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それはある日、掃除のできない彼の部屋を軽く掃除しているときだった。
「なんだこれ?」
開けてない封筒やらチラシやらの間からポロっと落ちたのは名刺だった。なにも考えず拾い上げて名前を確認すると明らかに明らかなキャバ嬢や風俗嬢のような名刺で店の名前と源氏名とご丁寧に「楽しかったまた来てね~🖤」の丸い文字が書かれていた。
勇斗…いや、あいつと付き合って早なん十年が経過しましたがこんなことは初めてでちょっとしたショックを受ける。いやかなり。いや、非常に遺憾であった。
「いや、いいけど…もっとうまくやれよ」
一人しかいない部屋でため息混じりについ独り言が漏れる。こういうのはさっさと捨てるかしないと俺に見つかるという想定はしなかったのかと。ましてや自ら片付けお願いしても良い?なんて言ってきたのに…馬鹿すぎるだろ。
はーっと再度ため息を漏らす。
嫌でも目につく名刺を目の前に少し思考が止まるが…キャバか風俗では色々訳が違うのでその店名を検索してみた。
「はい、風俗です、ありがとうございました」
なんで検索したんだろうと数秒前の自分を呪いつつスマホを軽く投げ捨てる。
風俗かー!まじかー!キャバかと思ってたー!俺そういう店行ったことないからこういうの貰うのしらんかったー!そーですかー!
ふらふらとソファーに近寄りばたりと倒れる。少しショックを受けるなんてもんじゃない、かなりショックだし胃が痛い。なんでこんなもんがあるんですか佐野さん…まじであのイケメンいい加減にして。
ソファーで項垂れるのもつかの間、ショックと怒りの後に来るのは大体悲しみでさすがの俺でも少し堪える。
なんで行ったんだろ。あいつのことだ、誘われてもさすがに行かないはずだ。そうだろ?そうだよね?俺なんかしたっけ?なんか不満にさせた?一昨日だってあんな抱きかたしといてこれ?女と男どっちも楽しみたいみたいな感じなの?知らなかったよそんな趣味。
脳内がぐるぐると回り頭が痛い。
まぁ、男より女の子の方が気持ち良さそうだもんね。
同じ男としてそんな答えを思い付く。
でもだとしたら抱かれてる俺はなんなの?あいつは入れる側だからどっちも楽しめそうですけど俺は?もう散々抱かれてるから自分が抱くとか想像できませんけど。
沈黙。
独り言すら出てこない。
もしもこれで別れるってなったらどうする?
嫌な考えが脳裏に浮かぶ。
意外とはい分かりましたで終わったらショック過ぎて死にそうなんですけど。ただでさえ同じグループで恋愛しちゃってんのに破局したらあんなに相談して背中押してくれた3人に会わせる顔なんてどこにあるの?
ちらりと忌々しい名刺を手に取り見る。
どうする?俺、ここからどうするよ。
いやもうどうしようもないじゃん。
家事だってやって仕事もこなして夜の相手もしてそれ意外になにすればいいの?なにしたら佐野さんはこの店行かなくなるの?もう分からん。とりあえず実家に帰ればいいの?
ショックと怒り、そして悲しみ、その次に来るのはやっぱり怒りでソファーから勢いよく飛び起きる。
「むかつく」
子供の頃から培われた反骨精神は今でも健在で絶対あいつが悪いのに顔も知らない風俗嬢に反骨していた。
極論な上にど偏見だけどキャバ嬢や風俗嬢は男に媚びて金を取るんだろ?じゃあどうする?俺もあいつに媚びて媚びて媚びればいいの?もっと可愛く、もっと甘えればいいの?
