メイクを終えて部屋へ戻ると、汗の引いたらしい彼が着替えていた。
シャツを着るだけの仕草にも、ついつい見とれちゃうから困る……。
だって、剥き出しの腕が衣擦れの音とともに袖にスルッと通されるのが、なんだかたまらなくエロティックにも見えて……。
って、私ってば何を考えてるんだろうと、一人どぎまぎしていると、
「……いくだろう?」
不意に貴仁さんから、そう声をかけられた。
「えっ? 行くって、どこにですか?」
ぽぅーっとしていたためによく意味がわからずにいると、片方の腕のみにシャツを纏い、一方は肩に掛けただけの恰好で、彼が振り向いてフッと微笑みかけた。
ああ、そんな色っぽい姿で微笑むとか、ほっんとうに目の毒ですからー……。
赤くなってうつむくしかない私に、
「朝食をとっていくだろう? と、君に訊いたんだ」
近づいて来た彼が笑顔のままで言い、「あ、ああ、はい」と頷いた瞬間に、シャツが彼の肩からはらりと滑り落ちて、
ふしゅー……と、それこそ顔から湯気でも出るかと思った……。
──貴仁さんって、全く自覚もなくほんと色気があり過ぎやしませんか?
「そうだ、これを……」
テーブルに置いたリングケースを彼が開けると、私の手を取り指輪を左手の薬指に嵌めてくれた。
「ありがとうございます……」
改めて面はゆく感じていると、指輪の嵌まった手に淡いキスが落とされた。
「昨日も伝えたように、もらってくれてありがとうと言いたいのは、私の方だから。指輪、君にとても似合っている……」
「あ……ありがとうございます」
それしか言葉にならなくて、同じようにくり返すと、口づけられた指先がじんと疼くのを感じた。
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