▼ 俳優ナツになる前
ピッ、ピッ、ピ
親父しかいな部屋。白い、どこまでも白い空間…病院に無機質な機械音だけが響いている。
「親父…良い加減起きろよ…」
「…親父が帰ってこなきゃ家寂しいんだぜ〜」
「朝、起きんじゃん?…そんでリビング行って寒いな〜って思いながらトーストしたパン食うんだ…」
様々な管に繋がれた親父の腕は昔では考えられないほどに細くなってしまっている。親父と腕相撲しても勝てなかったのに、俺が成長して追い越す前に親父が弱って不戦勝だなんて納得がいかない。
「我儘言ってられねぇのは、知ってんだ…」
「親父の延命治療しかできなくてごめんな…」
四季が落とす言葉に一切反応を示さない剛志。筋肉質で歳を疑うほどに健康体だった親父はある日突然倒れた。
原因は不明。
それから三年が過ぎた、あれから親父は一回も起きない。目を開けない。検査して、点滴を付けて寝かせる。それしかできない。
言ってしまえば脳死と似たような状態。それでも四季は毎日毎日会いに行って話す。他愛もない家族として生活を語る。
廊下を通った担当の看護師は、四季の伏せた目が酷く美しく見えてしまった。
悲しみを纏っている少年は今すぐにでも風に攫われてしまいそうなほどに、崩れそうだった。
▼ 俳優ナツの誕生
剛志が倒れてから四季は高校を中退した。ただでさえも自身は問題児であり、学校に行っているだけで金が掛かる。
ならば…と思い退学届を提出したのは剛志が倒れてから3ヶ月後のこと。
「これから、どうすっかなぁ…」
一ノ瀬商店の番台に胡座で座り込む、幾ら考えようとも良い解決策が出ないのならばまずは行動か。
単純な頭の回転で求人募集をかけている店に電話をかけて回った。
それからというものの四季はバイトに明け暮れた。
理由は父親の店を守ろうとしたから。けれどたかだか未成年のバイト程度で何年も持つほど世間は甘くはできていない。
剛志がしていた貯金も徐々に底をついてくる、捨子だった四季を拾った剛志には親戚関係が無いので頼る人もいない。
八方塞がりで手段が無くなった四季は芸能プロダクションに履歴書を送った。
正確には同じビルの中にある求人募集を出していた店に送ろうとしていたが階数を間違えて、芸能プロダクションに送った。
「お届け物です」
インターホンに駆けつけて配達員に差し出されたのは茶封筒一つ。バイト受かってるかな…とソワソワしながら書類を見れば一次審査合格の文字
「一次審査ってなんだよ…」
何かの手違いだと届け先を見ても『一ノ瀬四季様』と一言一句違わない為間違いでもなさそうだった。
「まぁでも行ってみて損はねぇだろ」
良くも悪くも楽観的なままで、2次試験に期待を膨らませていた。
「俺、俳優になったりとかして!!」
そう言って興奮で父親に報告しに行った四季は知らない。底知れぬ明るさと優しさに溢れた点以上に感情移入しやすいキャラが審査員に買われて後日家に合格の書類が届く事を。
四季は知らない。数ヶ月後には大型新人としてドラマのエキストラになる事を。
四季は知らない。エキストラで映ったはずなのに何故か目を惹きつけられると話題になる事を。
未だ四季は知らない、この先彼を深く深く愛する恋人が出来るという事を。
▼出会い
「君、ナツに似てるね」
今日はスケジュールが空いていたからと親父の見舞いの為に病院に足を向けていた矢先、突然腕を掴まれてそう言われた。
「えっ、は…離してください」
抵抗しても、静止の声をあげても男は止まる気配一つ見せなかった。昼間だというのに男からはアルコールの匂いが香る。
「そんな、いやがんなって…ほら、おにーさんと良い事しよーぜ」
駆け出しから数ヶ月が経ち、少なからず知名度が上がっているというのに四季には想像力が足りてなかった。
ヤバい路地裏連れ込まれる!
恐怖に瞼を強く閉じた四季の体は、暗い路地から明るい大通りへと引き寄せられたのと同時にドッ、と鈍い音が2回程聞こえた。
「…大丈夫だった?」
開けた目には沢山ピアスが開いた髪が明るいチャラそうな男、肌以外殆どが黒で埋め尽くされてる頬にタトゥーの入った男、連れ込もうとした男の頭を足で踏みつけて目の笑っていない笑顔の男がいた。
抱き寄せながら顔を覗き込んでくるチャラ男、警察を呼んでいるタトゥーの男、倒れている奴を見ている男。三者三様に動いている。
急に現れた救いの手と、何事も無かったことへの安堵で四季の目からは涙が溢れた。
「こ、わかったぁ…」
ピアスの奴は驚きながらも暖かい手で頭を撫でてくれた。
度々申し訳ないです…『壊れた愛しい君』のデータがフライハイ(吹っ飛んで)しちゃったので懺悔としてこっちをあげさせてもらいます…
楽しみにしてた方(居るか分かりませんが…)本当にすみません。
来週までお待ちいただけると幸いです…
コメント
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( ᐛ )(神すぎて馬鹿になった) なんか神だ‥(語彙力も滑舌もない)