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#異世界転生
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『幽霊狩りのユメとヒバナ』第1話
第一章 幽霊が見える少女
街では最近、不思議な事件が続いていた。
夜になると街灯が一斉に消える。
誰もいないはずの公園から笑い声が聞こえる。
朝になると家中の家具が逆さまになっていたり、大切な物だけが消えていたりする。
警察にも原因は分からなかった。
人々はこう噂した。
「悪霊の仕業だ。」
しかし、その悪霊の姿を見られる者はほとんどいなかった。
──ただ一人を除いて。
⸻
小学六年生の少女、ユメ。
黒髪を肩まで伸ばし、青い瞳を持つ少しおとなしい女の子。
だけど、誰にも言えない秘密があった。
ユメには、小さい頃から幽霊が見えていた。
普通の人には何もない空間でも、ユメにはたくさんの霊たちが歩いている。
怖い霊もいれば、優しい霊もいる。
そのせいで友達から
「変なこと言う子。」
と言われ、だんだん一人で過ごすことが多くなっていた。
ある日の帰り道。
夕焼けに染まる神社の前で、ユメはふと足を止めた。
「……誰?」
鳥居の上に、一人の少年が座っていた。
真っ赤な髪。
燃えるような赤い瞳。
制服のような黒い服。
そして……
体が透けていた。
「やっと見つけた。」
少年はニヤッと笑う。
「お前、俺が見えるんだな。」
ユメは恐る恐るうなずいた。
「あなた……幽霊?」
「そう。」
少年は鳥居からふわりと飛び降りる。
「名前はヒバナ。」
「……。」
「よろしく。」
「よろしくって……」
ユメは一歩後ずさる。
「幽霊なの?」
「まあな。」
「成仏しないの?」
「したくてもできない。」
「どうして?」
その瞬間。
ヒバナの笑顔が消えた。
「……覚えてない。」
「え?」
「俺、自分がどうやって死んだか思い出せない。」
静かな風が吹いた。
神社の鈴がカラン、と鳴る。
その時だった。
ドン!!
地面が大きく揺れた。
「きゃっ!」
ユメが転びそうになる。
遠くの商店街から悲鳴が聞こえた。
「助けてー!!」
ヒバナはすぐに空を見上げる。
「来たな。」
「何が?」
「悪霊だ。」
黒い煙が商店街の空へ立ち上る。
煙の中から現れたのは、真っ黒な犬のような化け物。
目だけが真っ赤に光っている。
人々には見えていない。
でも、その悪霊は店の商品を吹き飛ばし、人々を転ばせ、街中を混乱させていた。
「普通の人には事故にしか見えない。」
ヒバナは言う。
「でも全部あいつらの仕業。」
「悪霊……。」
「放っておくとどんどん強くなる。」
ユメは震えながら聞いた。
「どうすればいいの?」
ヒバナは笑った。
「倒す。」
「え?」
「俺一人じゃ無理なんだ。」
「どうして?」
「幽霊は悪霊に直接触れられない。」
「え?」
「でも、お前は人間。」
「……。」
「しかも霊力がめちゃくちゃ強い。」
「そんなの知らない!」
「だから手伝え。」
「む、無理だよ!」
その時。
悪霊がこちらを向いた。
ギロッ。
真っ赤な目がユメを見つめる。
「しまった。」
ヒバナの顔色が変わる。
「ユメ!!」
悪霊が猛スピードで飛びかかってきた。
ユメは目を閉じる。
「いやぁぁぁ!」
その瞬間。
胸元で光が弾けた。
キィィィン!!
白い光が悪霊を吹き飛ばす。
「ギャアアアア!」
悪霊は煙となって消えていった。
静寂。
ヒバナは驚いた顔でユメを見つめていた。
「……すげぇ。」
「え?」
「やっぱり間違いない。」
「何が?」
ヒバナは少しだけ嬉しそうに笑った。
「お前なら、一緒に悪霊を倒せる。」
そして少年は手を差し出す。
「ユメ。」
「俺と一緒に、この街を守ろう。」
夕焼けの空の下。
少女は小さく息を吸い込み、その手を握った。
その瞬間から──
少女と謎の幽霊の、不思議な悪霊退治の日々が始まった。
──第一章・終わり──
第二章 最初の依頼
「俺と一緒に、この街を守ろう。」
ヒバナが差し出した手を、ユメはしばらく見つめていた。
「……私なんかに、本当にできるの?」
「できる。」
ヒバナは迷いなく答える。
「さっき悪霊を吹き飛ばしただろ。」
「でも、あれは偶然かも……。」
「偶然で悪霊は倒せない。」
ユメは小さく息をつくと、ゆっくりとうなずいた。
「……分かった。」
ヒバナはにっと笑う。
「契約成立だ!」
「契約?」
「相棒ってこと。」
その言葉に、ユメは少しだけ笑顔になった。
⸻
翌朝。
学校へ向かう途中。
「ヒバナ、学校までついてくるの?」
「もちろん。」
「でも、みんなには見えないんでしょ?」
「見えない。」
ヒバナは空中を寝転がるように浮かびながら答えた。
「先生の頭に紙飛行機乗せても誰も気づかない。」
「やめて!」
「冗談だって。」
「本当かな……。」
教室に着くと、ヒバナは窓際に座って外を眺めていた。
授業中も退屈そうにあくびをしている。
「人間って大変だな。」
「静かにして……。」
「聞こえないだろ?」
「私は聞こえるの!」
ユメは思わず小声で返事をしてしまう。
すると隣の席の女の子が不思議そうな顔をした。
