テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
1件
第200話、やばかった……!🥀 王都組が加わって戦線が持ち直したかと思ったら、パイソンの構文が術式の“役割”をずらしてくるの、本当に嫌な感じで沁みた。でもハレルが「雲賀ハレル、ここにいる」って自分の名前で固定し直すシーン、声出そうになった。名前ってやっぱり強いんだな。 あとサキがレアのいた場所を「勝手に使わせない」って言って名前で固定したのも、じんわり来た。箱じゃなくて“いた場所”として覚えてるって言葉、すごく大事だと思う。 パイソンが次に「名前ごと揺らす」って言ってるのが怖いけど、このチームでなら乗り越えられそうな気もする。次話が待ち遠しいです🖤
第200話 王都組烈戦
【異世界・転移した学園/校庭・朝】
校庭の南西側で、炎が弾けた。
ヴェルニの〈爆炎壁・第四級〉が、角の影獣を外周線から押し戻す。
その横を、リオの光刃が走った。
「〈光刃・第三級〉!」
影獣の肩が裂け、黒い霧が吹き出す。
だが、完全には倒れない。
崩れた肩の奥から、また別の影が盛り上がり、獣の形へ戻ろうとする。
ヴェルニが舌打ちした。
「しぶといな!」
リオが短く返す。
「残った影を食ってる。切っても戻る」
「なら、戻る前に燃やす!」
ヴェルニが両手を合わせる。
炎が円を描き、影獣の再生しかけた部分を包んだ。
黒い霧が焼けるように歪む。
影獣が初めて、大きく後ろへ下がった。
ジャバはそれを見て、口元を歪める。
「王都の連中、邪魔だな」
「邪魔をしに来た」
アデルが静かに言った。
彼女は校庭の外周近くに立ち、左腕の副鍵を淡く光らせている。
副鍵から伸びた白い線が、学園の南西外周を支えていた。
その線は、現実側の旧学園跡地を囲む光具とつながっている。
細い。
だが、切れていない。
ノノの声がイヤーカフに入る。
『アデル、その位置で安定してる』
『南西外周、現実側と同期回復』
『ただし、黒い構文がまだ線の端に残ってる』
アデルは視線を動かさない。
「構文の位置は」
『外周線の下』
『ジャバの影獣に隠れてる』
『たぶん、パイソンが外から差し込んでる』
「了解した」
アデルは副鍵の光を少し絞った。
広げない。
無理に押し返さない。
外周線の端だけを支える。
ハレルの〈固定界〉と同じ考え方だ。
必要な場所だけ。
守るべき一点だけ。
アデルは小さく息を吐いた。
「ヴェルニ、影獣を右へ流せ」
「簡単に言うな!」
「できるだろう」
ヴェルニは笑った。
「そう言われると、やるしかねえな!」
彼は地面を蹴り、角の影獣の横へ回り込む。
炎の壁を正面ではなく斜めに立て、影獣の進路を変えた。
影獣の巨体が、外周線から少し離れる。
その一瞬を、ハレルは見逃さなかった。
「一点固定――〈固定界〉!」
白い光が、影獣の後ろ脚の足元へ立つ。
影獣がそこでつまずく。
リオの光刃が、もう一度首筋へ入った。
黒い影が大きく裂ける。
今度は再生が遅い。
ノノの声が入る。
3
橘靖竜
『効いてる!』
『炎で再生を遅らせて、固定界で動きを止めて、光刃で削る』
『その組み合わせ、かなり有効!』
ヴェルニが笑う。
「聞いたか、ジャバ!」
「力押しなら、こっちも嫌いじゃねえんだよ!」
ジャバの顔から、少しだけ笑みが消えた。
◆ ◆ ◆
【現実世界・旧学園跡地周辺/南西外周・朝】
森の南西側でも、異変ははっきり見えていた。
地面の上に並べられた光具が、何度も明滅する。
白い線が消えかけ、そのたびに持ち直す。
南西班の相馬班長が叫んだ。
「光具を半歩外へ!」
「布紐を張りすぎるな!」
「線が震えたら、名前を確認しろ!」
隊員たちは指示通りに動く。
「南西一班、相馬班長!」
「佐久間、ここにいます!」
「宮野、右側を支えます!」
名前を呼ぶたび、光具の揺れが少しだけ落ち着いた。
森の奥には、校庭の影が見える。
実際には、そこには木々があるだけのはずだ。
だが、時折、その向こうに炎が走り、白い光が立ち、黒い獣が倒れる。
