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#執着攻め
高昌国釈迦如来の軍勢に囲まれていた悟空達、彼から提案された内容は悟空達にとって衝撃が大きいものだった。
***
孫悟空ー
俺達の逃げ場を失くして、何を言い出すかと思えば一時休戦だと?
経文を奪い合ってる関係性の相手に、考えなしに言った言葉じゃないだろう。
俺達が持ってる経文の本数は二本、三蔵が持っている有天経文と俺が持つ魔天経文だ。
釈迦如来達は経文を一本も持っていない状態、俺の気を引いて経文でも奪うつもりなのか?
「一時休戦?何が目的だ」
「君にとっても悪い話ではないよ、先に美猿王達を片付けないかな」
俺の考えにはなかった答えが返ってきて、釈迦如来に返す言葉が見つからない。
まさか、釈迦如来の口から出てくるとは思ってもなかった。
「美猿王達は経文を三本も所持しているだろう?彼等達を殺してしまえば、残った経文は我々で奪い合えばいい。悪い話じゃないと思うけどなぁ」
「標的を美猿王達に変えたと言う事ですか、簡単に殺せる相手だとは思いませんけど」
釈迦如来の言葉を聞いた白沢が、釈迦如来と阿弥陀如来の顔を交互に見ながら呟く。
「普通の力のない人間なら簡単に殺せますが、美猿王を囲む鬼達は更に強い、その鬼達の王である美猿王もまたね。我々の目的も同じですし、先に厄介な方を片付けないかい?」
「美猿王を倒したとしても、俺達は敵同士に戻るんだろ?だったら、話を受ける価値もない」
「貴方に話していませんよ?鳴神、貴方もまた力のなかった人間だったくせに」
「テメェ…」
親父に喧嘩を売るような言い方をし、釈迦如来は俺に視線を向ける。
「アンタ、美猿王の力を恐れるんだろ」
「はい?私が?あの男を恐れていると?今、そう言いました?」
俺の口から出た言葉が信じられない様子で、釈迦如来の眉毛がピクピクと動き怒りを露わにしていた。
奴は誰かも頼らず、誰にも縋る事なく、己の力のみで神に抗い続けてきた俺の半身の方がよっぽど神らしい。
美猿王の過去を知らなかったら、釈迦如来に対してこんな事を思わなかっただろう。
クソッ、美猿王の事をカッコイイなんて思っちまうんだ。
男としてカッコイイと感じちまう、だって一人から始まり、鬼達と出会った事で奴もまた変わり、家族を手に入れた男。
俺に頼ってきた釈迦如来は、男としてカッコ悪いじゃねーかよ。
唇を強く噛みながら服の袖を掴んでいた手を離し、まっすぐ釈迦如来を見据えた。
「俺に話を持ち掛けてきたのも、束になって美猿王の事を殺す為だろ?俺達が戦ってる間に、経文を盗もうって腹だろ」
「お前、中途半端な存在なのに釈迦如来に盾突く気?」
俺の言葉を聞いた阿弥陀如来は不服疎な表情を浮かべ、口を閉じていた小桃が阿弥陀如来を見ながら口を開く。
「悟空の事、そんな風に言わないでほしい神様」
阿修羅如来は小桃の言葉に答えず腰に下げていた刀を抜き、小桃に刀先を喉元に向けられる。
その様子を見ていた白虎が牙を剥き出しにしながら、阿弥陀如来に向かって怒鳴りつけた。
「テメェ、うちのお嬢に何してくれてんだ!?」
「耳元で大声を出すな、うるさい。この女は私に意見してきたの、殺すに値する事をしたの。釈迦如来、この女の首を刎ねて良いでしょ?ねぇ、良いでしょ?」
阿弥陀如来がそう言うと、髪の毛の隙間から見えていた赤色の目玉がぎょろっと見開く。
釈迦如来は頬杖をしながら、阿弥陀如来の意見を了承すると、阿弥陀如来は嬉しそうな顔をしたまま刀先を
小桃の喉元に突き刺そうとした。
「お嬢!!!」
キィィンッ!!!