「ユメちゃん?誰と話してるの?」
「えっ!?な、なんでもない!」
ヒバナは笑い転げていた。
「ぷっ……!」
「もう!」
⸻
放課後。
二人は商店街を歩いていた。
すると、小さな泣き声が聞こえた。
「……うぅ。」
ベンチに座る男の子。
小学一年生くらいだろうか。
「どうしたの?」
ユメが声をかける。
「お母さんにもらったお守りがなくなっちゃった……。」
男の子は泣きながら言った。
「探したけど見つからないの。」
ヒバナは辺りを見回す。
「ユメ。」
「うん。」
「悪霊の気配だ。」
「え?」
すると路地裏の奥で黒いモヤがゆらりと動いた。
その中には、小さな黒い影。
子どもほどの大きさの悪霊だった。
手には金色のお守りを握っている。
「盗んだんだ。」
ヒバナが言う。
「あいつは人の『大切なもの』を集める悪霊だ。」
「返してもらわなきゃ!」
ユメは路地へ走る。
悪霊はこちらを見ると、ケラケラと笑って逃げ出した。
「待って!」
商店街を抜け、公園を抜け、細い路地へ。
悪霊は壁をすり抜ける。
「ずるい!」
「俺が追い込む!」
ヒバナは空を飛び、一気に回り込んだ。
「こっちだ!」
悪霊は慌てて向きを変える。
その先にはユメ。
「止まって!」
もちろん止まるはずもない。
悪霊はユメへ飛びかかった。
「きゃっ!」
ヒバナが叫ぶ。
「右手を前に!」
ユメは反射的に右手を突き出した。
すると掌から白い光が放たれる。
「浄霊の光だ!」
光は悪霊を包み込む。
「ギャアアア!」
黒い煙が消え、悪霊は小さな白い光へ変わった。
その光は空へ昇っていく。
「……ありがとう。」
どこからか優しい声が聞こえた気がした。
「今の声……。」
「悪霊になる前の魂だ。」
ヒバナは静かに空を見上げる。
「救われたんだ。」
地面には金色のお守りが落ちていた。
ユメはそれを拾い、男の子へ返す。
「ありがとう、お姉ちゃん!」
男の子は満面の笑みを浮かべる。
「もう無くさない!」
走っていく後ろ姿を見送りながら、ユメは胸が温かくなるのを感じた。
「誰かを助けられるって……こんな気持ちなんだ。」
ヒバナは少し照れくさそうに笑う。
「今日は初仕事としては上出来だな。」
「えへへ。」
「でもな。」
ヒバナの表情が急に真剣になる。
「さっきの悪霊……誰かに操られてた。」
「操られてた?」
「普通の悪霊じゃなかった。」
その瞬間、遠くのビルの屋上。
黒いローブを着た何者かが二人を見下ろしていた。
「見つけた。」
低く、不気味な声。
「“光を持つ少女”と、“記憶を失った幽霊”。」
その人物の足元には、何十体もの悪霊が静かに集まっていた。
「ゲームを始めよう。」
夜風が街を吹き抜ける。
ユメたちはまだ知らない。
街で起きる怪事件の裏には、もっと大きな闇が潜んでいることを──。
──第二章・終わり──
第三章 封印された神社
翌日の朝。
ユメは昨夜のことが頭から離れなかった。
「光を持つ少女」と「記憶を失った幽霊」。
屋上にいた黒いローブの人物は、一体誰だったのだろう。
学校へ向かう道でも、何度もその言葉を思い返していた。
「おーい、ユメ。」
ヒバナがふわりと目の前に現れる。
「また考えごとか?」
「うん……。」
「そんな顔してると悪霊に隙を見せるぞ。」
「そういうものなの?」
「そういうもの。」
ヒバナは真面目な顔で言った。
「悪霊は、人の不安や悲しみに寄ってくる。」
ユメは少しだけ背筋が寒くなった。
⸻
その日の放課後。
神社の境内で待ち合わせをしていると、一匹の白いカラスが木の上に止まった。
「カラス……?」
しかし、そのカラスは普通ではなかった。
瞳は金色。
首には小さな鈴がついている。
カラン……
鈴が鳴ると同時に、カラスは一枚の古びた紙をユメの足元へ落とした。
「手紙?」
開いてみると、そこには一言だけ書かれていた。
『北の森へ来い』
「誰が書いたんだろう。」
ヒバナの表情が険しくなる。
「……嫌な予感がする。」
「行かないほうがいい?」
「いや。」
ヒバナはゆっくり首を振る。
「でも、絶対に俺から離れるな。」
⸻
夕暮れ。
二人は街の外れにある北の森へ向かった。
森は静かすぎるほど静かだった。
鳥の声も、虫の音も聞こえない。
「なんだか怖い……。」
「悪霊が近い。」
ヒバナは周囲を見渡す。
すると木々の奥に、小さな神社が姿を現した。
屋根は壊れ、鳥居は半分崩れている。
「こんな場所、知らなかった。」
神社の入口には、一本の古いしめ縄が張られていた。
そして中央には大きなお札。
そこには赤い文字で、
『封印を解くな』
と書かれていた。
「封印……?」
その時。
ドン!!
地面が大きく揺れた。
「きゃっ!」
神社の裏から黒い煙が噴き出す。
煙の中から現れたのは、人間ほどもある巨大な悪霊だった。
頭には二本の角。
真っ黒な腕。
真っ赤な目。
「グオオオオオ!!」
その咆哮だけで木々が大きく揺れる。
「今までの悪霊より大きい!」
ユメは思わず後ずさる。
「こいつは……!」
ヒバナの顔色が変わる。
「中級悪霊だ!」
「中級?」
「今までの何倍も強い!」
悪霊は地面を蹴り、一瞬でユメの目の前まで迫る。
「速い!」
ユメは横へ飛び、間一髪で攻撃を避けた。
ドゴォン!!
