テラーノベル
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遠い遠い、時の果てのお話
そこに住まう人々は、みな永遠の命を持っていた。
老いることも、終わることもない世界。
ただひとりを除いて。
赤い実のなる木の下で、少女は小さく歌っていた。
「La La Lu La——」
その声はどこか寂しく、どこかあたたかい。
彼女は、生まれながらに“死の呪い”を与えられていた。
⸻
僕の名前はリョウカ
街外れ、青く光る湖のほとりにある小さなお菓子屋で、ひとり暮らしている。
「……ちょっと寒いなぁ」
籠に詰めたのは、赤い実で作ったパイ。
何度も改良した、自信作だ。
「待ってて。今度こそ、美味しいんだから」
そう呟いて、僕は街へ向かった。
時計塔の見える広場は、今日はやけに賑やかだった。
けれど、その中で僕の居場所はいつもと変わらない。
人の流れの端に立ち、声を張る。
「赤い実のパイ、どうですか? 自信作なんです」
けれど——
「そんなの売れるわけないだろ」
誰かが吐き捨てるように言う。
視線は冷たく、まるで僕が“いないもの”みたいに通り過ぎていく。
(みんなと、何も変わらないのに)
(ちゃんと美味しくできたのに)
声は、誰にも届かない。
まるで透明になったみたいだ。
誰もが知らぬふりをする。
なぜなら、少女は呪われているから。
彼女の使う赤い実を食べれば、“死”が訪れる。
終わることのない世界で、それは何よりも忌むべきものだった。
——だから人々は、彼女を遠ざける。
永遠の世界で、ただひとり“終わり”を持つ少女のお話。
⸻
「……できたっ!」
その日、僕は夜通しで新しいパイを焼いた。
どれだけ避けられても、諦めたくない。
「よし!」
無理やり笑顔を作って、家を飛び出す。
街に着いたとき、時計塔の針は空を指していた。
その瞬間——
「っ!」
背中に強い衝撃。
籠が宙を舞い、パイが石畳に散らばる。
誰も足を止めない。
それどころか、散らばったそれを踏みつけて通り過ぎていく。
ぐちゃぐちゃに潰れたパイを、僕は黙って拾い集めた。
そのとき。
もうひとつの手が、同じように伸びてきた。
その人は、迷いもなくパイを拾い上げて——
口に運んだ。
「……おいしいね」
その一言で、胸の奥がいっぱいになった。
涙が、止まらない。
(ああ、届いたんだ)
(ちゃんと、届いた)
前までは、輪郭が無かったかのようだったけど初めて僕が“ここにいる”と感じた。
⸻
彼の名前はヒロト。
彼は、最初から彼女に惹かれていた。
優しい笑顔。
壊れてしまいそうなほど儚い存在。
そして——“終わり”を持っていること。
永遠しか知らない彼にとって、それは恐怖ではなかった。
むしろ、強く心を引きつける理由だった。
「これで俺も、君と一緒だ」
彼は静かに笑う。
「もう永遠じゃない」
「これからは、ふたりで生きていこう」
「……うんっ」
少女は涙のまま、笑った。
⸻
街の人々は、彼らを哀れんだ。
「永遠に生きられず、死ぬんだとさ」
「なんて可哀想な」
けれど——
ふたりは笑っていた。
それでも、笑っていた。
「La La La——」
歌声は、どこまでもやさしく響く。
⸻
「とっても素敵な呪いね」
少女はそう言って、赤い実を一つ手に取った
「たとえ明日死んでも、“今”がちゃんと大切になるから」
「終わりがあるからこそ、一瞬が輝くの!」
限りがあるからこそ、愛せる。
⸻
そのやりとりを上から神たちがみていた。
そのとき、一人の神が気づく。
いや、気づいてしまう。
——本当に呪われているのは、どちらなのか。
永遠に縛られた世界か。
終わりを受け入れた、ふたりか。
⸻
やがて“永遠”は、ほどけていく。
まるで最初から、存在しなかったみたいに。
世界は静かに崩れ、形を失う。
それでもふたりは、手を離さない。
「短い人生を愛そう」
「そして、存分に楽しもう」
「共に寄り添って」
「幸せに生きて——」
「幸せに死のう」
⸻
哀れな人間たちの物語
死んだ世界で
ただふたりだけが、幸せだった