テラーノベル
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異変が起きたのは、それから三日目の夜だった。
深夜遅くに帰宅した目黒は、居間を覗き込んだ。
三頭は今日も仲良く身を寄せ合って眠っていた。白とグレーと茶色。
たった三日しか一緒に暮らしていないのに、もうそこにいない生活など考えられないくらい、すっかり家の一部になっている。
「お前ら、ほんっと仲良いなぁ」
目黒はしゃがみ込んで、三つの小さな頭を順番に撫でた。
「ちゃんと寝て、早く大きくなるんだぞ」
おやすみ、と声をかけて、自分の部屋に戻る。
縁側の向こうには、細い三日月が浮かんでいた。
翌朝、岩本はいつもどおりランニングに出かけた。
春とはいえ、まだ外は薄暗い。三頭を起こさないよう、足音を忍ばせて玄関を出る。
次に起きてくるのは、たいてい目黒だった。
けれど、その朝は昨夜の帰宅が遅かったせいか、いつもより深く眠っていた。
目黒は夢の中で、こーじと公園を走り回っていた。
ふさふさの尻尾を振りながら、茶色い子がボールを追いかけている。
目黒が蹴るたび、必死になって駆けていく。
「めめぇ、そんな遠くまで蹴らんといて?」
なぜか、夢の中の茶色い子は関西弁だった。
それに、めめ。
子どもの頃、近所の友達から呼ばれていた懐かしいあだ名だ。
どうしてこの子が知っているんだろう。
目黒は笑いながら、もう一度ボールを蹴った。
公園の緑が眩しい。
遠くから、声がする。
めめ…。
めぇめぇ……
「……めめぇ、いつまで寝てるん?朝やで?」
目黒は眉をひそめた。
夢にしては、声が近い。
「なあ、早よ起きぃ。一緒に散歩行くって言うてたやんか!」
ずいぶんと騒がしい夢だった。
そもそも、いつ散歩に行く約束をしたのだろう。
目黒は薄目を開けた。
そして、閉じた。
もう一度、開けた。
知らない子どもがいた。
幼稚園児くらいだろうか。
布団のすぐ脇にちょこんと座り、こちらを覗き込んでいる。
茶色い髪。
ハニーブラウンのまあるい瞳。
頭の上には、見覚えのある色をした小さな耳が二つ。
背中では、ふさふさの尻尾が嬉しそうに揺れていた。
目黒はしばらく、その子と見つめ合った。
子どもはにこにこしている。
目黒は布団を握りしめた。
「……え?」
「え、やないて。めめ、起きたぁ?」
「……ええっ?」
今度は、文字どおり飛び起きた。
掛け布団が床に落ちた。
枕がひっくり返った。頭の中では、いくつもの考えが一斉に走り出したが、どれひとつとして形にならない。
知らない子どもが、自分の部屋にいる。
しかも、耳がある。尻尾もある。
いや、耳と尻尾があることより、知らない子どもが自分を「めめ」と呼んだことのほうが、よほど問題だった。
「き、君、誰?」
子どもは目黒のベッドによじ登り、胸を張った。
「俺、こーじ!」
それから、当然のように付け加えた。
「ほら、散歩行くで?」
言うだけ言って、こーじはベッドから飛び降りた。
裸足で廊下を駆けていく。
ぱたぱたという足音に混じって、尻尾が何かにぶつかる音まで聞こえた。
目黒はパジャマ姿のまま、数秒間、動けなかった。
夢だ。
そうに違いない。
けれど、頬をつねるとちゃんと痛い 。
目をこすっても、廊下の向こうから聞こえる足音は消えない。
「さっくん、めめ起きたー!」
こーじの声が階下から響いた。
「こーじ、でかした!」
今度は別の子どもの声だ。
「蓮、テレビ!テレビつけるやつ、どこにある?」
「アニメつけて! ねえ、早く!」
目黒は階段を駆け下りた。
居間では、ピンク色の髪をした子どもがテレビのリモコンを探している。
頭の上には、小さな耳がぴこんと立っていた。こーじは玄関のほうを指さしながら、散歩に行こうとしつこく目黒を呼んでいる。
二人とも、初めて来た家とは思えないほど堂々としていた。
「……何、これ」
目黒の口から、ようやく出てきた言葉はそれだけだった。
コメント
3件
やばぁ…… めっちゃ続き気になる!
初コメ失礼します 人間化したこーじとさっくんがかわいすぎる!!! 続きが楽しみです!