悪霊の拳が地面を砕く。
石畳が粉々に飛び散った。
「ユメ!」
ヒバナが叫ぶ。
「落ち着け!」
「でも!」
「力任せじゃ勝てない!」
悪霊は再び突進してくる。
ユメは深呼吸をした。
(怖い……。)
(でも……。)
(逃げたら、この街のみんなが危ない。)
ユメは目を閉じる。
その瞬間、胸の奥から温かい光が広がった。
「光よ……!」
右手を前へ突き出す。
白い光が一直線に走り、悪霊へ命中する。
しかし──
ドォン!!
「えっ!?」
悪霊は少し後ろへ下がっただけだった。
「効いてない!」
ヒバナが歯を食いしばる。
「まだ力が足りない!」
悪霊がゆっくり笑う。
「グルルル……。」
その時だった。
神社の奥から、美しい鈴の音が響いた。
リン……
リン……
神社の本殿の扉が、ひとりでに開いていく。
そこから一人の少女が姿を現した。
長い銀色の髪。
白い巫女装束。
透き通るような青い瞳。
しかし、その身体は少しだけ透けていた。
「幽霊……?」
少女は静かにユメを見つめる。
「光を持つ者よ。」
「え……?」
「あなたなら、この封印を守れるかもしれません。」
「あなたは誰?」
少女は小さく微笑んだ。
「私は、この神社を守る霊──シオン。」
その瞬間、悪霊が大きく咆哮を上げ、神社全体が激しく揺れ始めた。
ユメ、ヒバナ、そして謎の巫女の霊・シオン。
三人の運命が、この封印された神社で交わろうとしていた──。
──第三章・終わり──
第四章 シオンの試練
「私は、この神社を守る霊──シオン。」
銀色の髪を揺らしながら、巫女の霊・シオンは静かにユメたちを見つめていた。
その後ろでは、中級悪霊が低いうなり声を上げている。
「グルルルル……。」
ヒバナはユメの前に立った。
「ユメ、気をつけろ。」
「うん!」
シオンは悪霊を見つめながら、小さく息をついた。
「あの悪霊の名前は『岩鬼(がんき)』。」
「岩鬼?」
「何百年も前、この神社に封印された悪霊です。」
「そんな昔から……?」
「ですが最近、誰かが封印を弱めています。」
ユメは思い出した。
(黒いローブの人……。)
「あの人が……?」
シオンは静かにうなずいた。
「おそらく。」
⸻
岩鬼が大きく地面を踏みつける。
ドォォン!!
神社が大きく揺れ、鳥居にヒビが入った。
「まずい!」
ヒバナが叫ぶ。
「封印が壊れる!」
シオンは両手を合わせる。
「私が封印を支えます。」
青白い光が神社全体を包み込む。
しかし、その表情は苦しそうだった。
「……長くは持ちません。」
ユメはシオンのもとへ駆け寄る。
「私にできることは?」
「あなたの光の力を、封印へ流してください。」
「でも、どうやって?」
「心を落ち着かせて。」
シオンは優しく微笑む。
「誰かを守りたいという気持ちを思い浮かべるのです。」
⸻
ユメは目を閉じた。
家族。
友達。
この街。
そして──ヒバナ。
(みんなを守りたい。)
胸の奥が温かくなっていく。
両手から白い光があふれ出した。
「すごい……!」
ヒバナも驚く。
その光は神社のしめ縄へ流れ込み、切れかけていた封印が少しずつ元に戻っていった。
しかし──。
「グオオオオ!!」
岩鬼は怒り狂い、巨大な岩を持ち上げるとユメたちへ投げつけた。
「危ない!」
ヒバナが飛び出す。
「ぐっ!」
幽霊であるヒバナは岩を止められず、その体をすり抜けてしまう。
「ユメ!!」
岩が迫る。
その瞬間──
シオンがユメの前へ飛び出した。
「守ります!」
バリンッ!!
青い結界が張られ、岩は粉々に砕け散る。
しかし結界も砕け、シオンは苦しそうに膝をついた。
「シオン!」
「私は……大丈夫です……。」
だが、その体はさっきよりも透けていた。
⸻
ヒバナは拳を握る。
「もう見てるだけなんて嫌だ……!」
その瞬間、ヒバナの右手が赤く光り始めた。
「え……?」
炎のような赤い光が腕を包む。
「これって……。」
頭の中に、見たこともない景色が流れ込んできた。
炎。
燃え盛る神社。
誰かを守ろうとする自分。
「うっ……!」
ヒバナは頭を押さえた。
「思い……出せない……!」
その赤い炎が剣の形へと変わる。
「炎の剣……!」
ヒバナ自身も驚いていた。
「俺……こんな力が……?」
「ヒバナ!」
ユメの声が響く。
ヒバナは赤い剣を握りしめる。
「試してみる!」
勢いよく岩鬼へ飛び込む。
「はああああっ!!」
ズバァン!!