白虎の呼び掛けを遮るように、小桃は阿弥陀如来が刀を動かした同じタイミングで刀を抜き、阿弥陀如来の刀の動きを止めていたのだ。
阿弥陀如来も小桃の動きを予想していなかったようで、目が点になっている。
「小桃、普通の女の子よりは弱くないよ。悟空、小桃は悟空の決定に従うから。ここにいる皆も同じ気持ちだと思う」
小桃の言葉を聞きながら親父達を見ると、小桃の言っている事が本当だと言う事が分かった。
俺は小桃達から見て、恥じない存在でありたい。
「断る、美猿王の事は俺一人で殺す。お前と組む事は一生ない」
「俺の息子がこう言ってんだ、道を開けてもらおうか」
親父がそう言うと肌に彫られていた龍が浮き上がり、そのまま龍が飛び出し親父の背後でくるくる回っている。
龍はかなり大きく、背中に人間が六人か八人くらい余裕で乗れる程の大きさだろうか。
「そうか、それは残念だ」
釈迦如来の言葉に反応し、黒い鎧を着た兵士達が武器を手に取っては距離を詰めて来る。
俺達の事を敵認識しておるのだろう、釈迦如来の言葉一つで殺す体勢に入っているんだから。
釈迦如来が連れて来た軍勢を俺達だけ相手をするのは厳しい、特に小桃の事を守りたい。
「白虎、俺の言いたい事は分かるな」
俺は如意棒に触れながら白虎に声をかけると、白虎は俺の意図を読み取ったように小桃の前に立つ。
「悟空様、阿弥陀如来の事を相手するには大変ですよ」
白沢の言う通り、阿弥陀如来はこの中で一番実力のある女、小桃が奴の動きに反応出来たのは、大したものだ。
「あ、そうそう。君にの前にいるのは君の部下だよ」
「俺の部下だと?この面を張り付けられた野郎共が?」
「ここにいる兵士達は、鬼に殺された者達なんだ。私の力で、新たな姿となって動いているんだよ?どうだい?この力は神である私にしか使えない」
「なっ、んだと?そんな筈ない!アイツ等が死ぬ筈は…」
釈迦如来の言葉に反論しようとした親父だが、目の前にいる兵士にボロボロの鎧を見て口の動きを止める。
唇から血が出る程に強く噛み、親父の体から静電気のようなものが纏われた。
「お前、俺の部下になんて事してくれてんだ!何で、楽にさせてやらない!?死んでもなお、アンタの為に戦わせるんだ!!!」
「生も死も私のモノだからだよ?何を言っているんだ?お前は」
「コイツ等は俺と観音菩薩を逃がす為に、命を懸けてくれたんだよ!?それなのに、お前はっ!!!」
「そんな事は知らないし、死んだ理由なんてどうでも良い」
「貴様ああああ!!!」
親父は怒りに身を任せて槍を構えて、釈迦如来の元に向かい振り翳すが阿弥陀如来に槍の動きを素手で止められる。
バチバチバチ!!!
体に纏っていた静電気が槍を通して、阿弥陀如来の体に大量の電気が流れるが、表情を変えずに肌も焼けることなく立っていた。
阿弥陀如来の手から乱暴に槍を抜き、すぐに後ろに下がって距離を取る。
「お前、何者だ?」
「私?」
「なっ!?」
親父の視界に映らずに阿弥陀如来は親父の目の前まで距離を詰近付け、刀を肩に突き立てるが小桃の方が刀を振る方が早かった。
キィィンッ!!!
刀同士が強くぶつかり合い小さな火花が起こり、小桃は刀の向きを逆さに持ち替え、阿弥陀如来の肩に刃を食い込ませる。
ズシャッ!!!
小桃の動きを見た釈迦如来も驚いたようで、頬杖していた手を放して小桃の事を見つめた。
「驚いたな、阿弥陀如来に怪我をさせれる妖怪がいたなんて。それも、花妖怪に」
「小桃は強くなりたくて努力したの、悟空の事を守れるくらい強くなりたいって強く思たから。神様、どうしてこんな事をするんですか?」
「君さ、自分の国から出た事がなかったでしょ?」
「え?」
「狭い世界の中でしか世界を見てこなかったから、そんな事を言えるんだよ。全ての出来事は、尊い犠牲の上で成り立っているんだよ。空腹を満たす為に動物や魚を殺すだろう?一つの犠牲によって、我々は飢え死にをする事はない。いちいち、動物を殺す時に考えてないだろう?この子達の未来についてなんて」
釈迦如来の言葉を聞いた小桃は、顔を青ざめて口元を抑える。
ズシャッ!!!
