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✦ 前世パート冒頭
──遠い昔。
霧の深い森に、ふたりの影が寄り添っていた。
ジェイアスは、森を守る者だった。
静かで、強くて、
けれど誰よりも優しい眼をしていた。
エリスは、森に選ばれた巫女だった。
風の声を聞き、
木々のざわめきに耳を澄ませ、
魂の揺れを感じ取ることができた。
ふたりはいつも、
同じ森の中にいた。
けれど──
決して触れられない距離にいた。
「巫女は、守り手と心を交わしてはならない」
それが森の掟だった。
それでも、
ジェイアスはエリスを見つめてしまう。
エリスもまた、
ジェイアスの背中を追ってしまう。
にできない想いが、
ふたりの間に静かに積もっていった。
霧の向こうで、
木々が揺れるたびに。
風がふたりの間を通り抜けるたびに。
触れられないはずの心が、
そっと寄り添ってしまう。
そんな日々が、
永遠に続くように思えた──。
だが、
森は静かに崩れ始めていた。
エリスが巫女として“存在できなくなる”
あの出来事へと、
運命はゆっくりと近づいていた。
その気配だけが、
霧の奥で静かに膨らんでいった。
しばらくして、
森の奥のほうで“わずかな沈み”が生まれた。
音ではない。
光でもない。
ただ、
空気の層がひとつ、
ゆっくりと沈んだような変化。
エリスはその方向に視線を向けた。
「……境界の外側です。
ひとつ、動きました」
ジェイアスは霧の奥を見据え、
短く息を整えた。
「距離はまだある。
だが、こちらに向かっている」
霧がわずかに流れを変える。
風のない森で、
空気の向きが一瞬だけ揺れた。
エリスは胸に手を当てた。
核との繋がりが、
さっきよりも薄く感じられる。
「……近づいています」
ジェイアスは頷いた。
「まだ形はない。
だが、確かに来ている」
ふたりはその場に立ち、
霧の奥で進んでくる“何か”を
静かに待った。
森は沈黙を保ったまま、
ただその変化だけが
ゆっくりと近づいてきていた。