赤い炎の斬撃が岩鬼の腕を切り裂いた。
「グオオオオ!!」
初めて岩鬼が苦しそうな声を上げる。
「効いた!」
ユメが目を輝かせる。
ヒバナは驚きながらも笑った。
「どうやら俺にも戦う力があったみたいだ!」
⸻
その時だった。
森の奥から、誰かが二人を見つめていた。
黒いローブ。
金色に光る仮面。
その人物は小さく笑う。
「面白い。」
「光の少女は覚醒を始め、炎の幽霊は記憶を取り戻し始めたか。」
仮面の奥で赤い瞳が怪しく輝く。
「だが、本当の絶望はこれからだ。」
そう言い残すと、その姿は黒い霧となって消えていった。
一方、ユメたちはまだ知らなかった。
ヒバナの炎の剣こそが、彼の失われた過去へと続く大きな手がかりであることを──。
──第四章・終わり──
第五章 炎の記憶
夜の北の森。
岩鬼(がんき)は赤い炎の剣に傷を負い、大きく後ろへよろめいた。
「グオオオオオッ!」
怒りの咆哮が森中に響く。
ヒバナは赤い剣を見つめていた。
「俺が……こんな力を……。」
剣の炎は、まるで生きているように揺れている。
その温かさに触れた瞬間――
「……っ!」
ヒバナの頭に、知らない景色が流れ込んできた。
⸻
燃え上がる神社。
空を覆う黒い煙。
泣き叫ぶ人々。
「逃げろ!」
誰かの叫び声。
そして、自分とよく似た赤い髪の少年が、炎をまとった剣を握って立っていた。
その少年は、一人で何十体もの悪霊と戦っている。
「絶対に……封印は守る!」
その声は、まぎれもなくヒバナ自身のものだった。
しかし次の瞬間――
黒いローブの人物が現れる。
顔は見えない。
ただ、その人物が黒い手を伸ばすと、少年の胸に黒い光が突き刺さった。
「ぐあっ……!」
視界が真っ白になる。
「ヒバナ!」
ユメの声で、記憶は途切れた。
⸻
「大丈夫!?」
ユメが駆け寄る。
ヒバナは額に汗を浮かべながらうなずいた。
「少しだけ……思い出した。」
「本当に?」
「俺……昔、この神社を守ってた。」
シオンが驚いた表情を見せる。
「やはり……。」
「シオン、何か知ってるの?」
シオンは静かに目を閉じた。
「百年以上前、この神社には『炎の守護者』がいました。」
「炎の守護者?」
「悪霊から封印を守る特別な力を持つ人です。」
ヒバナは拳を握る。
「それが……俺?」
シオンは小さくうなずいた。
「ですが、その守護者は大きな戦いのあと、命を落としたと伝えられています。」
「じゃあ俺は……。」
「その魂が、今もこの世に残っているのでしょう。」
ヒバナは何も言えなかった。
⸻
その隙を狙い、岩鬼が再び襲いかかる。
「グオオオオ!」
巨大な拳が振り下ろされる。
「危ない!」
ユメはヒバナの腕をつかみ、とっさに横へ飛んだ。
ドォォォン!!
地面が大きくえぐれる。
「このままじゃ勝てない!」
ユメが叫ぶ。
シオンは神社の奥を指差した。
「あそこを見てください!」
本殿の前に、小さな石の台座があった。
その上には、丸い水晶が浮かんでいる。
淡い青色の光を放つ、美しい玉だった。
「あれは……?」
「霊結晶(れいけっしょう)。」
シオンが答える。
「人と霊の力を結びつける神聖な宝です。」
「どうすればいいの?」
「ユメさんとヒバナさん、二人で同時に触れてください!」
⸻
ユメとヒバナは顔を見合わせる。
「行こう!」
「おう!」
二人は全力で本殿へ駆け出した。
しかし、その前に岩鬼が立ちはだかる。
「邪魔だぁぁぁ!」
ヒバナが炎の剣を振るう。
ズバッ!
岩鬼の腕に再び傷が入る。
その一瞬の隙に、ユメは霊結晶へ飛び込んだ。
「ヒバナ!」
「今だ!」
二人の手が同時に霊結晶へ触れる。
キィィィィン――!!
まぶしい光が森全体を包み込んだ。
白い光と赤い炎が渦を巻き、一つになって空へ伸びる。
「これは……!」
ユメの体の周りには白い羽のような光。
ヒバナの体には赤い炎の翼。
二人の力が共鳴していた。
その瞬間、ユメの頭にも誰かの声が響く。
『光と炎がそろう時、封印の鍵は再び目覚める。』
その声は優しく、どこか懐かしかった。
しかし同時に、森の奥から黒い笑い声が聞こえる。
「ククク……。」
黒いローブの人物だった。
「やっと見つけた。」
その人物は不気味に笑う。
「『封印の鍵』が目覚めた。」
赤い瞳が、ユメとヒバナをじっと見つめる。
「さあ、もっと強くなれ。」
「そうすれば……すべてを奪う価値がある。」
その言葉を残し、黒い霧とともに姿を消した。
ユメは胸騒ぎを覚えながら、霊結晶を見つめる。
その光は、これから始まるさらに大きな戦いを予感させるように、静かに輝き続けていた――。
──第五章・終わり──
第六章 黒き仮面
北の森。
霊結晶(れいけっしょう)の光が静かに消え、森は再び夜の静けさを取り戻していた。
ユメは息を整えながら空を見上げる。
「さっきの人……。」
ヒバナも険しい表情で森の奥を見つめる。
「黒いローブのやつ。」
シオンは小さく頷いた。
「彼は……この百年、一度も姿を見せなかった存在です。」
「百年も?」
「ええ。」
その時だった。
ゴゴゴゴ……
突然、大地が揺れ始めた。
「また地震!?」
「違う!」
ヒバナが叫ぶ。
「来るぞ!」
森の木々が黒く染まり始める。
葉は枯れ、花は一瞬で散っていく。
「悪霊の瘴気(しょうき)……。」
シオンの声が震える。
空には黒い雲。
風まで冷たく変わっていく。
そして──
黒い霧の中から、一人の人物がゆっくり姿を現した。
黒いローブ。
金色の仮面。
赤く光る瞳。
「こんばんは。」
低く静かな声。
「初めまして。」
ユメは思わず後ずさる。
「あなたが……。」
「そう。」
男はゆっくり頷く。
「君たちが探している者だ。」
ヒバナは炎の剣を構える。
「何者だ!」
男は少しだけ笑った。
「名前など、今は必要ない。」
「なら勝手に呼ぶぞ。」
ヒバナは睨みつける。
「黒き仮面。」
男は楽しそうに笑った。
「好きに呼べばいい。」
⸻
突然、黒き仮面が右手を上げる。
「目覚めよ。」
ズズズズ……
森の地面から黒い影が次々と現れた。
一体。
二体。
十体。
二十体。
「こんなに!?」
ユメは息をのむ。
シオンも驚きを隠せない。
「こんな数……ありえません。」
悪霊たちは一斉にうなり声を上げた。
「グルルル……。」
「これは挨拶代わりだ。」
黒き仮面は静かに言う。
「私の軍勢を止められるなら、止めてみるといい。」
「ふざけるな!」
ヒバナは飛び出した。
炎の剣が赤く燃え上がる。
「はあああっ!」
ズバァン!!
