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体育館は、
もはや体育館ではなかった。
床を覆うように広がる森林。
毒々しい色の茂みが、
静かに揺れている。
「……おい、ここ……」
サークルが言葉を切った。
――音。
ざわり、と。
一斉に、茂みが割れる。
「なっ――!」
飛び出してきたのは、
無数のヘビ。
だが、生き物ではない。
紙で折られた胴。
糸で繋がれた関節。
目の部分だけが、
邪の光を帯びている。
「パペット……!」
次の瞬間、
一斉に襲いかかった。
教師たちは散開し、
必死に距離を取ろうとする。
だが、
ヘビは地面を這わない。
跳ぶ。
空中から、
巻き付くように迫る。
「ぐっ……!」
一人の教師が、
腕を押さえて倒れた。
噛まれた。
血は出ていない。
だが――
「……なに……?」
その教師が、
ゆっくりと顔を上げる。
視線が、
味方を捉えた瞬間、
歪んだ。
「……敵……?」
「おい、正気か!?」
次の瞬間、
その教師は
仲間に向かって突進した。
「やめろ!!」
止めに入った教師が、
別のヘビに噛まれる。
そして、
また一人。
「……あ?」
「……なんで……?」
体育館に、
混乱が連鎖する。
敵と味方の認識が、反転する。
「サークル!後ろだ!!」
タヴェルの叫び。
だが、
サークルは振り向かない。
――振り向けない。
視界の中で、
タヴェルが
“敵”として映っていたからだ。
「……近づくな……!」
サークルは、
震える手で
衝撃波を放つ。
タヴェルが吹き飛び、
床を転がる。
「な、にを……!」
別の教師が
サークルに掴みかかる。
サークルは
反射的に反撃し、
互いに倒れ込む。
茂みの奥で、
少女の邪――ラナは、
ただ、見ていた。
パペットたちの糸が、
静かに揺れる。
命令は、出さない。
認識が狂えば、
人は勝手に壊れる。
教師たちは、
叫び、
疑い、
殴り合い、
逃げ惑う。
「やめろ!俺だ!分からないのか!?」
「嘘をつくな!!」
「近寄るな!!」
誰も、
自分が噛まれたことに
すぐ気づけない。
気づいた時には、
もう遅い。
体育館は、
悲鳴と混乱で満たされていく。
――ラナは、
小さく首を傾げた。
まるで、
「どうして?」と
尋ねるように。
だが、
答えは分かっている。
彼らは、
ずっとこうしてきた。
判断を、 他人に委ね。
責任を、 規則に預け。
そして、 誰かを敵にしてきた。
彼女はその犠牲だ。
今度は、 それが自分たちに
返ってきただけだ。
森林の奥で、
邪の糸が、
さらに広がっていった。