テラーノベル
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リハ後のスタジオは、さっきまでの緊張がまだ少し残っていた。
大森元貴が先に出ていったあと、少し遅れて空気が落ち着く。
残されたのは、藤澤、髙野、綾華の三人だった。
「……さすがに、放っとけないよね」
最初に口を開いたのは藤澤だった。
髙野は少し眉を寄せる。
「音はもう普通に良くなってるのに、あれはさすがに理不尽だろ」
綾華も静かに頷く。
「若井、全部受け止めてるだけになってる」
少しの沈黙。
ドラムスティックが机の上で軽く転がる音だけが響く。
「元貴ってさ」
藤澤が言葉を選びながら続ける。
「音楽にはめちゃくちゃ真剣じゃん。でも、若井に対してだけ、ずっと噛み合ってない感じがする」
髙野が腕を組む。
「距離の問題じゃないの?あれ」
綾華は少し考えてから言った。
「単純に“知らない”のかもしれない」
二人が少し顔を上げる。
綾華は続ける。
「若井って、誰に対してもあの感じじゃん。優しくて、一定で、あんまり感情を崩さない、」
「だから元貴が逆に“読めないもの”として見てる気がする」
藤澤が小さく息を吐く。
「なるほど……だからイラつくのか」
髙野がぽつりと言う。
「でも、それであの当たり方は違うよなぁ」
綾華は頷いたあと、少しだけ考え込むように言った。
「だからさ……逆に」
二人が視線を向ける。
綾華はまっすぐ言う。
「お互いを“ちゃんと知る時間”を作った方がいいんじゃない?」
「知る?」
藤澤が首をかしげると、綾華は続ける。
「たとえば……同じ空間で過ごすとか」
髙野が少し驚いた顔をする。
「それって、プライベートまで踏み込むってこと?」
「踏み込むっていうより……距離を縮める」
綾華は静かに言う。
「今って、スタジオでしか関わってないから、余計に誤解が増えてる気がする」
藤澤が口を開く。
「でもさ、元貴って簡単に人に心開くタイプじゃないし……」
髙野も頷く。
「若井が一方的に合わせてる状態だしな」
少しの沈黙のあと、涼架がぽつりと言った。
「……でもさ、もしさ」
二人が見る。
「一緒に生活とか、もっと近い距離で“普通の若井”見たら、元貴も変わる可能性はあるよね」
綾華がすぐに頷く。
「そう、それ」
髙野もゆっくり頷く。
「ステージじゃない若井を知れば、見え方変わるかもな」
三人の間で、少しずつ方向が固まっていく。
無理に変えるんじゃない。
ただ、“知らないままの誤解”を減らす。
そのための環境を作る。
結論は静かだった。
「……同じ時間を増やす、か」
綾華がまとめるように言うと、藤澤が小さく頷く。
「うん。たぶん、それが一番自然」
髙野も短く言う。
「やってみる価値はあるな」
ただ問題はひとつだけ。
その時間の中で、元貴が若井をどう見るか。
そして、若井がそれでも同じように笑えるのか。
スタジオの外では、もう二人の間の距離が、音楽だけでは測れないところに来ていた。
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