一体を切り裂く。
しかし──
消えた悪霊は黒い霧となり、すぐに元の姿へ戻った。
「えっ!?」
「再生した!」
ユメが叫ぶ。
黒き仮面は肩をすくめる。
「無駄だ。」
「私の力が続く限り、彼らは何度でも蘇る。」
⸻
「なら!」
ユメは白い光を放つ。
「光の矢!」
何本もの光が悪霊を貫く。
五体、六体と消えていく。
だが数秒後。
また復活した。
「そんな……。」
ヒバナは歯を食いしばる。
「倒しても終わらない!」
黒き仮面は二人を見つめる。
「まだ君たちは弱い。」
「……。」
「だが、成長は予想以上だ。」
その言葉にユメは首をかしげる。
「予想……?」
「まるで私たちを知ってるみたい。」
黒き仮面は少しだけ黙った。
「もちろん知っている。」
「君も。」
「炎の守護者も。」
ヒバナの目が見開かれる。
「俺を知ってるのか!?」
黒き仮面は答えない。
ただ静かに右手を掲げた。
「今日はここまでだ。」
「逃がさない!」
ヒバナが追いかけようとした瞬間──
ドォォォン!!
巨大な黒い柱が地面から立ち上がり、二人の前を塞いだ。
「くっ!」
柱が消えた時には、黒き仮面の姿はどこにもなかった。
森には静寂だけが残る。
⸻
その時、シオンが小さくつぶやく。
「まずい……。」
「どうしたの?」
ユメが尋ねる。
シオンは神社の奥を見つめた。
霊結晶に一本の黒いひびが入っていた。
パキ……
「封印が……壊れ始めています。」
「え?」
「黒き仮面の狙いは、この神社だけではありません。」
シオンの表情はこれまでになく真剣だった。
「街にある五つの封印がすべて壊された時……」
「世界中の悪霊が解き放たれてしまいます。」
ユメとヒバナは息をのんだ。
「五つの……封印。」
二人の新たな戦いは、今まさに始まろうとしていた――。
──第六章・終わり──
第七章 五つの封印
朝日が街を照らし始めるころ。
ユメ、ヒバナ、シオンは北の森の神社を後にしていた。
神社を振り返ると、霊結晶のひびは小さいままだが、まだ消えてはいなかった。
「本当に大丈夫なの?」
ユメが心配そうに尋ねる。
シオンは静かにうなずく。
「今すぐ封印が壊れることはありません。」
「ですが……。」
その表情は暗かった。
「あと四つの封印が狙われれば、この神社も連鎖して崩れてしまいます。」
ヒバナは腕を組む。
「つまり、五つ全部を守らなきゃいけないってことか。」
「はい。」
⸻
神社の石段を下りると、一枚の古い地図が風に乗ってユメの足元へ落ちてきた。
「え?」
拾い上げると、それは今の街ではなく、何百年も前の地図だった。
赤い印が五か所に描かれている。
シオンは驚いたように目を見開いた。
「これは……『封印の地図』!」
「封印の地図?」
「歴代の守護者だけが持つことを許された地図です。」
ユメは地図を見つめる。
印がある場所は――
* 北の森の神社
* 海辺の灯台
* 古い時計塔
* 山奥の湖
* 街の中心にある時計広場
「全部、この街にあるんだ。」
「ええ。」
「悪霊たちは、この五つを狙っています。」
⸻
その時だった。
キーン……
ユメの胸が熱くなる。
「あっ……!」
地図の二つ目の印が赤く光り始めた。
「何これ!?」
シオンは息をのむ。
「封印が襲われています!」
「場所は?」
「海辺の灯台です!」
「行こう!」
ヒバナが走り出した。
三人は急いで海へ向かう。
⸻
海辺。
青い海には朝日がきらめいていた。
しかし灯台の周りだけは、黒い霧に包まれている。
「遅かったか……。」
ヒバナが剣を構える。
すると灯台の屋上から、一匹の黒い影が飛び降りた。
シュタッ。
その姿は、大きな狐だった。
漆黒の毛並み。
九本に分かれた長い尻尾。
金色の瞳。
口元には、不気味な笑み。
「ようこそ。」
低く落ち着いた声が響く。
「待っていたよ。」
ユメは驚く。
「しゃべった……。」
狐は優雅に頭を下げた。
「私は影狐(かげぎつね)。」
「黒き仮面様に仕える者。」
ヒバナは剣を向ける。
「お前が封印を壊そうとしてるのか!」
影狐はくすりと笑う。
「違う。」
「私は試しに来ただけだ。」
「試す?」
「君たちが、封印を守る資格を持つかどうか。」
⸻
影狐は尻尾を一本振る。
その瞬間。
周囲の景色がぐにゃりと歪んだ。
「えっ……?」
ユメたちの目の前に、もう一人のユメが立っていた。
