タールはマンホールの下水を走り回っていた。
「何もない」
「佐川はどこにいったんだ」
「もうすぐ1時間経つ、そろそろ戻ることも考えないとな」
タールは冷静になり、元のマンホールに戻ってきた。
目を見開き、ケンタウロスの姿になった。
「イリは問題ないだろう、問題はグーンだな」
ぼんやりと工場を眺めていた。
そろそろ集合場所に戻ろうと思い始めた。
しかし、その足を止める出来事が起こる。
テラスの柵に黒い血が付いていたのだ。
「見つけたぞ、佐川」
4本足に力を入れ、高くジャンプした。
工場の3階をゆうに超える高さだ。
「少し張り切り過ぎたか」
テラス付近に調整し、着地した。
同時に左腕が弓となり、影でできた矢を右手で掴んだ。
割れた窓ガラス越しに狩人の目が光る。
獲物を見つめる鷹のようだ。
ドコーンと微かに音が鳴る。
タールの警戒心は更に高まり、足をジタバタさせている。
狩人はひたすら待った。
その瞬間が訪れた。
扉が開く音だ。
十字架マークの扉が開き、佐川を目視で確認した。
「やっと見つけたぞ」
右手に力がこもる。
心拍数を抑えて、リズムを取った。
あるリズムで目を細めた。
ここだ。
タールは佐川の頭に狙いを定め、矢を放った。
5分前…
佐川の右拳が光に包まれ、グローブとなった。
全体は黒で、赤の斜め線が3本入っている。
「なんだこれは」
右手を軽く突き出し、グローブを確認する。
机にあった花瓶が割れ、壁に拳の形が薄ら見える。
驚きを隠せなかった。
こんな異能の力がこの世の中にあっていいのか、警察沙汰にならないか不安を覚えた。
「こんな音を立てたんだ、タールがいれば気がつくはず」
奴は弓使い。
原理はわからないが、2本の矢をほぼ同時に飛ばしてくる。
1本目は視認でき、2本目は命中するまで視認できないと考えるべきだ。
幸い、この部屋の出口はここだけだ。
賭けになるが、奴が狙う角度は2階テラスと考える。
「それなら、真っ向勝負だな」
佐川は覚悟を決め、医療室のドアノブを掴み扉を開けた。
1本の矢が勢いよく、飛んでくるのを確認した。
「やはりきたな、タール決着を着けよう」