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夜。
病室は静かだった。
機械音だけが、
一定のリズムで響いている。
すちは眠っていた。
薬の影響か、
今日はほとんど目を覚まさない。
白い横顔。
浅い呼吸。
時々苦しそうに揺れる肩。
こさめはベッド横で、
ただそれを見つめていた。
昼間の言葉が、
頭から離れない。
『かなり厳しいです』
『いつ急変してもおかしくない』
嫌だ。
そんなの。
やっと、
すちが「生きたい」って言ったのに。
水族館行くって約束したのに。
🦈「……っ」
こさめは俯く。
怖い。
すごく怖い。
でも今は、
“忘れること”より。
すちがいなくなる未来の方が、
ずっと怖かった。
ゆっくり、
ポケットから端末を取り出す。
画面が光る。
残り寿命。
その数字を見つめて、
こさめは小さく笑った。
🦈「……半分くらい、あげてもいいよね」
掠れた声だった。
普通なら、
ありえない量。
人生の半分。
未来の半分。
でも。
こさめにはもう、
それが惜しいと思えなかった。
🦈「だって」
眠るすちの手を握る。
冷たい。
でもちゃんと、
ここにいる。
🦈「すちがいない未来、いらないもん」
涙がぽろぽろ落ちる。
本当は怖い。
この量なら、
何を失うか分からない。
記憶だけじゃ済まないかもしれない。
それでも。
こさめは震える指で、
譲渡量を設定した。
画面が赤く染まる。
――危険域です。
――重大な人格・記憶障害の可能性。
――実行しますか?
こさめは涙で滲む画面を見つめる。
それから。
小さく笑った。
🦈「……こさめ、ばかだなぁ」
でも。
後悔だけは、
きっとしない。
認証へ指を重ねる。
その瞬間。
🍵「……こさめちゃん」
声がした。
びくり、と身体が跳ねる。
顔を上げる。
すちが薄く目を開けていた。
眠たげな視線。
でも、
こさめの手元を見て、
顔色が変わっていく。
🍵「……なに、してるの」
掠れた声。
こさめの喉が詰まる。
すちはゆっくり起き上がろうとして、
苦しそうに息を乱した。
それでも必死に、
こさめの手を掴む。
🍵「だめ……っ」
その声が震えていた。
🍵「それは、だめ……!」
初めてだった。
すちがこんなに取り乱すの。