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食堂へ彼と連れ立って行き、共に席に着いた──。
「おはようございます。昨夜はよく眠れましたか?」
源治さんからそう声をかけられて、「はい」と頷く。
「それは、ようございました。坊っちゃまが、女性の方をここへ泊められるのは初めてでして。今まで幾度かは、女性とのお付き合いもあったようですが……、」
源治さんが、そこまで話したところで、貴仁さんが軽く咳払いをして、
「いいから、もうそれくらいにしといてくれないか……」
と、決まりが悪そうに口にした。
「これは失礼を。ですが私も、旦那さま亡き後、坊っちゃまの今後をご心配しておりまして」
「それはよくわかっている。だが私ももう子供ではないのだから、そういった気づかいは無用だ。……それと、坊っちゃまではなくと、何度も言っているだろう」
「度々申し訳なく、貴仁坊っちゃま……って、あ……」
源治さんが、ハッとした顔つきで口に手を当てると、
「まったく、本当に……」
と、彼が苦笑を浮かべた。
傍らで二人のやり取りを聞いていて、ついクスッと笑みを漏らすと、貴仁さんもふっと顔をほころばせ、釣られるように源治さんも頬を緩ませて、三人で顔を見合わせ思わず笑ってしまった。
食事は、朝からもったいないくらいのお料理の数々で、焼きたてのクロワッサンに、おろしチーズがたっぷりとかかったシーザーサラダ、ふわっふわのオムレツとソーセージの盛り合わせに加え、生ハムメロンまでが出されて、本当にお腹がいっぱいになった。
「とってもおいしかったです。ごちそうさまでした」
「満足してくれたのなら、よかった」
彼から穏やかな笑みが向けられる。
「はい、大満足です!」と、笑顔で返して、ナプキンで口元を拭っていると、
「あっ、お嬢様それは……!」
何かに気づいたらしい源治さんから、唐突に呼びかけられた。
「えっ、何でしょうか?」
不思議に思って訊き返すと、
「その、指輪は……!」
ナプキンを持った私の手に、源治さんの目が釘付けになっていた。
「あっ、ああそれは、私の方から渡したんだ……彼女に」
説明しようとすると、私より先に貴仁さんが口を開いた。
「まさか……、坊っちゃまが直接に贈られたのですか?」
「だから、そうだと……」
話している彼の耳がなぜだか仄かに赤くなっているようにも感じられて、この指輪にはお母さまの形見以外にも何か謂われでもあるのかなと、ひとり首を傾げた。