「私……?」
さらに。
もう一人のヒバナ。
もう一人のシオン。
「分身!?」
ヒバナが驚く。
影狐は笑う。
「これは幻術。」
「倒すべき相手を見極められるかな?」
分身たちは、本物とまったく同じ姿、同じ声をしていた。
「ユメ!」
「ヒバナ!」
四人の声が同時に響く。
「どっちが本物!?」
ユメは混乱する。
「見分けがつかない……!」
その時。
ヒバナは小さく笑った。
「いや。」
「一つだけ違う。」
「え?」
ヒバナはユメを指差した。
「本物のユメは、困ってる人を見ると真っ先に助けようとする。」
すると、一人のユメが転びそうになったシオンへ駆け寄る。
もう一人は、その場から動かなかった。
「そっちが本物だ!」
ヒバナは迷わず炎の剣を振るう。
幻のユメは煙となって消えた。
「正解。」
影狐は少し驚いたように目を細めた。
「絆で見抜いたか。」
ユメは笑顔になる。
「私たちは、お互いを信じてるから。」
その言葉に、ヒバナは少し照れくさそうに笑った。
しかし、影狐の表情は一瞬で真剣になる。
「なら、次は本気で試そう。」
九本の尻尾が大きく広がり、黒い炎が海辺を包み込んだ。
灯台の光が消える。
海が荒れ始める。
そして影狐の背後には、巨大な黒い狐の幻影が現れた。
「ここからが、本当の試練だ。」
ユメたちは武器を構え、互いにうなずき合う。
海風が吹き抜ける中、新たな戦いの幕が静かに上がった――。
──第七章・終わり──
第八章 灯台に宿る光
荒れ狂う海。
空は黒い雲に覆われ、波は灯台の壁に激しく打ちつけていた。
影狐(かげぎつね)の九本の尻尾から、黒い炎がゆらゆらと揺れている。
「ここからが本当の試練だ。」
ユメは光の杖を握りしめた。
「みんな、気をつけて!」
ヒバナは炎の剣を構え、シオンは静かにお札を手に取る。
三人は円を描くように並んだ。
⸻
影狐は一本目の尻尾を振る。
「幻炎(げんえん)。」
ボォッ!!
黒い炎が地面を走る。
「来る!」
ユメは光の壁を作る。
バシィッ!!
炎は防がれたが、その直後――
「後ろだ!」
ヒバナが叫ぶ。
「えっ?」
振り返ると、そこにはもう一匹の影狐が立っていた。
「分身!?」
さらに右にも、左にも。
三体。
五体。
十体。
「全部本物に見える……!」
ユメは混乱する。
シオンは目を閉じた。
「落ち着いて。」
「悪霊は気配を隠せません。」
青い光がシオンの瞳を包む。
「本物は一体だけです!」
シオンが一点を指差す。
「あそこ!」
「任せろ!」
ヒバナが一直線に飛び込む。
「炎斬(えんざん)!!」
赤い炎が大きな弧を描いた。
ズバァッ!!
九体の影狐が煙となって消える。
最後に残った一体だけが後ろへ飛び退いた。
「見破られたか。」
影狐は初めて少し悔しそうな顔をした。
⸻
「今だよ!」
ユメは両手を前に突き出す。
「光の矢!」
何十本もの光の矢が空へ舞い上がる。
「行け!」
一斉に影狐へ降り注ぐ。
しかし――
影狐は尻尾を交差させた。
「影壁(えいへき)。」
ドォン!!
巨大な黒い壁が現れ、光の矢をすべて受け止めた。
「そんな!」
ユメは驚く。
「私の技が……。」
影狐は静かに笑った。
「君の力は強い。」
「だが、まだ迷いがある。」
「迷い?」
「誰も傷つけたくない。」
「だから光が弱くなる。」
ユメは言葉を失った。
確かに、悪霊であっても消してしまうことに少し怖さを感じていた。
その迷いを見抜かれていたのだ。
⸻
その時だった。
ヒバナがユメの肩を軽くたたく。
「ユメ。」
「え?」
「お前は優しい。」
「……。」
「だから俺は、お前を信じる。」
ヒバナは笑う。
「迷うことは悪いことじゃない。」
「でも、街のみんなを守るためなら。」
「俺たちは前に進むしかない。」
ユメはゆっくりとうなずいた。
「……うん!」
その瞳に、迷いはなかった。
⸻
突然、灯台の頂上からまぶしい光が降り注いだ。
キィィィン……
「これは!」
シオンが驚く。
灯台の中心に、小さな水晶が浮かんでいた。
「第二の霊結晶!」
ユメは思わず声を上げる。
しかし、その結晶には黒い鎖が巻きついていた。
「封印が汚されてる!」
影狐は結晶の前に立つ。
「あと少しで壊れる。」
「させない!」
ユメたちは一斉に走り出す。
その瞬間――
海の中から巨大な黒い影が姿を現した。
ザバァァァン!!