木崎はカメラを構え、その光景を記録していた。
「現実側から、戦闘が見えてる」
日下部の声が無線で返る。
『外周同期が進んでいる証拠です』
『ただし、近いということは干渉されやすいということでもあります』
「嫌な言い方だな」
『事実です』
木崎は森の奥を見た。
炎。
光。
黒い影。
そこにハレルたちがいる。
そして、まだ姿を見せていない敵もいる。
「南西班、気を抜くな」
木崎は言った。
「こっちで線を落としたら、向こうの戦いも崩れる」
相馬班長が頷く。
「了解」
その時、森の中から声がした。
「外周線を解除してください」
隊員の一人が、思わず顔を上げる。
だが、相馬がすぐに叫ぶ。
「誰の指示だ!」
声は答えない。
「名前を言え!」
森の奥は沈黙する。
相馬は歯を食いしばった。
「無視しろ!」
「名前のない指示には従うな!」
木崎は、カメラを森の奥へ向けた。
今のは、ジャバではない。
もっと冷たい。
もっと整った声だった。
「パイソンか」
◆ ◆ ◆
【異世界・転移した学園/体育館・朝】
体育館では、サキが確認方法を変えていた。
「役割からじゃなくて、名前から言ってください」
「先生も、生徒も、まず名前」
「そのあと、クラスや役割を続けてください」
青山先生が、生徒たちの前で頷く。
「私は、青山和子です」
「三年二組の担任です」
「今、体育館中央にいます」
床の光は安定している。
次に、生徒が答える。
「私は、小森ハルカです」
「三年二組です」
「内田ソウタの隣にいます」
「私は、内田ソウタです」
「三年二組です」
「小森ハルカと青山先生の近くにいます」
光が落ち着く。
サキは胸をなで下ろした。
ノノの声が入る。
『いい』
『名前を先にしたら、役割ノイズが入りにくくなってる』
ダミエは体育館の端で、結界線を見ていた。
「パイソンは役割の位置をずらしてくる」
「担任、生徒、避難者、術師。
役割だけで呼ぶと、そこを差し替えられる」
サキが聞く。
「名前なら大丈夫?」
「完全ではない」
ダミエは答えた。
「だが、名前はその人に近い」
「役割より奪われにくい」
サキは頷いた。
「じゃあ、続ける」
その時、体育館の隅に置かれていた記録用の光具が、かすかに震えた。
レアの箱があった場所。
箱はもう撤収されている。
だが、そこに残した記録用の光だけが、淡く揺れた。
サキはその場所を見る。
「レア……?」
ノノの声がすぐに入る。
『レア反応じゃない』
『でも、残響が揺れた』
『パイソンの構文が、そこにも触ろうとしてるかも』
サキは拳を握る。
「そこは触らせない」
ダミエが視線を向ける。
サキは、レアのいた場所へ一歩近づいた。
「ここは、レアを閉じ込めるための箱じゃない」
「レアがいた場所として、私たちが覚えてる場所」
「勝手に使わせない」
記録用の光が、少しだけ落ち着いた。
ノノが小さく言う。
『効いた……』
『サキの言葉で、残響が安定した』
ダミエは短く言った。
「続けろ」
「そこも名前で固定しろ」
サキは頷いた。
「うん」
そして、小さく、けれどはっきり言った。
「レア」
「ここにいたのは、レア」
記録用の光が、淡く白く灯った。
◆ ◆ ◆
【異世界・転移した学園/校庭・朝】
ジャバが吠えるように笑った。
「いいねえ!」
「増えた分だけ、壊しがいがある!」
ジャバの周囲に、また影獣が生まれる。
だが、前ほど自由には動けない。
アデルが外周を支え、王都兵が槍列を作り、ヴェルニが正面を押さえる。
ハレルとリオは、ジャバと影獣の動きを見て、必要な場所だけを止めている。
一つ一つはぎりぎりだ。
それでも、さっきより戦線は安定していた。
リオが副鍵を細く光らせる。
「校舎側、持ち直した」
ハレルが主鍵を握り直す。
「中心も保てる」
アデルが冷静に言う。
「外周も支えている」
「だが、パイソンの干渉が増えている。長くは持たない」
ヴェルニがジャバの拳を炎で受けながら叫ぶ。
「長く持たないなら、早めにぶっ飛ばすしかねえだろ!」
「できるならやってみろ!」
ジャバが踏み込む。
拳と炎がぶつかる。
ドンッ!
