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大きい…といっても、先程までの星1つ分という馬鹿げた大きさとは違い、ミューゼの家程の大きさである。
瞳の大きさも近くなった影響か、その目はしっかりとアリエッタ達を捉えている。
(今度は黒いリスだ。ここも不思議な世界だなぁ)
「ぷっ!」
「あっ!」
(逃げちゃった)
そんなドルナ・ノシュワールは、いきなり横に逃げた。姿は大きくとも、草食小動物としての警戒心は健在である。
「いくぞ! ちいさくなったから、カンタンにおいつける!」
星サイズと家サイズでは、1歩の幅がかなり違う。今では星間移動を使うまでもなく、ピアーニャの『雲塊』だけで簡単に追跡可能となっていた。
(ん? アレ追いかけるの?)
「よーし、やってやるのよ! 覚悟するのよノシュワール!」
「慣れた速度だから元気になったね……っていうか必死ね」
星間移動の猛スピードが怖かっただけのパフィが復活。『雲塊』上で動く事はラスィーテで慣れているので、意気揚々とアリエッタの隣に立ち、フォークを突き出してアピールし始めた。
「さっきまで情けない姿見せてたから、アリエッタに良い所見せたいんですよ」
「そこ、うるさいのよ」
(わぁ、ぱひーかっこいい! 騎士みたい!)
「そんな可愛い恰好でカッコつけられても……あ、うん、アリエッタちゃんは純粋ね」
パフィの戦う姿は、アリエッタのお気に入り。想像していた『剣』とは違うが、やっている事は剣と槍の二刀流だなと、勝手に納得して勝手にはしゃいでいたりする。
「でもどうやって仕留めます? またヒゲ剃りするにしても、今度は上陸できないですよ」
「そうねぇ、まずは動きを止める事が……あ」
「ああ……」
つい先程、雲の動きを止めたばかりという事もあり、有効手段はあっさりと見つかった。しかし、
「アリエッタ。これ、ノシュワール、ぽちっ」
「う?」(リモコン使う? 今度は何をするのかな?)
アリエッタは『ノシュワール』という名前をまだ認識していない。つまり目的が通じない。
しかも、星サイズのドルナ・ノシュワールを壊した事で、やり遂げたと思っている。
「ええと…えーと…とりあえず総長がなんとかできません!?」
「ちっ、なんとかしてみる」
通じないなら仕方がない。むしろアリエッタが動かなくなってホっとしているピアーニャは、『雲塊』を操って、捕縛を試みる事にした。
(ん? あれ? まだなんか続いてるの? 大きいの倒して世界を守った~とかじゃなくて?)
アリエッタのお陰で、星サイズのドルナ・ノシュワールによる脅威は無くなったが、被害だけならアリエッタによる破壊の方が遥かに大きい。そんな事態になっているとは全く思っていない本人は、これ以上は危険(主にエテナ=ネプトが)だと判断したネフテリアによって、マンドレイクちゃんの膝の上に座らされていた。
「はい!」(一応僕も戦えるよ?)
戦闘機のコントローラーを見せて主張すれば、
「めっ」
「はい……」(あ、駄目ですか……ごめんなさい)
ネフテリアに杖を取られたままのミューゼが、コントローラーを降ろさせる。今はとりあえず、攻撃的な行動はさせないようにと、大人達による協力体制が敷かれていた。
「それにしても……」
「うむ……」
ネフテリアがミューゼの杖を使って魔法を放てば、黒いドルナ・ノシュワールの体によって弾かれる。
ピアーニャが雲を太い針状にして突き刺せば、金属音を慣らして巨体を弾く。
「かったいな!!」
「とんでもない鋼ボディね……」
ヒゲとなった鉱石を切る事が出来たのは、目標がほとんど動かないという条件下で、内側から長時間切り続けたミケミケのみ。
今回は動き回るうえに、衝撃が強ければ弾いてしまう。しかも長かっただけのヒゲが変形し、ノシュワールの丸みを帯びた体を形成している。これでは外傷を与えて動きを封じるといった作戦は不可能となる。
「パフィはアレ斬れる?」
「フォークが刺さらないと無理なのよ」
パフィのナイフは、フォークを刺した時のみ何でも切れる。逆に言えば、フォークが刺さらない程硬いと、絶対に斬る事ができないのだ。
「これではうまくホバクできんぞ」
雲を使って閉じ込めたいが、ドルナ・ノシュワールの動きは速い。なんとか近づけても、檻を形成しようとする隙に、逃げてしまうのだ。
「ミューゼの捕縛は……」
「いや無理ですよ? あの大きさであの速さと力ですから、巻き付いている最中に引きちぎられますって。ここ土も無いし」
「うーむ」
蔦や蔓を伸ばすのならば問題無いが、大きく重さもある物を捕まえるとなると、樹木程の太さや強度が必要となる。そのレベルの植物魔法となると、土が無いと無理だという。
「となると、いよいよ……」
ネフテリアが、チラリとアリエッタを見た。
「いやいや! それだけはっ、それだけはやめてくれっ」
アリエッタに攻撃させるくらいなら、今のサイズになったドルナ・ノシュワールを放置した方がずっとマシだと、ピアーニャは全力で首を横に振った。