高さ十メートルはある黒い竜。
全身を海水と黒い霧が覆い、赤い目がぎらりと光る。
「なっ……!」
ヒバナは思わず息をのむ。
「こんなの聞いてないぞ!」
影狐は不敵な笑みを浮かべた。
「紹介しよう。」
「私の相棒――海竜・レヴィア。」
竜が大きく咆哮すると、海に巨大な渦が生まれ、灯台全体が激しく揺れ始めた。
「ユメ!」
「ヒバナ!」
シオンの叫びが響く。
三人は迫りくる海竜を見上げながら、それぞれの武器を強く握りしめた。
次の瞬間、海竜・レヴィアが大きく口を開き、漆黒の水流をユメたちへ放った――。
──第八章・終わり──
第九章 海竜の涙
ザバァァァァン!!
海竜・レヴィアが吐き出した漆黒の水流が、灯台へ向かって一直線に襲いかかる。
「光の壁!」
ユメは両手を広げ、白く輝く結界を作り出した。
ドォォォン!!
水流は結界にぶつかり、大きな水しぶきが上がる。
「くっ……!」
結界が少しずつひび割れていく。
「ユメ!」
ヒバナが駆け寄る。
「一人じゃ支えきれない!」
「でも……!」
その時、シオンが静かに前へ出た。
「私も力を貸します。」
青い光が結界に重なり、ひびがゆっくりと消えていった。
「ありがとう、シオン!」
⸻
海竜・レヴィアは大きく翼を広げる。
「グオオオオオッ!!」
その声だけで海が大きく荒れ始めた。
影狐は灯台の上から静かに見下ろしている。
「レヴィア。」
「彼らを試せ。」
海竜は大きくうなずいた。
まるで命令に従うように。
ユメは、その様子を見て違和感を覚える。
(なんだろう……。)
(海竜は本当に悪霊なの?)
⸻
ヒバナは炎の剣を強く握る。
「俺が道を開く!」
赤い炎が剣を包み込む。
「炎牙斬(えんがざん)!!」
巨大な炎の斬撃がレヴィアへ飛ぶ。
ドォン!!
レヴィアは体をよじってかわしたが、左の翼に小さな傷がついた。
「グアアッ!」
その瞬間だった。
ユメは海竜の目を見た。
赤い瞳が、一瞬だけ青く光った。
そして──
「……助けて。」
誰かの声が聞こえた気がした。
「えっ?」
ユメは驚いて辺りを見回す。
しかし、誰も話していない。
もう一度レヴィアを見ると、その瞳には苦しそうな悲しみが宿っていた。
「ヒバナ!」
「どうした?」
「この子……。」
「助けを求めてる!」
⸻
「何を言ってる!」
ヒバナは驚く。
「悪霊だぞ!」
「違う!」
ユメは首を振った。
「悪霊じゃない!」
「何かに操られてる!」
その言葉を聞いた影狐は、小さく笑った。
「気づいたか。」
「やっぱり……。」
「その竜は、もともとこの海を守る守護霊だった。」
「守護霊!?」
シオンも驚きを隠せなかった。
「そんな……。」
影狐は楽しそうに続ける。
「黒き仮面様の力で闇に染められた。」
「今は私の命令しか聞けない。」
レヴィアは苦しそうにうなり声を上げる。
「グルル……。」
その姿を見て、ユメは胸が締めつけられた。
⸻
「助けよう。」
ユメは静かに言った。
ヒバナは少し驚いた表情を見せる。
「倒すんじゃなくて?」
「うん。」
「この子は、本当は悪い子じゃない。」
ヒバナは少し黙ったあと、笑った。
「……分かった。」
「お前がそう言うなら信じる。」
シオンも微笑む。
「それが、光の守護者らしい選択ですね。」
⸻
ユメはレヴィアへ向かって歩き出した。
「危ない!」
ヒバナが止めようとする。
しかしユメは止まらない。
「レヴィア!」
海竜の巨大な瞳がユメを映す。
「あなたは戦いたいんじゃないよね?」
レヴィアの体が小さく震える。
「苦しいんだよね?」
海竜の赤い瞳から、一粒の青い涙がこぼれ落ちた。
ポタリ……
「やっぱり……!」
ユメは光の力を両手に集める。
「お願い。」
「あなたを助けさせて!」
その瞬間、レヴィアの胸に浮かんでいた黒い紋章が、ぼんやりと姿を現した。
シオンが息をのむ。
「あれは……闇の呪印(じゅいん)!」
影狐の笑みが深まる。
「さあ、見せてもらおう。」
「その光で、呪印まで浄化できるのか。」
黒い紋章は禍々しい光を放ち、レヴィアは苦しそうに咆哮した。
「グオオオオオッ!!」
灯台が大きく揺れ、海はさらに荒れ狂う。
ユメはレヴィアへ向かって、一歩、また一歩と進み続けた。
──第九章・終わり──
第十章 光と炎の誓い
激しい雨が降り始めた。
黒い雲が空を覆い、荒れ狂う海が灯台へ何度も打ち寄せる。
海竜・レヴィアの胸には、黒い呪印が不気味に光っていた。
「グオオオオオッ!!」
苦しそうな叫びが海へ響く。
ユメは一歩前へ進んだ。
「レヴィア!」
「もう少しだけ頑張って!」
レヴィアの赤い瞳が一瞬だけ青く揺れる。
「……た……す……け……。」
かすれた声が聞こえた。
「ヒバナ!」
ユメが振り返る。
「呪印を壊せば、この子は助かる!」
ヒバナは炎の剣を握り直した。
「分かった!」
「俺が道を作る!」
⸻
「影狐!」
ヒバナは影狐へ飛びかかる。
「ここは俺が相手だ!」
影狐は静かに笑った。
「一人で私に勝てると思うか?」
九本の尻尾が一斉に広がる。
「影炎乱舞(えいえんらんぶ)。」
何十本もの黒い炎が空を埋め尽くした。
ヒバナは炎の剣で次々と切り払う。
「はあああっ!」
ドン!