衝撃で校庭の土が跳ねる。
ヴェルニが歯を食いしばる。
「重いんだよ、お前!」
「褒めてんのか!」
「褒めてねえ!」
ヴェルニの炎が、ジャバの腕に絡む。
ジャバは黒影でそれを引き裂こうとする。
その横から、リオが光刃を入れた。
ジャバの脇腹が浅く裂ける。
「ちっ!」
ジャバがリオへ向き直る。
その足元に、ハレルが〈固定界〉を打つ。
「一点固定――〈固定界〉!」
ジャバの足が止まる。
ヴェルニが叫ぶ。
「今だ!」
炎の拳が、ジャバの胸へ叩き込まれた。
ジャバの体が後ろへ吹き飛ぶ。
黒い影が大きく散った。
王都兵たちから、短い歓声が上がる。
だが、アデルだけは表情を緩めなかった。
「喜ぶな」
「まだだ」
その言葉通り、ジャバはゆっくり起き上がった。
口元から黒い影が漏れている。
だが、その目はまだ折れていない。
「……やるじゃねえか」
ジャバは笑った。
「でも、こっからだ」
その背後の黒い亀裂が、静かに広がる。
そこから、細い黒い文字列が流れ出した。
if。
else。
return。
break。
ハレルの背筋が冷えた。
「また……」
ノノの声が叫ぶ。
『パイソン干渉、増大!』
『固定界に黒い構文が絡んでる!』
『ハレル、次は出す前に位置を確認して!』
ハレルは頷く。
だが、もう遅かった。
ジャバの背後に出た黒い構文が、校庭の地面を走り、ハレルの足元へ向かって伸びる。
ハレルが動こうとした瞬間、地面に黒い文字が浮かんだ。
break。
主鍵の光が、一瞬だけ途切れた。
「っ!」
リオが叫ぶ。
「ハレル!」
ジャバが笑う。
「今だな!」
ジャバが踏み込む。
リオが前に出ようとする。
だが、その足元にも黒い文字列が走る。
else。
リオの副鍵の光が、逆方向へずれる。
「何だ、これ……!」
アデルが声を張る。
「名前で固定しろ!」
「術式の役割がずらされている!」
ハレルは歯を食いしばった。
役割ではなく、名前。
自分は主鍵。
でも、その前に。
「雲賀ハレル」
ハレルは自分の名前を口にした。
「ここにいる」
主鍵の光が戻る。
リオもすぐに続いた。
「一ノ瀬涼」
「ここにいる」
副鍵の光が戻る。
二つの光が、黒い構文を押し返した。
ジャバの拳が迫る。
ハレルは固定界を打つ。
「一点固定――〈固定界〉!」
今度はずれない。
白い光が、ジャバの拳を受け止めた。
◆ ◆ ◆
【現実世界・旧学園跡地周辺/仮設指揮所・朝】
日下部の画面にも、その瞬間が映っていた。
《MAIN KEY / INTERRUPTED》
《SUB KEY-R / REDIRECTED》
《NAME ANCHOR / RESTORED》
日下部が叫ぶ。
「名前で復帰しました!」
「ハレルさんとリオさん、自分の名前を言って鍵反応を戻しています!」
城ヶ峰が目を細める。
「本人確認が、術式にも効くのか」
「はい」
日下部は画面を見ながら言う。
「パイソンは役割や術式の意味を書き換える」
「でも、本人の名前で固定すると、書き換えが戻る」
木崎は森の奥を見た。
「名前、どこまでも重要だな」
日下部は頷いた。
「学園帰還にも、パイソン対策にも、レアにも」
「全部そこにつながっています」
その時、森の奥で黒い影が濃くなった。
木崎はカメラを構える。
「そろそろ、本人が出てくるかもな」
◆ ◆ ◆
【どこでもない層/薄い演算空間】
パイソンは、静かに盤面を見ていた。
ハレルが自分の名前で主鍵を戻した。
リオが自分の名前で副鍵を戻した。
サキはレアの残響を名前で固定した。
名前。
それが、思った以上に強い。
パイソンは、少しだけ目を細める。
「なるほど」
怒りはない。
むしろ、分析するような声だった。
「役割だけではなく、名前を核にしている」
「なら、次は名前ごと揺らしましょう」
パイソンの指が、盤面の端をなぞる。
学園。
体育館。
ハレル。
リオ。
サキ。
ダミエ。
アデル。
ヴェルニ。
そして、空白。
パイソンは、その空白の上で指を止めた。
「ちょうどいい」
「特別な駒は、もう準備できています」
黒い構文が、深層の廊下へ伸びていく。
◆ ◆ ◆
王都組の参戦で、学園の戦線は一度持ち直した。
ヴェルニの炎。
アデルの副鍵。
王都兵たちの槍列。
ハレルの固定界。
リオの光刃。
ジャバは初めて、押し返された。
だが、その背後で、パイソンの干渉は強まっていた。
役割をずらす。
術式の意味を書き換える。
名前と役割の結びつきへ入り込む。
それでも、ハレルたちは気づき始めた。
役割だけでは足りない。
名前が必要なのだ。
自分の名前。
仲間の名前。
レアの名前。
そして、名前を揺らす者が、ついに次の手を打とうとしていた。