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タールは発狂していた。
どうにもならない怒りを雑草にぶつけていた。
佐川のジャージを引き裂くとマンホールを覗いた。
梯子に黒い血が付着していた。
「ここか」
ケンタウロスの姿からサーザスの姿へ変身した。
タールはマンホールを飛び降りた。
マンホールの奥は、底が見えない。
まるで佐川を追い詰めんとするようだ。
「奴を見つけて、狩りの再開だ」
暫くして、トタン屋根が動きだす。
そこには、佐川の姿があった。
白のシャツと黒のズボンは白っぽく汚れていた。
破れたジャージを左肩、左肘に縛り付け止血するも黒い血は少し滲む。
マンホールの梯子に黒い血を垂らし、ジャージを投げ捨てる囮はどうやら上手くいったようだ。
「工場内に止血剤があればよいが」
マンホールの場所を離れた先の2階テラス部分へ目を向けた。
工場作業員の休憩所兼喫煙所らしい。
「あのテラスなら中へ入れそうだ」
工場の1階は錆びた鎖で封鎖されていた。
まるで心霊スポットのような雰囲気だ。
ふとテラスの側面を見ると、3階から1階にかけて排水溝パイプで繋がっていた。
「よし、やるか」
工場とパイプの連結部位に足をかけ、よじ登る。
まるで猿になった気分だ。
そんな気分とは裏腹に、今にもタールがマンホールから顔を出さないか心配になる。
自然と右手にも力が入る。
テラスの柵付近で、痛みを堪えて左手を伸ばした。
「登りきったぞ」
テラスへ着くと、窓ガラスが破られていた。
鍵の施錠はされているが、割れたガラスからも開閉できそうだ。
過去の侵入者もこの場所から出入りしていたと思われる。
鍵の施錠を上げ、工場の中へ入る。
工場内は機械、レーンがそのまま放置されていた。
「これだけ大きいなら、救急箱のひとつやふたつあるはず」
レーン近くに、緑の十字架マークが見えた。
医療室というラベルが剥がれていた。
あそこだ、急いで階段を駆け降りた。
部屋を開けると鼻をつく異臭が漂っていた。
「この臭いは好きになれんな」
机を漁ると2段目の引出しに、止血剤と包帯を見つけた。
慣れた手付きで、左肩と左肘に止血剤と包帯を巻いた。
保健体育の授業と母の教育が役に立った。
この時ばかりは日頃の学校教育と母に感謝した。
「これで、やっと紙を見れる」
ポケットの中に手を伸ばし、紙を見た。
紙には、こう書かれていた。
「衝撃は、人を守り」
「罪には、制裁を与え」
「拳を飛ばすは、人に制裁を」
「どういう意味だ」
佐川の右拳が光を放った。