異星人対策室のジョン=ケラーだ。ティナからの連絡を受けた後は多忙を極めた日々を送っている。
毎日のように開かれる会議に出席しながら、どの様な歓迎をするか頭を悩ませていた。
一部の強硬派の動きは大統領が抑えてくれたので、友好的な対応を行うことで方針が決定したのは幸いだった。どう考えても武力を背景とした交渉は悪手だ。
そんな日々を過ごしていたのだが、突然ティナからメッセージが届いたのだ。しかも私宛に、である。
何故私個人なのか、彼女なりの配慮を嬉しく思うが同時に胃がキリキリと締め付けられる気分だ。
内容としては前回同様木星付近に居ること、一週間後には地球の衛星軌道まで移動することが記されていた。
また小型の宇宙船でやって来たので、驚かないでほしい等の要望もあった。
確かに道理だ。見た目がどんな形なのか分からないが、まかり間違って攻撃などしては大事になる。だが、同時にこれは我が国だけで出来ることではない。少なくとも大陸弾道弾を持つ国全てが足並みを揃えなければ実現は不可能だ。
その事を大統領に報告、会議でメッセージの内容についても議論することになった。
「これは……少なくとも世界の主要国の大半と情報を共有するしかないな」
「幸い彼方が指名したジョンは我が国の人間です。他国に対しても優位は変わらないでしょう」
大統領と補佐官が深刻な顔をして話を進めている。既に各国首脳にはそれとなく異星人関連の情報を流している。統合宇宙開発局から漏れた情報もあるが……当分の間ロケット等の使用禁止に応じてくれるだろうか?
間違いが起きてはいかんが……我が国との友好国ならば良いが、今も対立関係にある某国等がそれを受け入れるか。受け入れるにしてもどんな条件を提示されるか。考えだけでも頭が痛いな。
「誠心誠意伝えるしかあるまい。異星人の来訪と言う地球全体に関係がある問題なのだ。むしろこの程度の問題すら解決できないようでは、異星人との交流など夢物語だよ」
方針が決まって数日、ティナから提示された日まで3日と言うところで何とか話はまとまった。
外交部の話によると、某国等は見返りとして最初の来訪地を自国にして交渉の優先権まで要求したそうだ。
だが、ティナが私個人に宛てたメッセージが功を奏したらしい。交渉権は私にあり、そして私がアメリカ人であるから必然的に最初の来訪地はアメリカであると半ば強引に決めたそうだ。
……胃が痛い。私はいつの間にか世界的な重要人物にランクアップしていたようだ。勘弁してほしい。私は仕事終わりのビールを楽しみにしている程度の小市民だぞ!?
余談だが、某国から国籍を移さないかとお誘いが来て戦慄したよ。多額の報酬まで提示されたが、こんな駆け引きはごめんだ。
直ぐに上に報告したら、FBIやらCIAのエージェントらしき護衛がつくようになってしまった。しかも日常を制限されてしまったよ。
いや、必要なことか。異星人の来訪などと言う前代未聞の事態、その渦中に私は居る。
だが、ティナと進んでメッセージのやり取りをしたのは私だ。全ては自己責任。ならば最後まで頑張るしかあるまい。
……心労で私の頭髪はまるでサバンナのようになってしまったがね。
期日は迫っているが、取り敢えず地球側が攻撃を仕掛けると言う不測の事態を回避できたのはありがたい。次に歓迎についてなのだが、ここでも問題が発生した。
あるSF映画では拍手喝采と鳩を飛ばす行為は宣戦布告に当たると言う描写がなされていた。
いわゆるB級であり見た当時は笑ったものだが、現実問題となれば笑えない。地域で文化の違いがあるのは当たり前。アメリカ人に日本人のハラキリ文化がないようにね。
相手は異星人、どんな対応が命取りになるのか分からないのだ。ではどうするか。幸いティナは木星付近に居るらしい。ならばメッセージのやり取りも可能な筈。
皆に急かされながら私はティナにメッセージを送った。文化的に禁忌に当たる行為は避けたかったから素直に質問したのだ。
『地球式の歓迎で構いませんよ?ただ、あんまり派手なのは苦手なので……出来れば控え目にお願いします』
『もちろんだ。君の要望は最大限叶えるつもりだよ。こちらへは船で来るんだろう?楽しみだ』
『小さな船だからガッカリさせてしまうかもしれませんね』
ついでだから、地球での日程について話し合うことにした。もちろんスケジュールはティナに合わせるつもりだが……。
『記者会見、ですか?』
『大統領の強い要望でね。残念ながら2ヶ月前の出来事を完全に隠すことは不可能だ。混乱を抑える意味でも、正式に君を地球の客人として紹介したいのだが……』
「感触は良くないな」
「何らかの禁忌があるのだろうか?」
完全な部外者から見れば中年男が年頃の女の子とメッセージのやり取りをしていて、その様子を大勢の老若男女が観察していると言う非常にシュールな絵になる。
10分ほどして返信が来た。
『分かりました。私からも地球の皆さんにお伝えしないといけないことがあります』
『ありがとう。出来れば良い知らせだと嬉しいんだが』
『悪い知らせになるかもしれません。どちらかと言えばお願いかな』
『穏やかな話じゃなさそうだ』
『あっ、もちろん皆さんを傷つけようだとかそんな話ではありませんよ!?』
『ああ、分かっているよ。君の事だ、きっと大切なことなんだろう。ちゃんと大統領に伝えて、記者会見の最中に時間を作るよう取り計らうよ』
『ありがとうございます、ジョンさん』
それから数日、準備に邁進していた私達だが遂に約束の期日となった。
そしてマーシャル宇宙センターにISS国際宇宙ステーションから急報が届いた。駐留している宇宙飛行士達は大騒ぎで、直ぐに写真のデータが送られてきた。
そこに写し出されていたのは全長150メートル、最大幅50メートル、高さも30メートルを越える巨大な宇宙船だった。
ティナ、ISS以上に巨大な物体は小さいとは言わないよ……?
皆が大騒ぎする中、私は愛用している胃薬を口へ流し込んだ。
……胃が痛い……誰か助けて……。
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