出来れば討伐はしてしまいたいが、こちらから手を出さなければ被害自体が殆ど無かった星サイズに比べて、明らかに想定できる被害が小さい。
ならば一旦撤退し、後々発見次第、改めて討伐する方針にしたほうがいい。という事を必死に説明し、ネフテリアを納得させるのだった。
「それじゃあ仕方ないわね。一旦ノシュワールがどこかの星に落ち着くのを確認してから……ん?」
撤退をしよう…と言いかけたネフテリアが、何かを見た。
遠くから赤いモノが2つ飛んでくる。それは猛スピードで近づき、ピアーニャ達の近くを通ろうとしていた。
「ネフテリア様ー!」
「フェリスクベルさまぁぁぁぁ!!」
「げっ……」
それは2人の赤い人物だった。呼ばれたミューゼが顔をしかめる。
「ノシュワールの代わり?に、アレ捕縛よ! ミューゼ!」
「えぇ……」
嫌そうにしつつも、放っておくわけにはいかない。杖を渡されたミューゼは、釣り竿の容量で杖を振り、蔓を伸ばした。
蔓が2人の人物に近づくと、その先端を弾けるように枝分かれさせ、そのまま絡みつく。
『ぅわひゃぁっ!』
がんじがらめになった瞬間、全く同じリアクションをし、そのまま釣り上げられる。そしてピアーニャの眼前へとぶら下げられた。
「ナニやってるんだ? パルミラ、ラッチ」
星間移動で飛んで来たのは、ネフテリアの兄であるディランの側仕えであるパルミラと、その分裂体であるラッチだった。ラッチは自分に絡みついている蔓に頬擦りして、幸せそうにしている。
「クリエルテス人が必要という事で、助っ人に来ましたっ!」
2人はミケミケとシェラーに呼ばれてやってきた助っ人だったのだ。
(あ、ぱるみらと、らっちだ)
「えっと……それはありがたいんだけど」
「パルミラ、仕事は?」
「今日はお休みです!」
「そ、そうなの? ならいいけど……」
「ぱるみら、おはよっ。らっち、おはよっ」
『はーい、アリエッタちゃん久しぶり~』
ネフテリアは急にデレッとした2人に呆れ、次の疑問を投げかける事にした。
「なんでラッチと一緒?」
「あの、我にはラージェントフェリムという真の名が──」
「一緒に王都をぶらついている時に、たまたま塔の近くにいたせいか、知り合いのシェラーさんに拉致されました!」
そう言うパルミラの顔は、少々不機嫌に見える。どうやら助っ人を呼びに行ったシェラーが、丁度良い所に実力的に申し分ないパルミラが落ちてたと、半ば強引にエテナ=ネプトに連れ込んだらしい。
巻き込まれたラッチは、また知らない所に来たと喜んでいるようだ。
最後に、特に気になっている事を聞いた。
「どうやってわたくし達の方向に飛んで来たの?」
「こんな事もあろうかと、シスさんから裏技を授かっていたのですぐぇっ!」
「何その裏技って! 今すぐ教えな…寄越しなさいっ、ぶっ壊すから!」
「ひいいいいっ! だめですううう!」
実はオスルェンシスは、国王であるガルディオから、逃走癖のあるネフテリアの方向を示す為だけの道具を貰っている。そしてその詳細を、ネフテリアは頑なに知らされていないのだ。
さらにヨークスフィルンでの一件以来、アリエッタとミューゼとパフィの存在価値が異常に上がった事もあり、怪しまれない程度の頻度でネフテリアをミューゼの家に送り込むなどの措置を取っている。その経緯で、オスルェンシスだけでなく、ミューゼと仲良くなったパルミラと、もしもの時の為にツーファンにも、その道具を持たせ始めたのだ。
ネフテリアを介した2重の警護と、ネフテリアが変態行為をした時の為の監視体制が、がっつり強化されたのである。
(ディオのヤツ。しっかりしてるな。それにコンカイはたすかった)
ピアーニャもネフテリア追跡道具の事を知っているので、声には出さずにガルディオに感謝した。
「よし。パルミラ、ラッチ。オマエたちにしか、できないサクセンがある」
「は、はいっ」
シーカーという仕事の一番偉い人による命令。それはファナリアで仕事が欲しいラッチにとって、期待と緊張でいっぱいになる出来事であった。ここで良い所を見せれば、シーカーになれるかもしれない。
一方パルミラは、何をしていいのかまでは分からないが、普段から理不尽を経験しているので、落ち着いていた。
ピアーニャは追跡中のドルナ・ノシュワールを指差し、今回の討伐対象である事、相手が鉱物で出来ている事と、ヒゲが弱点である事を説明していった。
話しを聞きながら、パルミラ達は真剣な眼差しでドルナ・ノシュワールを睨みつけている。
(すっごく……)
(おいしそう……)
どうやらその黒い巨体は、食欲を刺激される姿形のようである。クリエルテス人にとっての特定の鉱物の塊は、ファナリア人やラスィーテ人にとっての肉の塊と同等なのだ。
そんな欲にまみれた視線を見逃さなかったピアーニャは、『雲塊』を使って2人を掴む。
「えっ、なんですか?」
「あのっ、総長さん。あーし何したらいいの?」
「どんなコトしてもいいから、アレのうごきをとめろ。あとはパルミラのシジにしたがえばいい」
「はいっ!」
「ええっ!?」
雑に命令した後、2人を掴んだままの『雲塊』を、逃げるドルナ・ノシュワールの背中に向かって、思いっきり飛ばすのだった。