阿弥陀如来は相も変わらず刀に刺さった刀を手掴みで抜き、自分の傷口から噴き出した血液が頬にかかった。
「可哀そうだと思った事はあった?そんな事よりも空腹の方が勝ったんじゃないか?人に生まれた以上、欲には勝てないものなんだよ。欲しいものが出来たら、手に入れるまで頭から離れない、自分の手に入るまでは。自然の摂理なんだよ、この欲は。この世界が出来た時から、そうなってるんだよ。。無意識の中で、私達は誰かの命を奪って生きている。そんな事は考えてこなかった?」
「アンタが言ってる事の半分は正しい、生きる上で生き物の命を奪っている自覚はある。だがな、アンタは人と言う存在を殺し過ぎてんだよ。自分が座ってる死体の山以上に、殺してきてんだろ?今まで生きて来た中で」
「それが許されるのが神なんだ。人間だと罪に問われ、多くの人の前で殺されるだろう?神だとまず、裁判なんかないな。天界人が罪を犯した場合はあるけどね」
釈迦如来の話を聞きながら、自分が天界の裁判場に立たされた時の事を思い出していた。
生卵や空の酒瓶を投げつけられ、神達の汚らしい笑顔と笑い声が裁判場に響き、綺麗な青空の下で俺の心は神達に殺された。
あの時の額から流れた血の味を忘れた事は一度もない、この先もきっとない。
「俺はこの世界を捨てて、新しい世界を三蔵達を作る。アンタのような神を二度と生み出さねー為に」
そう言いながら如意棒を構えると、親父と小桃は嬉しそうな顔をしながら武器を構え、白沢もまた同じように扇子を広げる。
「貴方は知らない間に、こんなに大きくなられていたのですね若」
丁が小声でそう言って、俺の背中を瞳を潤ませながら見つめていた。
***
黎明隊部隊長 丁
俺と若が初めて出会ったのは長老に抱かれた赤子の姿、俺達とは人種が違う生き物の姿をした貴方だった。
「この子の事を命がけで守れ、良いな丁」
「はい、長老様」
俺の返答を聞いた長老様は赤子を落とさないように手渡しされ、小さな我らの王様が俺の腕の中で寝ている。
暖かい…、生きているのだから当然なのだが、獣とは違く乳の甘い匂いがし、肌も少しで爪で引っ搔いてし
まえば怪我を添てしまいそうな程に薄い。
この小さな王様を誰かが守らないと簡単に死んでしまいそうな危うい存在は、俺が下の世話から食事の世話まで行う事になり、俺達は武闘派の部隊なのに、赤子の世話係になってしまった。
人の世話は想像以上に大変で、朝から晩まで泣かれ、泣き止ますのが本当に大変だったが、若の寝ながら俺の指を掴んでくるものだから、簡単に許してしまう。
若が人で言う三歳になった頃、今まで言葉を話させなかった若が最初に口にした言葉は俺の名前だった。
「ちょん」
「っ!!!はい、若」
「ちょん」
「若は天才です!!!俺の名前を呼んで下さるんて…、光栄です」
名前を呼ばれる事は今まであったのに、若に自分の名前を呼ばれるだけこんなにも嬉しいものだったのか。
若がこの世に生まれてきて、人生で初めて口にした言葉が俺の名前だなんて、そんなの嬉しいに決まっている。
そう思ったと同時に奇跡に思えた。
俺が若の側にいなかったら、俺の名前を最初に呼んでくれる事はなかった場合もあった筈だ。
そうだ、俺以外にも李や、胡、高だっていたし、三匹のうちの名前を呼んでいた可能性だってある。
「本当に凄いっすよ!!!次は俺の名前を呼んで下さい。簡単ですよ?リーって言うだけです」
「次、俺の、名前を…」
「お、いつもは自分を前に出さない高が珍しいな。ま、俺も若には名前を呼んでもらいたいけどな」
小さな我らの王様に俺の部下が囲い、仲睦まじい光景を見ながら心の中で強く願った。
若が成長していくにつれ、花果山の王としての威厳が出て来たのは若が狙われる立場になってから。
自分の身は自分で守らなければ殺される、自然の摂理に従ったが故なのか、王は冷酷なまでに強くなってしまった。
可愛らしかった桃色の頬も今では血に染められ、純粋な眼も鋭くなり、子供なのに子供ではなくなって、そうさせたのは誰なんだ?
