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大統領官邸。そこで働くワン・ゼンコウは悩んでいた。
「最近、大統領の様子がおかしい……」
彼が怪しむのも無理はない。普段から無駄遣いをしない大統領が先月、財布を見てため息を吐いていたからだ。そして、国家機密として意図を一切伝えることなく建設工事を命令したり、研究を進めたりしているのだ。これまでの大統領であればそんな事はしなかった。
「おい、ゼンコウ!大統領の客人が来られた。いつもの部屋にご案内してくれ」
同僚のライがゼンコウに話しかける。
「わかったよ」
玄関に向かうとそこにはいつもの何人かもわからぬ男3人が待っていた。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
「あぁ」
「お邪魔しま~す!」
「失礼する……」
彼らをいつもの部屋に案内する。すると大統領がやって来る。
「おう、ゼンコウ。ご案内ありがとう。ではここまででいい、下がってくれ。私が出るまで誰も入らないように」
「かしこまりました」
私は扉を閉めて部屋を後にする。
「はぁ~」
これが我々の最近の仕事である。ただ、見知らぬ客人を案内するだけ。相手の素性は一切教えてもらえない。なぜ、こんなことになったのか。それはあの日。ちょうど今から2週間前の2020年7月5日、例の客人たちがここにやって来てからだ。あれからと言うもの大統領はほぼ毎日、例の客人と密室で何かを話している。そして夜には自身の家に彼らを泊めているなんて話もある。何もわからないが明らかにあの客人にあってから大統領は変わったのだ。
「はぁ~」
「おいおい、ゼンコウどうしたんだよ?」
「ん?いやお前は何とも思わないのかよ、ライ」
「あぁ大統領の事か?まぁ明らかに最近様子がおかしいけども俺たちに対しては何も変わらないぜ?」
「そうだけどさ……」
休憩室でゼンコウとライが大統領に対して不信感を抱いている頃、会談室では……。
「大統領!もう出来たのかい!?すごい技術者がいるんだね~」
「いやいや、君たちの宇宙技術を応用したからこれだけの短期間で建設できたのだよ。素晴らしい技術だよまったく!」
「どちらにせよ大統領、貴方の協力がなければ建設は出来なかった。これで船を動かせる。ありがとう」
「感謝する……」
大統領は問いかける。
「では、ついに始めるのだな?」
「あぁ予定とは違うが我々モパンの初仕事だ」
「いよいよだねぇ~。楽しみだよ~!」
「そうか……」
それを聞いた大統領の顔は少し暗かった。
「大丈夫だよ、大統領。悪いようにはしないからさ~!」
「では、これから行ってくる。また夜には戻ってくるのでよろしく頼む」
「わかった。では玄関まで案内する。スタッフを呼ぶからちょっと待ってく……」
喋りつつ大統領が休憩室のゼンコウ達を呼ぶ合図を出す。
「いや、大丈夫だ。道ならもう覚えている」
「それにもう待ちきれないのさ!じゃあね~」
「失礼した……」
そう言い残して彼らは部屋を後にした。
「始まるのか……」
一人部屋に残った大統領はポツリと呟く。
その一言を謎の客人と入れ違いになったゼコウは聞き逃さなかった。
――始まる?いったい何が?……。
あれから2週間経ち、客人はあまり来なくなり、ゼンコウ達の仕事は今まで通りの業務に戻りつつあった。だが、異変は既に始まっていた。
「おい、ゼンコウ聞いたか?最近南部の方でUFOが出るらしいぜ?」
「また、都市伝説かよ。ライ、そういうの好きだよな……」
