「君に謝らなければならにゃい・・・」
「お酒臭いんですけど・・・ 」
「今日は悪かったにゃ 」
「そんな猫語で謝られても・・・」
アリスは大きなため息を吐き出した
「君の存在は神が作った芸術だにゃ・・・俺は君という森を探検するぼうけんか・・」
「詩人なのね」
ふぅ~~・・・と北斗が大きく息をつく、アリスはじっと黙って北斗を見る。とろんとした目で北斗がアリスを見る
「俺はことばが時々つっかえるにゃ」
暫く二人の間で緊張した間が走った、でもアリスは彼に正直でいたかった
「知ってるわ 」
「うむ・・・しょうか・・・やっぱりバレてたか・・」
彼はいつもどおり温かく、自分だけのものだった
二人の未来はこの先わからなくても、今この瞬間だけは彼のやさしい抱擁に抗うことは出来なかった
「黙ってて・・・すまにゃい・・・君に嫌われたくなかったにゃ」
「私がそんなことで、嫌ったりするわけないでしょう?」
北斗が慰みを求める本能にかられた目で、しばらく妻に見入った
「おいてかないでくれ・・・・」
「私はどこも行かないわ 」
「うしょだ!!(嘘だ) 」
「まぁ! 」
ガバッと起き上がって泣きそうな声で言う
アリスは驚いた、北斗はアリスにしがみつき声を詰まらせた
「あ・・あいつは・・・去って行った・・・み・・みんな・・ここを出て・・いった」
アリスは向きを変え、北斗を自分の胸に引き寄せた
「あいつって・・・誰? 」
「お・・おやじ」
「お・・・俺は8歳まで話せなかった・・・それで・・あいつは俺を竹刀で殴ってしゃべってみろと・・・脅した・・・ 」
これには驚いてアリスは固まった、ショックを受けた、そんなむごいことをする親が世の中にいるなんて
アリスは彼がどもりはじめたことに気づかないふりをした、ただ彼の頭を優しく撫で続けた
「ひどいわ 」
彼の父親に対する怒りも、彼がうけたひどい仕打ちに対しても怒りが沸き上がってきた
「あいつは俺を出来損ないだと言って見るも耐えられないと言った・・・そして俺は東の離れに閉じ込められたんだ何日も・・・何日も・・・誰も俺に会いにこなかった・・・ 」
「あなたは出来損ないなんかじゃないわ、そのお父様が見る目がなかったのよ」
「い・・・今でも・・・時々夢に見るんだ、アイツが俺を軽蔑して蔑んだ目で俺を見ている・・・そ・・・それから・・・竹刀を振り上げるんだ」
「俺は・・・いっそ殺してくれることを・・・のぞんだ・・ 」
その言葉にはショックを受けた、アリスは彼の手をしっかり握った
繋がっていなければいけない・・・どういうわけか、今手を放したら、永遠に彼を失ってしまいそうな気がして怖かった
「アリしゅ・・・俺は・・・君にあんな目で見られたら・・・生きていけない・・・ 」
彼から穏やかな寝息が聞こえて来た、濃い睫を頬にぴったりと伏せた顔は無邪気で、その寝顔はあまりにも弱々しく見える
彼が父親から受けた傷はあまりにも悲しく、そしてあまりにも深い、そして今でもこれほど深く苦悩している
しかしアリスは思った、それでも彼をこれほど苦しめた父親は、もういないのだ
それどころか、そんな酷い虐待を受けたのに、彼は立派に成人し、知性溢れ、父親の残したこの牧場を発展させている
アリスはじわっ・・・と目に涙が溢れて来た
普通ならやけになって人生を棒にふっても、おかしくないのに、彼はなんて素晴らしい人なんだろう
彼は父親の亡霊に憑りつかれている、彼が常に死んだ父親を思い出して、生きる事を人生の基軸にしているならどうして、一緒に幸福になれるだろう
充実した幸せな人生を生きてほしい、父親が彼には無理だと決めつけていた、至福の喜びや栄光を手にしてほしい
「あなたはお父様が思っているような、男の子じゃなかったのよ」
「ありしゅ・・・・ 」
ムニャムニャとアリスの胸で、気持ちよさそうにしている
「お父様は酷かったのよね・・・でももう忘れなければ・・・悲しみや怒りに支配されてはいけないわ」
静かに彼から寝息が聞こえる、愛しくてぎゅっと抱きしめる腕に力が入る
喉に熱いものが込み上げて、思わず唾を呑みこんで、アリスは北斗に優しく囁いた
「一緒に幸せになりましょうね・・・
旦那様・・・ 」
..:。:.::.*゜:.