「流石は王、この花果山を襲う者達は誰もいなくなりましたなぁ!」
長老様は何故か得意げに話し、若のご機嫌を取っているつもりだろうが、若は長老様の話をつまらなさそうに聞いている。
あの純粋な存在を血の色に染めてしまったのは、他の誰でもない花果山の猿達だ。
全ての戦いに我々でなく、若に頼り、自分達の事を守る事に長老たち含めた猿達が、徹し出してしまったから。
若は俺達黎明隊に幼き頃のように甘える事はなくなり、戦いの中でしか心の底から笑えなくなった若を見るのが辛かった。
だから、若に牛魔王と言う友人が出来た時は嬉しかったし、花果山を旅立っていた日は寂しさもあったが若
を自由にさせてあげれた気もがした。
自由になってほしかった筈なのに、花果山が牛魔王の仲間である混世大魔王に襲われ、若の元に助けを求めてしまったのに、渋る若の背中をしたのは一人の人間の爺さん。
彼が若を変えた人間なんだとすぐに分かった、爺さんを見つめる若の視線が優しかったから。
混世大魔王を倒した後、若は颯爽と爺さんの待つ寺に帰って行く背中を見て、俺は日一人でこう願う。
『神様どうか、俺の王様が傷付く事なく、幸せな未来を歩めますように』と願っていた筈なのに、我らの王様は神の手によって未来が壊されてしまった。
「隊長、大変だ!!!若が天界軍に捕まった!!!」
「
若が捕まっただと?どう言う事なんだ李!!!」
若が旅立って数時間後、慌てて戻って来た李が放った言葉を理解するのに時間が掛かり、隣に立っていた胡からの説明を聞き、いてもたってもいられなかった。
爺さんを殺した?そんな筈はない、だって若はあ
の爺さんの元に帰って言っただけなのに。
「殺す筈はない、若は殺していない、殺してないんだ!!!」
「丁、武器を手に取ってどこに行くつもりだ」
「若を助けに行くのです、長老様」
「お前、神を敵に回す気なのか?!」
俺の言葉を聞いた長老様は大声をあげるが、臆する事なく長老様に異議を申し立てる。
「長老様、俺の神は若です、若なんですよっ。俺達が今、他の山の猿からも妖からも襲われずに生活が出来ているのは、他の誰でもない若のお蔭ではありませんか。幼い若に殺しをさせ、今の平和な生活があるんですよ?その事は長老様も知っているではありませんか?」
「それは…、そうじゃが…」
「俺は若に幸せになってほしいんです、ただそれだけなのにっ、若が捕まるなんておかしいんです」
「隊長、俺達は隊長について行きますよ」
「お前等…」
長老様と話していると、武器を持った李と胡、高の三
人を含めた黎明隊数百匹が俺の後ろに立っていた。
「お前達、天界に行けばどうなるか分かっているじゃろ?間違いなく殺される。わしら猿の言葉など、神様達は誰も耳を傾けないぞ」
「俺は若が生きてくれるなら、それだけで良いんです。俺が死んで、若が生きてくれるなら本望ですよ」
***
長老様、俺はあの時、天界に乗り込みに行った事を後悔していません。
だって今、俺は死んだ筈なのに若の大きくなった背中を眺められているんですから。
こんな所で若の進む道を阻ませる訳にはいかない、若の足を止めさせる訳にはいかない。
「李、胡、高、俺に命を預けてくれるか」
俺の言葉を聞いた三人は一瞬だけ驚いた顔をしたが、一斉に若の方に視線を向け、俺の意志に同意するように武器を構える。
「隊長、今更じゃないっすか。俺達の今、生きていられているのは若のお蔭なんですから」
李は額に冷汗を流しながら強気な言葉を吐く中、胡が若の父上に耳打ちをしていた。
「若の父上、若を連れてお逃げ下さい」
「お前等、死ぬ気か?この数の兵士達を相手に、お前
等四人で勝てると思っているのか?」
「俺達には特別な力もなければ、陰陽術さえも使えません。勝とうだなんて思っていませんよ、俺達は足止めをするだけです。高が斬り込みに入ったら、貴方の龍に乗って逃げて下さい」
「ガルウウッ!!!」
ブンッ!!!
