テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
side mtk
僕のアイスを齧る音だけが、静かな部屋に響く。
ふと気づけば、さっきまで話していたリヴァさんが、急に黙り込んでいた。
マイク越しに、ゆっくりと息を吸う音が聞こえる。
「……この前の件なんですけど」
少し間を置いて、声が続く。
「……わたしも、会いたいです。会って……お話し、したいです」
嬉しいのに、急に心臓が早くなって、言葉が出てこない。
「……ありがとう。……うれしい」
マイクの向こうで、小さく笑う声がした。
その後、会う約束をとりつけ、いつもみたいに他愛のない話をして通話を切った。
リヴァさんは都内に住んでるらしい。
とりあえず、集合しやすそうな駅の路地裏にあるカフェで会おうという話にまとまった。
翌日、スタジオに向かう足取りは、いつもよりずっと軽かった。
打ち合わせ室に入るなり、若井がニヤリと笑う。
「で? 会う約束、できたの?」
「……うん。明日、会う」
短く答えた瞬間、案の定ふたりの顔がパッと輝く。
「おおーっ!ついにか!」
若井が大げさに手を叩き、涼ちゃんは口元を押さえて笑った。
「よかったじゃん〜。でもさ、その子ファンとかじゃないよね? 身バレしたら危ないんじゃない?」
笑いながらも、涼ちゃんの声は少し真面目だった。
「話してる感じ、バレてないと思うよ」
そう答えたけど、胸の奥にはほんの少しだけ緊張が残っていた。
待ち合わせ場所は、駅近の小さな個室カフェ。
表通りから一歩奥に入っただけで、街のざわめきが遠のく。
店内は照明を落としていて、ほんのり橙色のランプが壁際を照らしている。
外の喧騒とは別世界の、静かな空気。
早めに仕事を切り上げてきた僕は、約束の18時より少し前に個室に案内され、アイスコーヒーを前に腰を下ろした。
──落ち着こうとしても、指先が妙に落ち着かない。
カップを持つ手に、ほんのり汗が滲む。
ノックの音に、心臓がひとつ跳ねた。
店員の後ろから入ってきた女性を見た瞬間、胸が一気に熱くなる。
儚げで、触れたら壊れてしまいそうな雰囲気を纏い、どこか影を帯びた佇まい。
──とてもじゃないけど、戦場のヴァルキリーなんて呼べる空気じゃない。
けれど、その瞳の奥にある静かな光が、不思議と僕の胸を落ち着かせた。
「……はじめまして」
わずかに揺れる声。
それでも、まっすぐ僕を見据えてくるその眼差しが、スクリーン越しでしか知らなかった距離を、一瞬でゼロにした。