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その後の5日間は、順調そのものだった。
王国軍の兵士と何回か交戦はしたものの、そんなことは些細なことに過ぎない。
――いやぁ。開き直るって、大切なことだよね!!
「アイナ様、クレントスにもあと2日のところまで来ました。
反王政、革命……。兵士たちからはいまいち情報が得られませんでしたが――」
馬車を走らせながら、ルークが心配そうに話し掛けてきた。
「そうだね。アイーシャさんは無事かなぁ……。
それにルイサさんにケアリーさんに、アーサー君に、ロナちゃん……。
……ヴィクトリアは、無事じゃなくても良いや」
「あー、例の……」
ヴィクトリアの名前を出すと、エミリアさんがそんな反応をした。
二人で話をしたとき、たまにその名前を上げていたのだ。
「アイーシャさんたちが勝てば、ヴィクトリアもどうにかするでしょうけど……逆も然り、なんですよね。
なので、私たちは迷わずアイーシャさんの方に付きます!」
「そうですね、それが良いです!
……でも、クレントスの方は大丈夫なのでしょうか。避難をしているような人も、今のところ見掛けていませんし……」
「呪星ランドルフは『決着が付きそうだった』って言ってましたけど――
……うーん、早期決着みたいな感じだったのかな?」
……状況は何も分からない。
だから今は、馬車の馬に頑張ってもらうしか無いのだ。
「ところでアイナ様。
私たちはクレントスに向かっていますが、直接『神託の迷宮』に進むこともできます。
先に、どちらへ向かいますか?」
「悩ましいよね……。
……ちょっと寄ってみて、街に入れそうならクレントスにする? ダメそうなら、『神託の迷宮』に行く……みたいな感じで」
「分かりました。まずはクレントスに向かいます」
「うん、よろしくー」
馬車に揺られながら、私は引き続き外を眺めていた。
雲はほとんど無く、空には綺麗な青色が広がっている。
……寒くはあるけど、体感としてはそこまで寒くは感じないかな?
「そういえば」
「はい?」
唐突に、エミリアさんが声を掛けてきた。
「あの、こんなことを聞いても良いのか……というか。
もしアレでしたら、答えて頂かなくても良いんですけど……」
「えーっと? 何でもどうぞ?」
彼女にしては珍しく、何やら話し難い様子。
それでも少し考えてから、慎重に……といった感じで切り出してきた。
「アイナさん、『疫病の迷宮』を作ったじゃないですか。
わたしも見たんですけど、黒い霧のようなものがずっと出続けていて……」
「ああ……、はい」
なるほど、さすがにその話はしにくいか。
私の『やらかしちゃった案件』の最たるものなのだから。
「……あれってとても危険だと思うんですが、今もあのままなのでしょうか……。
疫病、広まったりしませんか?」
確かにその心配はごもっともだ。
しかし最低限、『出続ける』という観点では大丈夫なはず――
「一応ですね、無差別に疫病を広める気はなかったので、ちょっと設定はしておいたんですよ。
数時間もすれば、入口は閉じたと思います」
「あ、そうなんですね。安心しました!」
「ただ、周辺の地域に疫病が広がっている可能性もあるので、私たちの都合が良くなったら一度訪れてみたいですね。
特効薬は作れるから――……って、素材がもう無いんでした……」
「あはは、それは大丈夫でしょう。
アイナさんには資金力がありますから!」
……まぁ確かに、グランベル公爵に『増幅石』を売ったときのお金がまだまだあるけど……。
でも――
「素材が貴重なんですよ。
『疫病のダンジョン・コア』を使っちゃったから、代わりの素材が無いと難しい……って感じで。
そこら辺では売ってないものだし……」
「え、そうなんですか!?