体を巨大化させた高は戦闘の兵士達に向かって、大きく鎌を振り上げ胴体を斬り落とす。
紫色の血飛沫が上がる中、若の父上は若の腕を掴み、俺達に背を向けさせた。
「おい、何してんだ親父!!!」
「ここを離れる、俺の龍の背中に乗れ」
「何言ってんだよ、まさか丁達を置いて行くのか」
「若、その通りでございます」
若の父上の代わりに答えると、若は目を見開きながら言葉を吐く。
「俺がいつそんな事を頼んだ?お前等に、ここで死ねと言ったか!?」
「いえ、俺の独断で決行しました。若、貴方には天竺に行くと言う目的があるでしょう?ここで立ち止まっている時間はない筈です」
「グアアアア!!!」
「高っ!!!」
俺と若が話をしていると、高の体に何本もの槍が体を突き抜け、兵士達と戦っていた李が叫ぶ。
「ガハッ!?ガ、ガルウウッ!!!」
槍が体に刺さった状態のまま高は叫び声を上げながら、鎌を振るい続け兵士達の体を斬り付けて行く。
高の援護に入るように李と胡の二人が走り出し、三人だけで兵士達の群れの中に飛び込み、体を斬られても、武器を突き立てられても足を止めなかった。
これも全ては若を天竺に行かせる為、それだけの理由で三人は命を捨てに行っているのだ。
「若、行って下さい。ここは我等が食い止めますので」
「丁、俺から最後の命令を言う」
「はい、若」
「ここの奴らを全員殺してから、俺の元に戻ってこい。李、胡、高、お前等も俺の言葉は聞こえてるな、返事がないぞ、どうした?俺の命令が聞けないのか」
若の言葉を聞いた李、胡、高は若の方に振り返り、三人の瞳が潤んで声を詰まらせながら答える。
「「「御身の忠義を持って、命令を承りますっ」」」
貴方って人は本当に変わられた、花果山と言う狭い世界の中から広い世界に出た御身だからこそ、我々は貴方に仕えられた事が奇跡のように思えています。
俺は若に向かって、花果山を出て行った時に長老様達とした抱拳礼をした。
若は父上達と共に龍の背中に跨り、勢いよく上空に上昇して行く。
「阿弥陀如来、逃がすな」
「分かった」
「若の邪魔をしないでもらおうか、神様」
釈迦如来の言葉を聞いた阿弥陀如来が走り出そうとしたが、俺はつかさず阿弥陀如来の前に立ちはだかり歩みを止めさせる。
阿弥陀如来は躊躇なく刀を振るい上げ、鎌をの刃で攻撃を防ぐと、胡が阿弥陀如来の背後に回り鎌を振るう。
ブンッ!!!
キィィンッ!!!
後ろを振り返らずに阿弥陀如来は手首を後ろに捻り、胡の鎌の動きを止めた瞬間、釈迦如来が連れてきた兵士達がが胡に背中に剣を突き刺す。
グサッ!!!
「ガハッ!?この野郎っ!」
胡は倒れている兵士の腰に下げられた剣を抜き、自分の背中を刺した兵士の首を斬り落とした。
ブンッ、ブシャアアア!!!
斬られた首から勢いよく血飛沫が上がり、胡は自ら剣を抜き、目の前にいる兵士達に視線を向ける。
「はぁ、はぁ、隊長。兵士達の相手は俺に任せて下さい、隊長はその女を…」
「すまない、頼む」
俺の言葉を聞いた胡は軽く微笑んだ後、傷だらけの李と高を引き連れ、兵士達に向かって走って行った。
阿弥陀如来の目には俺達の行動は、おかしく見えているのか笑いを堪えているのが分かる。
「ふふっ、馬鹿みたい。私に勝てないのは分かってるでしょ?そんなに早く死にたいの?」
「死にたくはない、見たいもの見れていないから」
「それは自分の仲間の命を奪ってまで見たいもの?」
「俺だけじゃない、李、胡、高、花果山の猿達全員が見たいものだ。若が斉天大聖となった世界を、近くで見たいんだよ!!!」
俺は叫びながら阿弥陀如来に斬りかかるが意図も簡単に止められ、阿弥陀如来が人差し指を伸ばした瞬間、俺の体に大きな穴が空いた。
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丁さん…。幼い若が初めて口にした言葉が「ちょん」だったってところ、もう泣きそうになりましたよ。あの小さな手が指を掴んでくる描写から、血に染まっていく王の姿、それでも「俺の神は若だ」と言い切る覚悟…。最後の「斉天大聖となった世界を近くで見たい」って言葉が胸に刺さりました。守りたい人を、自分の意志で選んで、命を懸けて通そうとする姿が本当に尊いです。