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スタジオの空気はまだ重かった。
さっきのやり取りのあと、誰もすぐには動けないまま立っている。
そんな中で最初に動いたのは、藤澤だった。
「元貴」
いつもより少し真剣な声。
「ちゃんと、話したい」
髙野が一歩前に出る。
「このままだとさ、バンドとしても良くない」
「若井をどう思ってるかは自由。でも、今のままだと音楽まで壊れる」
三人とも、逃げていなかった。
それから、少し迷ったあと、三人は頭を下げた。
「お願い」
藤澤の声。
「一回でいいから、ちゃんと向き合ってほしい」
髙野も続ける。
「俺たちもちゃんとやるからさ」
綾華も静かに言う。
「このまま終わらせたくない」
必死だった。
説得というより、お願いに近かった。
その光景を見て、元貴は一瞬だけ言葉を失う。
「……頭下げる必要ないよ。」
ぽつりと出た声は、少しだけ柔らかかった。
三人は顔を上げる。
元貴は少し視線をそらしながら続ける。
「お前らには普通にやるし、ちゃんとやってるじゃん」
その言い方は、さっきまでの若井への態度とはまるで違った。
荒くない。
切り捨てない。
ただ、困っているみたいな声だった。
その差が、逆に際立つ。
藤澤が少しだけ苦笑する。
「それがさ、問題なんだよ」
髙野も静かに言う。
「若井にも同じくらいの普通、出してやれないのかってこと」
綾華は元貴を見たまま、ゆっくり言う。
「嫌うのはいい。でも、あれは“嫌い”の範囲じゃない」
元貴は黙る。
言い返さない。
でも納得もしていない顔だった。
少しの沈黙のあと、元貴は小さく息を吐く。
「……めんどくさ、」
それは拒絶ではなく、疲れに近い言い方だった。
三人はすぐに詰め寄らない。
ただ、待つ。
元貴は視線を床に落としたまま、しばらく考えるように黙っていた。
その間も、頭の中にはさっきの若井の顔が残っている。
困ったように笑っていた顔。
謝るみたいに頭を下げていた顔。
それと、今目の前で、真剣に頭を下げている三人の姿。
同じ“頼む”なのに、何かが違う。
それだけは、ぼんやりと分かっていた。
コメント
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更新待ってました!神作品、