バン!
黒い炎と赤い炎がぶつかり合い、辺りが昼のように明るくなる。
しかし、影狐はほとんど動いていない。
「まだ甘い。」
ヒバナは押し返され、地面を転がった。
「くっ……!」
⸻
その間に、ユメはレヴィアへ近づく。
「大丈夫。」
「今、助けるから。」
ユメはそっとレヴィアの胸へ手を当てた。
黒い呪印から冷たい力が流れ込んでくる。
「うっ……!」
体中が凍るように冷たい。
それでもユメは手を離さなかった。
「光よ……。」
胸の奥から、白い光があふれ出す。
その光は優しくレヴィアを包み込んだ。
しかし──
バチィッ!!
呪印が光をはね返す。
「きゃあ!」
ユメは後ろへ吹き飛ばされた。
⸻
「ユメ!」
ヒバナが駆け寄ろうとする。
だが影狐が立ちはだかった。
「行かせない。」
「どけぇぇぇ!」
ヒバナは炎の剣を振り下ろす。
影狐も黒い炎の刀を作り出した。
ガキィィン!!
激しい火花が散る。
「面白い。」
影狐は笑う。
「その炎……やはり炎の守護者の力。」
「なら、もっと本気を見せろ。」
ヒバナは歯を食いしばる。
(もっと……。)
(もっと強く……。)
その時だった。
ユメの声が聞こえた。
「ヒバナ!」
「私は大丈夫!」
「一緒に戦おう!」
その言葉を聞いた瞬間、炎の剣が今まで以上に赤く輝いた。
ゴォォォォ!!
炎は空高く燃え上がる。
「これが……俺の力!」
⸻
シオンは灯台の頂上へ駆け上がっていた。
「霊結晶を守ります!」
青い結界が灯台全体を包む。
そのおかげで荒れていた海が少しだけ静かになった。
「今です!」
ユメとヒバナは同時にうなずく。
「いくよ!」
「おう!」
二人は同時に飛び出した。
ユメの光。
ヒバナの炎。
二つの力が空中で一つになっていく。
「光炎共鳴(こうえんきょうめい)!!」
白と赤の光が大きな翼となり、二人の背中に広がった。
影狐は初めて驚いた表情を見せる。
「これは……!」
二人は一直線にレヴィアへ向かう。
「届けぇぇぇ!!」
光と炎が呪印へぶつかる。
キィィィィィン!!
まぶしい光が灯台を包み込む。
「グオオオオ……!」
レヴィアの胸の呪印が少しずつ砕けていく。
パリン……
パリン……
そして最後の欠片が砕け散った。
ドォォォン!!
黒い霧が空へ吹き上がる。
レヴィアの瞳は、美しい青色へ戻った。
「ありがとう……。」
優しい声が海に響く。
荒れていた波は穏やかになり、雲の切れ間から夕日が差し込んだ。
⸻
影狐は静かに目を閉じた。
「試練は終わりだ。」
「え?」
ユメが驚く。
影狐は戦う気配を消していた。
「君たちは封印を守る資格がある。」
「でも、お前は敵じゃ……。」
影狐は首を振る。
「私は黒き仮面に従っている。」
「だが、心まで従った覚えはない。」
ヒバナが剣を下ろす。
「どういうことだ?」
影狐は少しだけ寂しそうに笑った。
「いつか分かる。」
「その時まで、生き延びろ。」
そう言うと、影狐は黒い花びらとなって夜空へ消えていった。
⸻
レヴィアはゆっくりと空へ舞い上がる。
「光の守護者、炎の守護者。」
「ありがとう。」
レヴィアの涙が一粒、灯台の霊結晶へ落ちた。
すると、ひび割れていた霊結晶は元通りになり、さらに強く輝き始めた。
シオンはほっと息をつく。
「第二の封印は守られました。」
ユメは笑顔でヒバナを見る。
「やったね!」
ヒバナも笑って拳を差し出した。
「もちろん。」
ユメも拳を軽く合わせる。
コツン。
「これからも、一緒に戦おう。」
「うん!」
「約束!」
夕日に照らされた二人の影は、灯台の上で一つに重なった。
しかしその頃――。
街のどこかにある古い時計塔。
黒き仮面は静かに空を見上げていた。
「第二の封印も守られたか。」
その背後には、さらに強大な悪霊たちが並んでいる。
「ならば次は――。」
「第三の封印を壊す。」
赤い瞳が妖しく輝く。
新たな戦いは、もう始まっていた。
──第十章・終わり──
第1話 完
コメント
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読了! 第1話からもう長編のような厚みがあるのにびっくりしました。 ユメとヒバナ、正反対のようでいてどちらも「誰かを守りたい」っていう根本の優しさが通じ合ってるのがいいですね。 特に第八章〜第十章の灯台編は、ただ倒すんじゃなくて「操られていた守護霊を救う」という選択にユメがこだわったところが光ってました。 影狐の「心まで従った覚えはない」という台詞も好きです。 伏線の置き方が巧みで、まだ明かされていないヒバナの過去や黒き仮面の正体にすごく引き込まれました。 このまま歪みのない世界観を保って、また続きを読ませてください! 次回も楽しみにしてます。