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ふとした瞬間の仕草が、あまりに似ていた。
僕がmonのことを特別に意識し始めたきっかけは、そんな、取るに足らない理由だった。
視線の外し方、不機嫌そうな時に寄せる眉間の皺、そして、名前を呼ばれた時に少しだけ顎を引く癖。それらすべてが、僕がかつて深く愛し、そしてもう二度と会えなくなった「あの人」の面影を呼び起こした。
最初は、その面影を追いかけていたんだと思う。 彼の中に、失ったパズルのピースを探して、勝手に自分を納得させていた。
monと一緒にいる時間は、どこか過去をなぞるような、ノスタルジックで静かな安らぎがあった。
mon「……ねえ、trskさん。またそれ?」
いつものように、僕がぼんやりと彼の横顔を見つめていると、monが不服そうに口を尖らせた。
撮影の合間、隣同士で座っている椅子。monは僕の視線の意味を測りかねているようだった。
trsk「ごめん。……ちょっと、考え事」
mon「僕の顔を見て考え事されるの、あんまり好きじゃないんだけどな。……何? 僕の顔に、その『誰か』の面影でも映ってる?」
心臓がどきり、と跳ねた。
monは鋭い。僕がひた隠しにしていた「重ね合わせ」を、彼は直感で感じ取っていたのかもしれない。僕は誤魔化そうとして、あいまいに笑った。
trsk「……どうして、そんなこと言うの」
mon「だって、trskさんの目はいつも僕を見てないもん。もっとずっと、過去のほうを見てる。……僕のこと、誰かの代わりにして楽しい?」
monの声は低く、少しだけ震えていた。
最年少の彼に見せている、僕の身勝手な優しさが、彼をどれほど傷つけていたのか。その時、僕の中にあった「面影」という名の薄い膜が、音を立てて破れた気がした。
trsk「……違う。違うんだ、mon」
僕は思わず彼の腕を掴んでいた。
伝わってくる体温は、記憶の中にあるあの人のものより、ずっと熱くて、確かだった。
あの人はもっと僕に優しかったけれど、こんな風に僕の目を見て、本気で怒ってくれたりはしなかった。
trsk「最初は、確かに似ていると思ったよ。……否定はしない。でも、今はもう、似ているところなんてどうでもいいんだ」
mon「…………」
trsk「君はあの人みたいに、僕が黙っていても察してはくれない。こうやって不満をぶつけてくるし、生意気だし、僕を困らせてばかりだ。……でも、だからいいんだ」
僕は掴んだ腕をそのままに、彼を自分の方へ引き寄せた。
驚きで丸くなった彼の瞳に、過去の誰でもない、今、この瞬間に生きている僕自身の顔が映り込んでいる。
trsk「誰かに似ているから好きなんじゃない。……mon、君が、他の誰とも違う君だから、僕は君のことが大好きなんだ。……ようやく分かったんだよ。過去の記憶なんて、今の君の一言に比べれば、驚くほど色褪せてるってことに」
monは、しばらく僕の顔をじっと見つめていた。やがて、彼はふいっと顔を背けて、僕の手を振り払う代わりに、僕の指をぎゅっと握りしめた。
mon「……遅いよ。……そんなの、僕はずっと前から気付いてたのに」
trsk「……そうだね。……君のほうが、僕よりずっと大人だった」
mon「当たり前でしょ。……もう、誰にも重ねないでね。似てるなんて、言わせないから」
monは、僕の肩に頭を預けてきた。
その髪の匂いも、肩の重みも、僕の記憶にある「あの人」とは、全く違う。 けれど、その「違い」こそが、今の僕にはたまらなく愛おしかった。
面影を探す必要なんて、もうどこにもない。 僕が愛しているのは、過去の残像なんかじゃない。
僕を「今」に繋ぎ止めてくれる、この、生意気で温かい「mon」という光なのだから。
mon「……ねえ、trskさん。これから僕、もっと我儘になるからね」
trsk「ふふ。……覚悟しておくよ」
重ねた手の熱が、僕の心の空洞を、一つ一つ埋めていく。 それは、どんな完璧な数式よりも確かな、僕たちの新しい始まりだった。