだろう。
神秘的な雰囲気を感じながら歩いているうちに、ベージュ色の石の壁で囲われた街に辿り着いた。
「ここがルーンデゼルトの王都だ」
旅をはじめてから、やっと四つ目の国に来ることができた。
ルーンデゼルトと和平を結べば、戦争を止めることができる。
よし、頑張ろう。
大きな門の前に行くと、ふたりの兵士が槍を持って立っていた。
もうすぐ戦争が始まるから警戒しているだろう。
さて、どうやって王都に入って王子と話をするか……――
「スノーアッシュの王族の者だ。
後ろにいるのは俺の仲間だから安心して欲しい。
ルーンデゼルトの王子に用があるから通らせてもらう」
シエルさんがそう言うと、兵士は会釈をして私たちの入国を許可してくれた。
「こんなに簡単に通してくれるものなのかい……?
僕たちは敵国の人間なのに……。
罠だったりしないよね?」
「ルーンデゼルトは、前の戦いで敗北して、今はスノーアッシュの支配下に置かれている」
「いつの間に……!?」
「もうすぐ王座を奪われるスノーアッシュ王の唯一の偉業といえるだろうな」
「つまり、シエルと一緒にいれば安心だってことだね」
「しかし、この国の決定権はまだルーンデゼルトにある。
和平を結ぶためには王子と交渉するしかない」
王都を歩いていると、石で造られた家が立ち並んでいた。
建物の外壁は街を囲む壁と色が統一されていて、遠くに見える城以外に目立つような建物がない。
そしてクレヴェンよりも外に出ている人が少なくて、淋しい街に見える。
「お待ちしてましたよ、かけらさん」
急に声を掛けられてビクッと肩が上がる。
足を止めて、声がした方に顔を向けると、白いワイシャツと黒いズボンの上にマントを羽織った男性が立っていた。
銀色の長い髪で顔立ちが整っており、切れ長の目をしている。
会ったことがないはずなのに、なぜ私のことを知っているんだろう。
「マントを外したその服装……。
よく見たことがあります。
もしかして、私と同じ世界から来たとか……?」