ミラードの街の前まで来た御一行は、城門で騒ぎを起こしていた。
「シーベルト様っ!?何故!?馬車では!?」
「貴様ら!シーベルト様から離れろっ!!武器を捨てるのだ!」
帯剣した2人に挟まれてこちらへと向かってくるシーベルトを確認した兵士達が声をあげた。
「待て!この方達は私の命の恩人である!武器を下ろせ!」
「はっ!皆の者、武器を下ろせ!」
上役の兵士と思われる人物が、シーベルトの言葉を聞いて指示を飛ばす。
総勢15人程の兵士にいきなり囲まれたレビン。そのレビンの中身はただの村人の為、もちろんビビっていた。
逆にミルキィは元々人見知りの為、普段と変わりなく対応することができた。
「驚かせてしまい申し訳ありません。後できつく言っておきますので、ご容赦ください」
「う、ううん。ビックリしたけど気にしないで。兵士さん達も仕事なのだから怒らないであげてね」
「シーベルト様の恩人に失礼を。さらには我等にご配慮くださりありがとうございます」
「兵士さんも気にしないでください。僕達はただの冒険者ですから、畏まった口調もやめてください」
生まれてからこれまで、人からそのような対応を取られた事もないレビンは、居心地の悪さばかり感じてしまい、正直に胸の内を明かす。
「これから屋敷へと向かいます。ご同行願えますよね?」
「もちろん。シーベルトが怒られちゃうからね」
「よ、呼び捨て…」
二人の会話を聞いていた守衛長は慄いていたが、三人がそれに気付く事はなかった。
ミラードの城壁はガウェインのモノよりも大きく、街も倍の規模だと道中シーベルトから聞いていた。
ガウェインには1万の人が住んでいたが、ここには倍以上の2万5千人住んでいると。
城壁の長さも倍以上あり、高さは1.5倍程の8mであった。
街の入り口から見える街並みはガウェインと変わらず、レンガと漆喰のようなもので出来た2階建ての家が建ち並んでいた。
遠くには高い建物も見えるが城壁周りは乗り越えられなくする為か、2階建ての建物しか窺えない。
三人が門で用意された馬車に乗り、向かった先は領主の館であり、城である。そこまでの道中は街のメイン通りになり、しっかりと石畳が敷かれていた。
その馬車に揺られる事15分ほど。馬車はゆっくりと停まった。
「到着いたしました」
その声と共に馬車の扉が開く。
馬車を降りたレビン達の視界目一杯に、灰色の城が映った。
「うはぁー。お城だぁー」
初めて見る実物の城に、レビンの語彙力が崩壊した。隣に立つミルキィも開いた口が塞がらない様子だ。
「どうぞこちらへ。父に紹介します」
先導するシーベルトに着いて行き、2人は初めての城に入った。
城の外観は総石造というべきか、かなり頑丈に見える。
城の四隅には見張用なのか高い尖塔も確認された。
アーチ状の天井、そして赤い絨毯の上を歩き連れられて行った2人は、一際豪華な部屋へと通された。
「ここはサロン…来賓室になります。こちらで暫くお待ちください。何かあればこの者にお伝えください」
シーベルトはそう告げると、二人と侍女を残してその場を後にした。
「…場違い感が凄いね」
「ええ…息が詰まりそうよ」
挙動不審に部屋の中をキョロキョロと見渡すレビン。そしてそんなレビンの手を知らないうちに握っていたミルキィの二人は、応接セットのソファへと腰を下ろしていた。
部屋の中は二人からしたら豪華であるが、貴族達からすれば質実剛健という感想が出てくるであろう。
室内には高級そうな応接セットに、壁には大きな絵画、用途のわからない壺などがあるだけだ。
そして、足元にある毛足の長いカーペットは金貨100枚以上するものであり、二人がそれを知ったら二度と足を踏み入れられなくなるのは確実だった。
ガチャ
重厚な音と共に開かれる扉。
落ち着きなく過ごしていた二人の元に、やっと待ち人が戻ってきたようだ。
「お待たせしました。こちらが私の父であり、ミラード辺境伯の地位を国王陛下から賜っておられる『リチャード・フォン・ミラード』辺境伯です」
扉が開くなり立ち上がった二人は、どこかシーベルトの面影がある金髪の壮年の男性に頭を垂れた。
「レ、レビン・カーティスと申します」
「ミルキィ・レーヴンと申します」
レビンはすぐに頭を下げて、それを見たミルキィはレビンの真似をした。
恐らく、レビンが粗野な対応を取ればミルキィも真似した事だろう。ミルキィにとってはレビンの対応が正解で絶対なのだ。
「頭を上げなさい。大切な息子の命の恩人に、その様な行動を取られては私が困ってしまう」
レビンは気付いた。
(僕達に気を遣ってくれている?)
優しい声色を意識して発した声は、二人の緊張をゆっくりと解いた。
その言葉に嘘はないと感じたレビンは、頭を上げてリチャードを見る。
もちろんミルキィは真似た。
「うん。いい顔つきだ。立ち話もなんだ。座りなさい」
「はい。失礼します」「失礼します」
二人は元いた場所に腰を下ろして、向かいにはミラード親子が座った。
「話は聞いた。どうやら君達をウチの騒動に巻き込んでしまったようだ。まずはそれを謝罪させて欲しい。二人は冒険者と聞いたがなぜミラードへ?」
謝罪と言っても貴族は王族以外に頭を下げることはない。
レビンはその様な文化を知らないが、リチャードからの謝罪と感謝の気持ちは十分に伝わっていた。
「元々ガウェインにいたのですが、自分達の成長の為にこちらに移ってきました。素晴らしい街並みで驚きました」
嘘である。ミルキィには嘘がすぐにバレてしまうが、案外得意なのかもしれない。
成長するだけならば、ゴブリンを倒していれば安全に人外の領域へと行けたであろうが、そんな事には興味がない。
レビンの興味は人助け、一流の冒険者。そしてなによりも、この儚くも美しい少女を守り抜く事である。
今回の移動もミルキィの為に行った行動であるが、それを言うわけにもいかず、無難な答えで返した。
さらに本人に自覚はないが、人たらしレビンは褒め言葉をサラッと言ってしまう。
「10以上のプレイリーウルフを二人で撃退したと聞いていたが…若いのに凄いな。確かにこちらの方が魔物のレベルは高いから、その判断は正しい。
街並みを褒めてくれて感謝する。私の手柄ではないが、先祖が行ってきた事を褒められて誇らしいよ」
柔和な笑みを浮かべてリチャードは話した。
幾分か語尾も緩んでいるように感じる。
「褒美はランクアップを用意したが、それで構わないか?」
「えっ!?ランクアップ出来るのですか!?」
予想外のお礼に、レビンは城を見た時よりも驚いてみせた。
「勿論だとも。流石に金ランク以上にはさせられないが、鉄ランクなのであろう?であれば銀ランクに推薦する事は可能だ。どうだ?」
(レベル10のタグを見せれば銅ランクにはなれるってアイラさんは言っていたけど、どうせなら確実になれてさらに上のランクの方が良いよね?)
少し悩んだレビンはミルキィに視線をやるが、返ってきた視線は任せると物語っていた為、返事をする。
「よろしくお願いします」「お願いします」
二人は本日何度目になるのか…頭を下げる。
ミルキィにとっては同じお辞儀であるが、レビンにとっては心よりの感謝が込められていたのだった。
レベル
レビン:7(40)
ミルキィ:33
コメント
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楽しく読ませて頂いてます‼︎