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静かな夜だった。

窓の外では風がやわらかく街路樹を揺らし、部屋の灯りは落ち着いた橙色に染まっている。


ソファの端に、元貴は少し背中を丸めて座っていた。

指先が、首元に触れる。そこには細い革のカラーがある。金具は小さく、目立たない。けれど、元貴にとってはとても大切なものだった。


「……元貴」


低く落ち着いた声が呼ぶ。

振り向くと、滉斗が立っていた。ドアにもたれて腕を組んでいる。その視線は優しい。


「どうした」


短い問い。怒っているわけではないけれど、Dom特有の重みがある声だった。


元貴は少し迷ってから答える。


「……ちょっと、疲れただけ」


滉斗は数秒、何も言わなかった。

ただ、じっと元貴を見る。その視線は、嘘を見逃さない。


「元貴、Come」


静かに発せられたコマンド。


元貴は小さく頷く。逆らう気持ちはないし、むしろその声を聞くと安心する。

ゆっくり立ち上がり、滉斗の前まで歩く。


「Kneel」


元貴は一瞬だけ目を伏せてから、静かに膝をついた。

床に膝をつく音が小さく響く。


滉斗はその様子を黙って見ていた。確認するように。


「Look……目、少し赤い」


「……そう?」


「嘘つくの下手だな」


滉斗は苦笑して、元貴の顎にそっと指をかけた。

乱暴さはまったくない。ただ、元貴が視線を合わせやすくするための仕草。


「今日は外、頑張りすぎたんだろ」


「……少し」


滉斗の眉がわずかに動く。


「“少し”じゃないな」


元貴は黙る。

滉斗は小さく息をついた。


「元貴、Say」


これだから、滉斗に隠し事はできない。


「……疲れた」


「よく言えました。Good boy」


滉斗の手が頭を撫でて、ふと止まる。


「でも……俺のSubが無理するのは、好きじゃない」


その言葉に、元貴の肩が少し震える。

責められているわけじゃない。むしろ逆だった。守られている言葉。


滉斗は元貴の首元に手を伸ばす。

指先がカラーの金具に触れた。カチ、と小さく音が鳴る。


「これ、誰のだ」


元貴は少しだけ笑う。


「……滉斗の」


「違う、俺のじゃない」


滉斗は目を細め、指でカラーを軽く持ち上げた。


「元貴のだ。俺は預かってるだけ」


元貴は少し驚く。

滉斗の声は静かだった。


「元貴が安心できる場所の証だろ」


元貴の目が少し潤む。


Dom/Subの関係は命令や支配だけじゃない。信頼がなければ成立しない。


滉斗は少し身をかがめ、視線の高さを合わせた。

そして、少しだけ強くカラーを引いた。


「外で何があっても、ここに帰ってくる。約束」


元貴は頷く。


「Say、口に出して」


「……帰ってくる」


「もう一回、Say」


「帰ってくる」


「どこに?」


元貴は滉斗を見る。少し迷ってから言う。


「……滉斗のところに」


滉斗はふっと笑った。


「正解、Good boy」


滉斗は元貴の頭を軽く撫でた。


「今日はもう休もうか」


「……うん」


「ソファ、座りな」


元貴は素直に座る。

滉斗は隣に腰掛け、少しだけ距離を詰めた。


「寄り掛かっていいよ」


元貴は静かに滉斗の肩にもたれる。

滉斗は何も言わない。ただ、元貴の頭をゆっくり撫でる。


しばらくして、滉斗が立ち上がった。


「ちょっと待ってろ」


キッチンから戻ってきた滉斗の手には、湯気の立つマグカップと水のグラスがあった。


「はい」


元貴の手にそっとマグカップを持たせる。


「甘いミルク。今日はそれ飲んでから寝ようか」

「……ありがとう」


元貴がゆっくり一口飲むと、滉斗はその様子を確認するように見ていた。


「ちゃんと飲め」


優しいけれど、しっかりした声。

元貴は小さく笑う。


「コマンドみたいな言い方……」

「半分な」


滉斗はソファに戻り、今度は元貴を自分の方へ少し引き寄せた。


「ほら、こっち」


元貴の頭を自分の膝に乗せる。自然な動きで、元貴は膝枕の形になった。

滉斗の手が、ゆっくり髪を撫でる。


「今日は外でいっぱい頑張った、だから今は、何もしなくていい」


元貴のまぶたが少し重くなる。


「ここでは元貴は休むだけ」


滉斗はそう言って、カラーに軽く触れた。


「俺が見てる」


その声は、コマンドではない、ただの約束だった。

元貴は目を閉じる。しばらくして、滉斗がぽつりと言う。


「元貴」

「……なに?」

「Good boy」


その一言で、元貴の力がふっと抜ける。


滉斗はカラーを軽く指で叩いた。


「元貴はちゃんと帰ってきた」


静かな声。


「ここに」


元貴は小さく笑う。


「……うん」


その夜、部屋の中には静かな信頼と、やさしさだけが満ちていた。

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