『もし、誰かと入れ替われるとしたら、誰と入れ替わりますか?』
夢を見た。
スーツを着た大人の紳士のような人がこちらに尋ねた。
応えようとしたけど、喉に突っかかって聲が出ない。
なんだ。これ?
夢?それとも、現実?
堺が分からない
『有名なあの人?裕福なあの人?妬んでいたあの人?』
『試しに、その人の生涯を覗いてみてください』
ニコッ と無垢な笑顔をして、こう言い放った
『貴方の望んだ人生だと、いいですね』
「ッはぁッ!!!」
目が覚めた。
背中が汗がぐっしょり濡れていた。もう秋だというのに
「あれ、?……、なんの、夢を見ていたんだっけ、?」
思い出せない。何か、大切な夢を見ていたような気がする。
「……、着替えよ」
汗がくっついて気持ち悪い。
何に着替えようか考えているその時、俺のスマホから通知が鳴った
なんだろうと思うと、それはぺいんとからだった。
「なになに…?あぁ、そっか。今日は、その日か。」
今日。2018年11月4日。
【今日、脱獄1を投稿する日だよ!祝💐】
「脱獄…… 」
俺は、脱獄では3人とは別の役を演っている
3人は脱獄者。
俺は……
「看守……色々な役。」
あまり、皆からは乗り気ではなかったけど、俺は撮影の人数不足により、役者になることになったのだ。
「キャラ……付けられるかな?」
俺って、まだそんなこと考えてんだ。
「……、かっこわる」
俺は、【役】という名の【キャラ】を被った脱獄シリーズを遠目に見ていた。
事実、脱獄シリーズは絶大的な人気を勝ち取った。
その後、それに続き、盗賊シリーズ、脱獄ゲーム、看守検定、などのこれもまた、人気のシリーズが現れた。
そして、脱獄シリーズは漫画にもなった。
日常組といったら? と聞かれたら、
【脱獄シリーズ!】と言う人もそう少なくはないだろう。
それ程までに、代表作になったのだ。
その中でも、俺が大好きなキャラがいる。
それは…、
「リアム看守……」
脱獄シリーズ最後……だと思われる
脱獄3の撮影前に今までのシリーズを見直している時に思った
「この脱獄3で、リアム看守は死ぬ。」
これはずっと前から決めていたこと。
リアム看守は道化師により、殺害される。その苦しさの中、クロノアさんに爆弾が仕掛けられていると知り、追い打ちをかける。
……、彼らは果たして苦しさを振り払って脱獄できるのか。
「……、リアム看守は、厳しくて、怖くて、しっかりし過ぎてて、冷たくて……」
誰に語るでもなく、……いや、俺という【トラゾー】に語っている。
「だけど、その怖さは、その厳しさのなかには、……誰よりも、囚人に耳を傾けて、正しいことは正しく。悪い行いは、正しく罰する。」
なぜか、涙が溢れてきた。
「彼は、自分で物事を考えられる。彼の冷たさは彼なりの優しさなんだ。」
動画から、リアムの声が流れてくる。
なんやかんやで3人の……囚人の話を聞く。
「いっつも、忠実で、冷静で、最後まで仕事を成し遂げて……ッ……」
駄目だ。考えれば考えるほど、涙が溢れてくる。
「ッ……俺も、あんな風になれたらなぁ……ッ」
俺も、リアム看守のようになりたい。
そんなこと、何千回も思った。
「そんな人を、俺は殺すんだ。」
物語という中で、トラゾーは、刃を突き刺す。
……酷い話だよなぁ……。
物語にはリアム看守の死が必要だから、リアム看守を殺す。
それって、あまりにも自分勝手じゃないか?
「憧れの人を殺すって、あんまりだよ……」
確かに、その選択をしたのは俺だ。 でも、必然的に起こるのだ。
何回も、リアム看守を生き残れるエンドに書き換えようか迷った。 でも……何故か、手が動かなかった
「現実って、ツラ……」
【生まれ変わったら、何になりたい?】
いつかのぺいんとに言った言葉が頭を過ぎる。
「リアム看守、になりたいなぁ……」
架空の人物だ。そして、もしなれたとしても、道化師によって死んでしまう。
でも、それでも、
「カッコいいから、それでいい。」
ピロンっ と入室する音が鳴り響いた
『やっほい、トラゾー!撮影前なのに早いじゃんw』
クロノアさんが現場に入室した。 画面越しに声が聞こえる
「うん。色々準備があって。」
嘘だ。恐らく最後と思われる脱獄シリーズの余韻に浸っていたのだ。
「てか、クロノアさんも撮影30分前ってww」
『うんw多分だけど、最後の脱獄だと思うと、ちょっとしんみりしちゃってw』
「脱獄でしたっけ?クロノアさんの迷言の『訝しむ』?」
『いやw訝しむ自体はただの言葉だから俺の迷言ではないんだけどね?w』
そう言いながら、作品の撮影の裏話や、好きなシーンなどを言い合った。
そして、一拍間を空けて、 『でも……』と少し悲しい声でこう言った
『撮影、楽しかった……なぁ……』
最後とは限らない。 だが、リアム看守が死んでしまう時点で物語は幕を閉じる。
ここから続けても、グダクダしてしまうだけだ。
「……うん。」
ピロンッ ピロンッ と2回同時に入室の音が聞こえてくる
『どもこーん!』
『やっほー!トラゾー!クロノアさーん!』
2人が入室してきた。
それでもまだ撮影20分前だ。
『2人とも、早すぎやしません?ww』
『何してたんだよ!』
「俺、1時間前から来てたからw」
『えぇっ?そんなにいたの!?』
その後、四人で撮影の準備をしながら、脱獄の好きな場面や、次のシリーズ作品は何にしようやら、沢山のことを話し合った。
脱獄シリーズは、俺と皆を繋げてくれた。 だから、今回は……感謝を持って ガチ目に、演じに行く。
リアム看守。俺に、少しの勇気と、貴方の忠実さを下さい。
貴方をこれから殺すことはわかってます。
貴方は俺を憎むことは承知の上です。
どうか、ッ
『やるからには、ちゃんとやるんだな。』
「ッ!」
リアム看守の声が、聞こえた………気がした。
『撮影はじめます!』
ぺいんとの威勢のいい声が響く。
リアム看守。俺は最後まで成し遂げます。
貴方のように。
大きく息を吸って……、
「目が覚めたようだな」
3人が喋ってる間に俺はリアム看守の声で第一声を放った。
『えっ!?その声は……!?』
「久しぶりだな」
『お前……だれ?』
『お前、どれ?誰?』
『【どれ?】?』
『お前どれ?誰?』
「俺は……」
ここから、脱獄3の幕が、始まった。
「リアムだ。」
これが、何も出来ない俺にとっての最大限の実力だ。
……、このシリーズが終わったら、俺はどうなるんだろ、?
そんな不安と共に、脱獄3の撮影は幕を閉じた
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