そしたらあいつは俺を選ぶの?ねぇ。
ガチャ
玄関の方から扉の音が聞こえた。
佐野さんのお帰りだ。
いつもより早いのは仕事が巻いたから?そんなことはどうでもいい。早く、媚に行かなきゃ。
お風呂は沸かした、料理もできてる、俺の準備だってできてる。
なにから、媚びる?ボディタッチしてキスしてって早く抱いてってそう言えばいい?ねぇ、どうすればいいの?どうすれば。
「ただいまぁー………って、仁人?…え?仁人??どうした?なに?え?泣いてんの!?なんで!?なにがあった」
あいつが帰ってくるなり目が合う。
早く媚びなきゃと思ってるうちに視界はゆらゆらとにじみ始めた。
「仁人!?なに?ごめん遅かった?なになになに!?ねぇなんかあったの?部屋汚すぎた?」
「ちがっ…ひっ…」
「仁人…」
媚びるどころか棒立ちだった俺をあいつは抱きしめて背中を擦ってきた。こめかみにキスを落としなにがあったんだよって泣きそうな声で聞いてくる。なにがあった?なにがあったなんて聞きたくないよ。考えたくもない。
「は、やと、っ…ぐずっ……お”れ…」
「んー?」
「なにが…だめだっ…ったのぉ?…っ」
「………へ?」
「なお…っから…、っぜんぶ…っ直すがらぁ…」
言った言葉は俺の頭からじゃなく心から出てきた。直せばまだ付き合える?もう愛想つかした?家事できてなかった?セーター縮めたの怒ってる?料理も美味しくなかった?体の相性悪かった?気持ちよくなかった?
自問自答が心のなかで繰り返し繰り返し流れる。嫌だ。嫌、離れたくない。もっとずっと勇斗と一緒にいたい…。
「ちょ、ちょちょ待って?待って仁人、どうしたの?ちゃんと話して?」
「ひぐっ、…っはや、と…が…っうぅ」
「俺が?俺がなに?なにした?」
「こぇ、いった、から…おれっ…ひ、ぅ」
「これ?これ?ってなに?……ん?お前なにもってんの?見せて?」
「っ…こぇ…」
「なにこのぐちゃぐちゃの紙…ん?…ん”!?」
いつの間にか握りしめていた紙を勇斗に取られ中身を確認すると勇斗は焦ったように顔をしかめた。
あぁやっぱり、見ては行けないものだったんだ。そう思ってたらいきなり両肩を捕まれた。
「仁人!!!これ違う!!!」
「っ……い、いよ、もう…もう…いい」
「よくない!!!これ俺のじゃない!!!彼女持ちの友達がバレたらヤバイから勇斗処理してって置いてったやつ!!!まじで!!俺のじゃない!!!信じて!!!」
「っ…う、そ…」
「嘘じゃ…っあー!!!もぉおお!!あいつ…持って帰れって言ってたのに隠していったのか…っまじ…っ仁人!本当に!本当に俺行ってない!!知らない!!命賭けてもいい!」
「………っ、ほんと?」
「本当!というか最っ愛の仁人がいるのに行くわけないじゃん!!誘われても絶対行くわけないし…こんな完璧な恋人がいるのに浮気するわけないじゃん」
「っでも、でも…」
「でもじゃねぇって!いや俺が全部悪い…ごめんな?不安にさせてごめん、本当にごめん」
下げれるものを全部下げたような顔とずるずると足にすがるように崩れ落ちる勇斗の体。
本当に?でももう本当なんだろう。
普段は猛獣のようなくせに今では足元に縮こまった大型犬にみえる。
勇斗がこんなに謝ってるんだ、嘘ついてたら顔ですぐ分かる。わかるけど、ちょっと不安だった。
「勇斗」
「仁人ぉ…」
「っ、疑ってごめん…俺ビックリしてそれで」
「仁人は悪くない!俺が全部悪いから」
勇斗のしょぼくれた頭のつむじを見ながら口許が緩む。よかった。本当によかった。
俺はゆっくりとしゃがんで勇斗と目を合わす。べしょべしょになってる勇斗に笑いつつキスを落とせばバッキリッと勇斗の目が見開いた。
「っ仁人…今…仁人から…」
「たまには…ね」
「っ!!」
そのあと?
そのあとは皆様の想像にお任せしますよ。
まぁひとつ言うならばやっぱ勇斗は猛獣でしたって感じかな、深い意味はないですけどね。
コメント
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ああああもうっ!!😭💦💦 仁人が泣きながら「全部直すから」って言うとこ、心臓ぎゅってなった…!勇斗が必死に違うってすがるところも、大型犬みたいで可愛いんだけど切なくてさ…でも最後に仁人からキスして、その後は「猛獣でした」ってオチは完全に持ってかれたww👍💖 誤解エピソードすこ!