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深夜の学校。玄関前。
死にかけのヘンタイメガネと取り残され、アタシはパニくった。
「ど、どうしたら……」
放っておくわけにはいかない。
それはさすがにマズイ。人として。
ノゾキで捕まるのもイタいが、死体遺棄(いや、まだ死体にはなってないんだが)は、ガチモンの犯罪だ。
アタシが巻き込まれただけの被害者なのは確実だが、その言い訳が果たして法廷で通用するものか……。
いや、待って?
ノゾキで捕まるより、死体遺棄のほうがダメージ少なくないか?
なんていうか、精神的なダメージってやつが。
「グゥーッ、グゥーッ」
「はっ!」
ひときわ大きなイビキ。
アタシは我に返った。
ダメだ。ノゾキでも死体遺棄でも、どっちに転んでもアタシの未来は「法廷の被告人」だ。
ならば、この場で幾ヶ瀬の死体を何とかするまでだ。
何故なら、死体が誰にも見つからなかったら、少なくとも「死体遺棄」事件は成立しない。
「フッ、この学校の怪談が『八不思議』になってしまうな」
なんてニヒルに呟きながら、メガネの肩を抱えたときだ。
「ハックショーーーン!」
大きなクシャミとともに、幾ヶ瀬が起き上がったのだ。
「ヒィィ……」
ビ、ビックリした……。
腰から、そして全身から力が抜ける。
ヘンタイメガネと入れ替わるように、アタシの身体はコンクリ地面に倒れ込んだ。
キョロキョロしながら幾ヶ瀬のヤツ、アタシを見下ろす。
「あれ、有夏は?」
「し、深夜アニメを……」
いまわの際の言葉だが、メガネは「ああ、そっか」と気楽に頷いただけだった。
次いで「ありかぁぁーー」と叫びながら校門の方へ走り出す。
「ありかぁぁ、そのアニメは俺が録画しといたよぉぉ」
薄れゆく意識の中、アタシは隣りの薄情な2人の後姿を見送る。
まぶたがピクピクと痙攣し、視界が徐々に狭くなるのが分かった。
喉の奥で「グーッ」と地響きのような音が鳴り響く。
えっ、アタシ死ぬの?
アタシの、いまわの際の言葉「し、深夜アニメを」かよ。
勘弁してくれよ。
目の前が暗くなる。
ああ、神様……生まれ変わったら推しカプの家の壁に、そして天井になりたいです。
※ ※ ※ ※ ※
──あたたかい。
まぶたに、頬に、額に、やわらかな熱が降り注ぐ。
「……天国?」
呟いた瞬間、すさまじい力で肩をつかまれて振り起こされた。
「ヤだわ! この子、こんな所で寝て!」
状況を理解するより先に視界に飛び込んできたのは、真っ赤な服を着た小太りのオバチャンだった。
ものすごい量の荷物を抱えながら、アタシの肩を揺すっている。
「痛ッ、痛ッ痛ッ!」
カバンの角が当たるたびにアタシは悲鳴をあげた。
この痛み──間違いない。現世だ。
このオバチャンも天使なんかじゃない。
太陽の光の下、不気味さは完全に消えているが、ここは夕べ侵入した学校にほかならない。
少し落ち着きを取り戻して見回せば、玄関前のコンクリートの上で寝転んでいると分かる。
つまり、ブッ倒れた位置から1ミリたりとも移動させられることなく転がされていたってことだ。
キョロキョロと周囲を見渡すが、隣りの2人の姿なんて見つかるはずもない。
信じらんねぇ! ヤツら、あの状態で倒れたアタシを放ったらかして家に帰りやがったのか。
アクの強いオバチャンは、アタシを酔っ払いか何かだと勘違いしたのだろう。
「困るのよ? カルチャースクールの朝活書道に来てみれば、アナタこんな所で寝転がって。イヤだわ、酔っぱらって学校に入り込んだのね」
「いや、ちが……」
オバチャン、アタシの話なんて聞いちゃくれない。
ワラワラと集まってくる朝活書道のオバチャンたちがアタシを取り囲む。
「イヤねぇ」
「ほんと、世も末ねぇ」
「この町も物騒になったわ」
なんて言いながら、ゾロゾロと校舎の中に入っていってしまった。
呆然と見送るアタシ。
「ハッ……ハックショーーーン!」
大きなクシャミをしながら、トボトボとアパートに帰ったアタシは、その後3日間カゼで寝込むことになる。
家には大量の「たけのこの里」しかなく、それを食ってカゼをやり過ごした。
元気になってから、念のため「怨念チャンネル」を検索してみたけど、それらしいのはなかった。
幾ヶ瀬よ、せめてアップしろよ。
あんなに苦労して取材したじゃないか…。
せめてものお詫び(?)として、イチャついてほしい隣りの部屋なんだが、深夜アニメに興奮した有夏チャンが主題歌を熱唱する大声が聞こえてくるだけだ。
次回こそはきっと……。
幾ヶ瀬Present’s愛と笑いの怨念チャンネル【完】
エロくもないお話を、長々と読んでくださってありがとうございました。
楽しく書くことができました! が、ちょっと長かったなぁと反省したりしなかったり、しなかったり。
何といっても、七不思議を考えるのが楽しかったです。
お話とは何の関係もないものの、ホラー好きなので想像しては、ほくそ笑んでいました。
次はちゃんとエロいお話にしよう!
そう心に決めました。ええ、決めましたとも!
※次回は「『閲覧履歴に基づくおすすめ商品』は人物の内面を完全に晒す」というお話です※
【予告】「『閲覧履歴に基づくおすすめ商品』は人物の内面を完全に晒す」
夢破れた男──幾ヶ瀬。
(夢とは、心霊系YouTuberになって仕事を辞め、ゆくゆくは不労所得を得るというものだ!)
「(ぼんやりと)春を感じる特別メニュー」が、何だかSNS映えするとかで、勤務先のレストランが連日残業続きなのだ。
「あのイカれた店長……あいつ、いつ死ぬんだろ」
ストレスによる心の闇。
アマゾンの閲覧履歴がヤバイことになっている!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
みなさんの履歴はどうなっていますか?
私のは…ちょっと言えません…恥ずかしい…。