テラーノベル
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松吉の必死な手が自分の肩を押しつぶすような重さで掴んできた、あの海での出来事を思い出すとゾッとする
あの瞬間、自分も死ぬかもしれないと思った、それでも体が先に動いていた、なぜそうしたのか今でもうまく説明できないが、とにかくこの心優しい義父を助けたかった
「あの時、アンタが飛び込んでくれなかったら・・・ワシは死んどった」
松吉の声が震えた
「海に落ちて水を飲んで・・・沈んでいく時・・・ああ、これで終わりかと思った、桜の花嫁姿も、孫の顔も見られずに死ぬのかと・・・」
「パパ・・・」
「お義父さん・・・」
「でもアンタが来てくれた、必死で助けてくれた、あの時のアンタの顔を・・・ワシは一生忘れん」
うわ~~~ん(泣)
「ありがとう!チョンさんやぁ~~~~!」
「ありがとう~~~~!」
「うわぁ~~!落ち着いてください!そして僕はジンです!!」
感極まった米吉と松吉がジンに抱き着いた、慌てたジンが思わず叫ぶ、横で桜も涙を拭いてうんうんと頷いている
二人の老人の体温がジンの両脇からじわりと伝わってきて、彼は微妙な気恥ずかしさと、どこかくすぐったい温かさの間で身動きが取れなかった
老人たちの腕は細いのに、不思議と力強い、大阪のオフィスでどれだけ部下に囲まれていても、こんな優しい温度を感じたことは一度もなかった、やがて、米吉がふと笑顔を見せた
「なぁ、婿殿、アンタと桜は、まだ結婚式を挙げとらんのじゃろう?」
「え?」
気まずそうにジンと桜は目を見合わせた、互いの視線の中に、同じ色の焦りが灯るのが分かった
「う・・・うん・・・」
「ええ・・・まだです」
桜は何も言えず畳をじっと見つめている、偽装婚の契約で婚約指輪と入籍だけはしたが・・・
そういえば結婚式などは考えてもみなかった、考える必要がそもそもなかったのだ、半年後にはすべてが終わるのだから
「それはいかん!」
「命を救ってもろた恩人に、ワシは何もしとらん、これではあの世に行けん!!」
「そうじゃな!山田旅館で親族を集めて、正式に結婚式を挙げよう!」
松吉が急に元気な声を出してすくっと立ち上がった
「はぁ?」
「はぁ?」
二人は同時に甲高い声を発した、松吉はさっきまで布団で弱々しく横たわっていた男と同一人物とは思えない、二人とも騒げる機会ができたので、今や目をランランと瞬かせている、この老人親子はこういう時だけ無尽蔵の体力を発揮する
「桜とアンタの盛大な結婚式をやろう!ワシが生きとる今のうちに、ちゃんとした形で祝わせてくれ」
「そうじゃ!そうじゃ!」
「ちょっ!ちょっと!待ってください!そしてお義父さんも元気じゃないですか!」
松吉はもうすっかり元気を取り戻し、力強く輝いていた、ジン慌てて二人の間に割り込もうとするが、老人たちはもう止まらなかった、松吉がさっさと立ち上がり部屋の隅の今時珍しい黒電話台へと向かっていく
その背中は、先ほどまで布団に横たわっていた人間とはまるで別人のように、しゃんと伸びていた
コメント
2件
松吉さんの命の恩人 チョンさん🤣と桜ちゃんの為に是非とも結婚式を❣️このまま強行突破して欲しいけど…高く聳える壁2人の存在が😖
お次はチョンさんだ〜🤣🤣 松米コンビ全幅の信頼をジンさんによせてるね✨️ 結婚式楽しみだけど、フネと浜やん🥸の出方が気がかりでしょうがない😥