「なんだよ信じてないのかよ。俺の親戚の子もホニャデス山で見たって言ってたぜ!きっと今月の月刊モーにも書かれるぞ!……そういや先月の月刊モーに、地球内部は実は空洞でそこに宇宙人の基地があるとか書いてあったなぁ~。その入口は南極にあるんだってさ!くぅ~、きっとホニャデス山もそうだぜ!これから南極やホニャデス山から宇宙人の侵略が始ま……」
「はいはい、俺には関係のないことだね」
「なんてロマンのない奴だ……。ところで話は変わるけどなんか最近変な事件多くないか?」
「変な事件?なんかあったか?」
「おめ~な~。官邸で働いているんだから、国の事ぐらいは知っていようや……。あれだよ、店で食べていたのに気づいたら外に移動してたとか、なんか歩きにくいなと思ったら履いてる靴が左右逆になってたとかだよ」
「へぇ……、そんな事あり得るのか?信じられないな」
「信じられないよな!でも実際に何件も同じような事件がここ数週間で発生してるんだぜ……これは絶対宇宙人の仕業だぜ!?」
「結局そっちに持って行きたいだけかよ!ただ、気になるな……」
「お?気になってきたな!どうせニュースでも特集してるはずだぜ?」
そう言いながらライはテレビをつける。そこでは国営ニュースが流れていた。
「……いいかい、よく聞いてほしいね。現在多数報告されている現象は全てホニャ国の極秘開発している世界干渉型物理破壊兵器「シヴァ」の実験による影響だと思われるんだよね!僕は、ある特殊な情報筋からその情報を入手したんだけど、これ、間違いないよね」
「いやいや、フィン博士。それ……」
「シヴァはKERNの実験によって生まれた仮説なんだけどね、その威力は空間ごと周囲を破壊するほどのエネルギーを有していると言われるんだよね。でも、この兵器の恐ろしさは威力だけではないんだよね。実は空間ごと周囲を破壊を破壊すると理論上、並行世界と繋がることがあり、その結果こちらの世界に異変が生じると言われているんだよね。わかる?その実験で発生した世界の異変が、今世間を賑わせている謎の現象なんだよね。いい、もう我々はホニャ国の実験に巻き込まれているんだよね。いい加減気づけよ?」
「へ、並行世界?破壊?あ、あのぉ……。そんな実験は聞いたことがないのですが?」
「それはそうでしょう。極秘実験なんだから。そして我々国民はホニャ国の実験台になってるんだよね。そのことに気付かせないのが貴方達の仕事なんだよね」
「え、えぇそんなことないですよ。我々は中立に情報を提供するのが仕事ですよ?ひどいですフィン博士ぇ……」
「はっはっは!信じても信じなくても自己責任です!」
「もぉ~博士なんだから正確な情報を発信してくださいよ~。以上ハワイからフィン博士にご説明いただきました~(ったく、焦るわぁ~。ハワイの人ってみんなこんな感じなの?……)」
「……なんか話してたけど、さっぱりわからんなこれ……」
ライが若干冷め気味に話す。
「なんだ、ライってこういう話好きなんじゃないのか?」
「いや、好きだけどよ。俺はもっとわかりやすいのが好きなんだよな。UFOを見た!とか宇宙人はこんな感じ!とかよ……」
「確かにさっきの話はちょっと分かりにくいな。それに信ぴょう性に欠けているな」
「それ、信じても信じなくても自己責任ですって投げやりすぎだよな……」
「あぁ、話し方も癖がありすぎて聞き取りにくいし……」
「それ俺も思ったわ!あの博士「~ね」ばっかでなんか余計難しく感じたぜ」
「そもそもね、こんなうわさ話をね、博士が言うのっておかしいよね?」
「そうね、みんないい加減気づいてほしいね?信じても信じなくても自己責任です!」
「……っぷ!」
「「はっははは!」」
フィン博士の特徴的な口癖でふざけて笑う二人。しかし、笑いつつもゼンコウは考えていた。