ちなみにその素材って、何ですか?」
「『ガルルン茸』です」
「むぅ、何だか懐かしい名前が……。さすがにそれは売ってませんよね。
でも『ガルルン茸』なら、以前ガルーナ村に送っていませんでしたっけ?」
「はい、ガルーナ村でちゃんと育ててくれていれば良いんですけど……。
育ててなければ……どうしようかな……」
そう言いながら、私は以前の鑑定結果を宙に映し出した。
──────────────────
【ガルルン茸】
突然変異によって生まれたキノコ。
疫病への抵抗力を上げる薬を作ることができる
──────────────────
そもそも『ガルルン茸』は、ガルーナ村の周辺で生まれた可能性が高い。
私が送ったものが仮に届いていなくても、もしかしたらまた手に入るかもしれないけど――
……何せ、突然変異……だからなぁ。
あれが最初で最後の1つだったかもしれないし……。
「まぁまぁ。
量が足りなくても、きっとガルルン神が奇跡を起こしてくれますよ」
「はぁ……。
そんな奇跡まで起こしてくれたら、信仰を広めても良いかもしれませんね。
私はやる気ないので、エミリアさんよろしくお願いします」
「おぉー、わたしが法王様ですか! 良いですね、やりましょう!!」
……あれ? 以前は断られたんだけど……。
もしかして、ルーンセラフィス教と距離を置いたからかな……?
……でもやっぱり、彼女は聖職者としては在りたいんだな。
きっとそれが、彼女の生きる道なのだろう。
「そ、そうですね……? でも、いろいろと落ち着いてからにしましょう……」
「はい、楽しみです!」
そう言いながら、エミリアさんは良い笑顔を私に見せてくれた。
それはそれとして、目標があるのはやっぱり良いことだ。未来が潤うというか、明るくなるというか。
「――うーん……。それなら、私も目標が欲しいですね。
神器は今後も作っていくのですが、それ以外に、もう少し身近なやつを」
「錬金術以外ですか?」
「はい。スキル頼みではありますけど、錬金術はぶっちゃけ極めている状態なので。
私、剣術とか魔法をやってみたいんですよ」
「剣術、ですか?」
その単語に反応して、ルークが聞いてきた。
「ほら。私は魔法を少し使えるようになったけど、戦闘はまだまだでしょう?
そもそも体力が無いし、攻撃されたときにはエミリアさんの魔法頼りになっちゃってるし」
「ふむ……。体捌きをどうにかしたいなら、杖術という手もありますよ。
アイナ様は剣よりも、杖の方が馴染みがあると思いますし」
「……杖術!!」
何だか渋くて格好良い!
武器自体はメジャーだけど、扱い方がマイナーっていうか?
「確かに、アイナさんは剣よりも杖って感じですよね。
杖で身を護って、魔法や錬金術で攻撃をしたら、凄くアイナさんっぽいです!」
「……私っぽい!!」
そう言われると、その方向に気持ちがなびいてしまう。
うーん、何だか凄く良さそう……。でも、イメージだけで決めちゃって良いのかな……。
……まぁ、その辺りは時間ができたときにしっかり考えよう。
まずは、目先の日々をどうにかしないとね。
「ちなみに、ルークさんはどうですか? これからの目標!」
「私は……そうですね。
剣術を極めるために、引き続き修練を重ねるのみです」
「ああ、さすがにルークはね……。
ここまできたら、剣術を極めたいよね……」
「はい。そして世界一の冒険者になって見せましょう。
あとは――……いずれは、アイナ様とエミリアさんと一緒に、もっと色々な冒険をしてみたいものです」
「……冒険かぁ。良い響きだね。
今までも、冒険と言えば冒険だったけど――」
「世界はまだまだ広いですからね!
行っていないダンジョンもたくさんありますし、そもそも『循環の迷宮』も6階までしか行ってません!
この国以外にもたくさんの国があります。まだまだ知らない場所がいっぱいですよ!!」
「そうですね。それも面白いなぁ……。
それじゃ、これは三人の目標にしておきますか」
「はい!!」
「楽しみですね」
――三人の目標。
その言葉を思い描くだけで、何だかとても楽しくなってしまった。
陰鬱な日々が長かったけど、これからは明るい日々を歩んで行こう。
そのためには、目の前の現実をひたすら打破していくだけ。
大変なことは色々あると思うけど、最終的には何とかなるだろう。
……かなり楽観的だ。でも、きっとそうなるはずだ。