「──ああ、それと中也裙。君と太宰裙は暫く任務を共にしていなかったから、気付かなかったかもしれないけれど」
─太宰裙、行方不明になっているのだよね。
先程行って来た任務の報告を終え、執務室から退出しようとした矢先、己の耳に飛び込んで来た首領の言葉を、俺は理解できなかった。
「…行方不明、ですか。」
「そうなのだよ。今現在、彼は組織を裏切った可能性が高い。矢ッ張り中也裙も、何も聞かされていないよねえ。」
必死に動揺を隠してそう問うと、首領は優しく、けれど絶望を感じることを告げる。
…裏切った。太宰が、俺を置いて。
「…そう、ですか。…彼奴が居なくて清々しますね、」
「組織としては不利益になってしまうけれど、中也裙のこれからに期待しているよ。」
下がりなさい、と笑顔で続けた首領に従い、執務室を後にする。
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所変わり、数ある中で、恐らく一番使っているであろうセーフハウスへ帰宅した。
帽子と外套をハットラックとコートラック、別々に掛け、ワインセラーから 一番好きな葡萄酒、『シャトーペトリュス』の八九年ものを取り、ソファに腰を掛ける。
少し前、首領から頂いた其れは大切に保管していた為、傷一つ無い。
栓を取り、ワイングラスに注ぐと、発酵した葡萄の匂いが部屋に充満する。
グラスにそっと唇が触れ、口内に葡萄酒が入っていく。
ジャムの様な粘り気があり、力強い存在感とは裏腹な、滑らかな口当たり。
重なり合う様な芳醇な味わいの深さ、濃厚であり乍らも飲みやすい品質で、日頃から愛飲している 自慢の葡萄酒だ。
…矢張り他の葡萄酒より、頭一つ飛び抜けて美味い。不死身のワインと謳われ、最高価格は三〇〇万以上を張る 最高級葡萄酒なだけはある。
先刻、首領から知らされた、相棒が居なくなった絶望と寂しさを紛らわす為、無理矢理にでも忘れさせる為に、”大嫌いな相棒が居なくなった祝い”と称して、古い葡萄酒を喉に通した。
途端、何かが頬を濡らした気がした。
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コメント
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うわぁぁぁあ....好き...中也ぁ...大嫌いな相棒かぁ...本当にそう思ってるのかなぁ...何か最後切なすぎて泣きそう...今回も最高でした!ありがとうございます!