――あの博士の話は信じるに値しないが実際に事件は起きている。事件はここ数週間で発生しており、それはあの見知らぬ3人があまり来なくなってから。そしてあの3人が帰った後に大統領が呟いた「始まるのか」と言う言葉。……もし、彼らと大統領がこの事件に関わっているとしたら?……いや、考えすぎだ。それに根拠が全くない。これではあの博士と同じだな……。
そしてゼンコウは考えるのを辞めた。
それからもホニャ国内では謎の事件が発生していたが、ゼンコウはあまり気にすることもなくいつの間にか忘れていた。
そんなある日。
「お~い、ゼンコウ!例の客人が来られたぞ、案内頼む!」
「例の客人?」
「忘れたのかよ、前しょっちゅう来てた大統領の客人3名だよ!」
「あ、あぁ~ド忘れしてたわ。わかった案内に行ってくる!」
そうして慌ただしくゼンコウは客人を迎えに行く。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
「ありがとう、ゼンコウ君~」
「え、あ……恐縮です」
名前を覚えられていたことに驚きつつ、いつもの密室の応接室に案内する。
「そうだ、ゼンコウ君。最近起きてる不思議な事件。どう思ってる~?」
客人の1人が話しかけてきた。思わぬ質問に戸惑いつつも返答する。
「はい、近頃起きている事件に関しては大まかには把握しております。どのような原因で発生しているのかはわかりませんが、もしそれが誰かが仕組んだことなのであれば、なぜそのようなことをするのか理解に苦しみます。はっきり言って面白くないですね」
「へ、へぇ……そうなんだ?」
相手が少し反応に戸惑っている中、大統領が駆け足でやって来た。
「大変お待たせした!申し訳ない……」
「いいよ~!」
「では、ゼンコウ。もう下がっていいぞ。私が出るまで誰も入らないようにな?」
「かしこまりました」
そう言うと、ゼンコウは扉を閉めた。そのままその場を後にしようとした時に彼は思い出す。
大統領の不審な動きとあの客人との関係性。そして彼らとの密談後、そう「始まるのか……」と大統領が呟いたあの日から国内で謎の事件が起きたことを。以前は根拠が無いためそれ以上考えるのは失礼に当たると思い考えるのを辞めたが、先ほどの客人からの事件についての質問。やはり今国内で発生している事件と大統領とあの客人は何かしらの繋がりがある。そう彼は思うと急いで控室に戻り、とある人物に特別なツールで連絡をする。
「あぁ、俺だゼンコウだよ。悪いが君に急ぎの頼みがあるんだ」
「あら、久しぶりじゃないゼンコウ。頼みって何よ?」
「盗聴の依頼だ」
「わかったわ。今回はどこの国?」
「ホニャ国。相手は大統領だ」
「え?あなた自分が何を言っているのかわかっているの!?」
「わかっている。それでもやらなければならないんだ。我が主に対する疑念を払拭出来るのなら、私は反逆罪に問われても構わない」
「……そう、わかったわ。その代わり後で事情を聞かせてもらうわよ。あと罪はあなたへ擦り付けるから」
「ありがとう。助かるよ」
「それで急ぎって言ってたけど、タイムリミットがあるの?」
「あぁ、今、大統領がある3人の男と密談をしている。その内容を盗聴してほしい」
「ん?今している密談を盗聴してほしいの?」
「そうだが」
「っ!なら早く言いなさいよぉ!」
そう言うと彼女はバタバタと物音を立てて準備を始めた。
「私が大統領府を盗聴する用意をしていて良かったわね!今日の夜、いつもの場所で待ってなさい!それじゃ!」
そうして彼女は待ち合わせの約束を一方的に言い残し連絡を切った。
「とりあえずはこれで真偽が分かるな。それにしても彼女はなぜ既に盗聴の用意をしていたんだ?……あ!そうかそれが、彼女が凄腕と言われる所以か。仕事が速くて助かる、流石プロだなぁ」
そんな事を考えながらゼンコウは仕事に戻る。そしてその日の夜、仕事が終わりとある飲食店に入るゼンコウ。すると飲食店のマスターが声をかける。
