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ビルの隙間にまだ湿った空気がこもっている。
パク・ヒョヌは、店の制服のまま路地裏に腰を下ろして_、
乾ききらないアスファルトの上でタバコに火をつけた_。
火をつけたはずなのに_、吸い込む煙はどこかに逃げていく_。
目の奥が痛いのか、空気が痛いのか_、自分でもよくわからなかった_。
さっきまで店で流れていたシャンパンコールの声が_、
耳の奥にまだ残っている_。
「詐欺にあったんだ」
いつも同僚にそう言って笑ってみせる_。
本当のことなんか誰にも言わない_。
_ 2億ウォンの借金。_
ソウルの部屋に置き去りにしたはずの現実が_、
こんな路地裏の水たまりにまでついてくる_。
ヒョヌはポケットから小さな包みを取り出した_。
封を切る前に_、
誰かの気配がした気がして振り返る。
でも誰もいない_。
「뭐야…」(なんだ…)
誰にも届かない韓国語を吐き捨てて、
また煙を吸い込む_。
夜明け前の歌舞伎町は、まだ眠ってくれない_。
タバコの火が指先まで落ちて、
ヒョヌは慌てて地面に押し付けた。
指先に焦げた匂いが残る。
その時だった。
「吸い殻、踏んでも煙は消えないんだよ。」
すぐ後ろで声がした。
振り向くと、路地裏の入り口に立っていた男が、
傘も差さずに濡れた髪を撫でて笑っていた。
紫色の髪が、
夜の街灯を受けてわずかに光る。
「뭐야…잠깐만.」(なんだ…ちょっとまって。)
思わず声が漏れた。
紫髪の男はおどけたように眉を上げ、
ポケットから新しいタバコを取り出すと、
ヒョヌの足元にしゃがみ込む。
「火、ある?」
ヒョヌは息を詰めたまま、
さっきまで使っていたライターを差し出した。
紫髪の男はそれを受け取ると、
一本咥えて火をつけ、
もう一本をヒョヌの唇に押し当てる。
「こんなとこで、何してんの。」
近すぎる距離で落とす声が、
薬と煙草の匂いに混じって胸を締めつける。
「秘密、また増えた?」
視線が、ヒョヌのポケットの奥に隠した銀の包みを一瞬だけ撫でた。
ヒョヌは答えなかった。
答えられるわけがなかった。
路地裏の向こうで、空が少しずつ明るんでいった。