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光っては、消える。
僕の部屋の天井に映る淡い光が、
ゆらゆらと揺れては、ふっと消え、また戻ってくる。
何度繰り返しても、その瞬間を捕まえられない。
昼間からベッドに沈み込んでいた。
胸の奥に重い鉛を抱えたみたいに、息をするだけで疲れる。
体温計はベッドの脇、
開きっぱなしの薬袋の上に転がっているけど、
もう測る気力もない。熱があるのは分かってる。
ただ、それよりも僕を押し潰しているのは、理由の分からない虚無感だった。
――何のために生まれてきたのか。
この問いが頭の奥で何度も繰り返される。耳鳴りみたいに、静寂の中でずっと。
「元貴、起きてる?」
低く響く声が、部屋の外から届く。若井だ。
返事をする前に、ドアが開く。
背の高いシルエットが逆光に切り取られ、赤髪が午後の光を反射する。
「顔色、やべぇな……」
そう言って、若井は何も躊躇わずに僕の額へ手を伸ばす。
熱い額に触れた瞬間、彼の眉が寄る。
「病院、行くぞl
「……いい。疲れただけだから」
「疲れただけでその顔色かよ」
ベッドの端に腰を下ろし、若井は溜息をついた。
その隙間から、キッチンのほうで何かを煮る音が聞こえてくる。
「涼ちゃんが粥作ってる」
若井がぽつりと言った。
涼ちゃん。僕らと一緒に住む、少し年上の、何でも器用にこなす人。
彼が作る温かいものは、食べる前から匂いで身体がほぐれる。
「……何で、そんなに優しくするの」
自分でも驚くほど弱い声が出た。
若井は一瞬黙ったあと、口の端を少しだけ上げた。
「何のために生きてるかなんて、俺も分かんねぇ。
でも……お前がここにいんのは、俺にとって意味あるからだ」
その言葉は、光の粒みたいに僕の胸に落ちた。
でもすぐに、また消えてしまいそうで、必死に掴もうとした。
――嗚呼、ゆららと揺蕩えば楽ではありませんか。
そう思ってしまえば、きっともっと楽に呼吸ができる。
けれど、色褪せていくのが怖くて、僕は目を閉じた。
やがて、キッチンから涼ちゃんが現れる。
湯気の立つお粥の匂いが部屋を満たす。
「ほら、食べな。温かいうちに」
涼ちゃんが差し出す器を、両手で受け取ると、
その熱が掌からじわじわと身体に染みていく。
僕はスプーンを口に運びながら思う。
――彷徨った日々にも、意味はあったのかもしれない。
今この光の中で、二人の気配に包まれている限りは。