「いらっしゃい!ご注文どうぞ!」
「あぁ、え~と、じゃあ小籠包とウイスキーのロックで。あ、それと小籠包は冷えたやつで頼む。俺、猫舌なんで」
「あいよ!それじゃあ奥の部屋にどうぞ!」
「こちらです~」
従業員に奥の部屋に案内される。
「ごゆっくり~」
中に入るとシンプルな内装で、部屋の真ん中にテーブルと椅子が置いてある。
「さてさて、これだっけな?」
そう言うとゼンコウはテーブルの脚の中からある1つを見つけると右に2回、左に4回ひねる。そして下にグッと押し込むと「ガクン」という音がした。彼は音を聞くと出口に向かい入って来た扉を開ける。するとそこには先ほどまでいた飲食店ではない薄暗い一室が広がっていた。
「遅いわよ!」
奥から女性の声が聞こえる。
「すまない、今日残業だったんだ」
「まぁ、いいけど!」
「それで、例の盗聴は出来たのか?」
「えぇ出来てるわよ。でも本当に良いの?これを聞いたら貴方はもう戻れないわよ?」
「構わないさ。覚悟は出来ている」
「……わかったわ。これがその盗聴データよ」
そう言うと彼女はヘッドホンを差し出し盗聴データを再生する。
「……いやはや、君たちにはとても助かっているよ!おかげで我が国の技術は世界一になるだろう」
「ふふふ、そうならないとおかしいよね!だって僕ら「モパン」の技術は凄いんだから~」
「あぁ今後もぜひ君たちの技術を教えてくれたまえ。そのためなら協力は惜しまないぞ」
「そうでないとな。こちらも大統領の協力で無事に目的を達成することが出来た。感謝する」
「みんなの反応、面白かったねぇ~!」
「う、うむ……となると、次の目標は……」
「そうだ、ようやく当初の目的に戻ることが出来る。次の標的は日本だ」
「すでに、日本とは連絡を取ってもらってるんだよね~?」
「うむ、日本の総理大臣も喜んでいたぞ。宇宙の技術が手に入ると」
「そうか、なら話は早いな……」
「いつ向かうのだ?」
「それは言わないよ~」
「ん?なぜだ?」
「だって、今ネズミが聞いているんだも~ん!」
「な、なにぃ!?」
「焦るな大統領殿。そのネズミは我らの目的の演者としての価値がある。放っておけ」
「でも、これ以上聞かれるのはよくないよね。ねぇ君。止めれるものなら止めてみなよ!じゃあね~」
「ブチッ……」そうノイズが入り音声はそこで終わる。
「え!?……な、盗聴がバレていたの!?……この私が?」
「だが、相手は捕まえる気はないらしいな。それよりも……」
ゼンコウはそう言うと彼は少し悲しい顔をして口をつぐむ。
「ゼンコウ……」
そんな顔をするゼンコウを見て彼女は心配する。しかしゼンコウは再び話し出す。
「……やはり大統領は彼らと密約を交わしていた。彼らの技術を得る代わりに彼らの目的に協力をしていた。国内での事件に彼らが関与していることは最後の言葉からしても間違いない。つまり……。大統領は国民を売ったんだ!……」
ゼンコウは感情を押し殺しながら淡々と話していた。しかし彼の言葉は怒りに震えていた。
少しの沈黙の後、彼女が切り出す。
「と、ところで話の中で宇宙の技術なんて言ってたわよ。彼ら「モパン」とは一体何者なのかしら?もしかして宇宙人?……それに、次は日本とも……」
「あ、あぁ……。どういう事なのか全く理解できないが、やることはわかった」
「俺は必ず、彼らのやろうとしている事を阻止する。そして大統領からこの国を取り戻す!……」
そして同時刻、日本。
「内閣総理大臣との密約も締結出来たな」
「いよいよか……」
「よ!待ってました~」
「お前ら準備は出来ているか?」
「問題ないよ~」
「完璧だ……」
「了解した。では、始めよう」
アルパはニヤリと微笑み号令を出す。
「モパンのドッキリ。セカンドシーズンだ……」
これにて第7話、おしまい。