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「セックスしたいなら外の男のとこにでも行けばどうです?」
自身から出た声は自分でも驚くほど冷えたものだった。いや、冷えた声音にもなる。自分はたらいの外での『遊び』にまでいちいち目くじらを立てるほど女々しくはない。外のことは所詮『遊び』だ。所謂風俗のようなもの。彼が自分との性生活に満足していないのはわかっているし、性に淡泊な自分では満たしてあげられないこともわかっている。全部ぜんぶ理解した上で、黙認している。見て見ぬふり、といったほうが適切だろうか。今日の今日まで何も言及してこなかった。今、はじめて、『外の男』の存在を知っているのだと、口にした。言った後に苦虫を噛み潰したような気分になってしまう。
「他の男じゃ嫌だ。今日はアキラがいい」
「……っ、あなた、は……」
外に男がいる、と言われてもそれを否定しないたらいの言葉に血が上る。顔が熱くなる。思わず握りしめた拳を振り上げたが、それより先に彼の唇が肌に触れた。そのまま舌が素肌を滑る。踝の出っ張った骨をくるりとなぞるように舌が這い、最後にもう一度唇が吸い付く。
「俺はいつだってアキラとえっちしたいんだよ」
足元にある彼の頭が上がり、上目遣いにこちらを見つめる。成人しても幼さを残したおおきな瞳。おねだり顔にますますこころの中が荒れ狂う。苛立つ気持ちのまま足を振り上げた。
「っ、あぶな…」
間一髪とそれを避けたたらいにまた苛立ちを憶え、思わず舌打ちする。目的に当たらなかった足が虚しくベッドの上に戻り、つま先でシーツを握り締めた。ああ、嫌だ。
今まで見て見ぬふりをしてきた事象に今更嫌悪を抱く自分が嫌だ。悪びれた様子もない、隠す気もない、言い訳のひとつもしないたらいが嫌だ。それでも尚、こちらに甘言を囁く彼が嫌だ。それにいつものように絆されそうな自分が嫌だ。ぐらぐらと揺れる感情。思考の定まらない頭を抱えるよう片手で顔を覆った。
「ほんと…今日は帰ってください」
「やだ。なんで帰らなきゃいけないん?俺が帰る場所はここだけ、アキラのとこだけ」
「今日は貴方と喋る気にもなれない。帰れ」
いや、と短い返答のすぐ後、両手首を掴まれてベッドに押し倒される。シーツに縫い留められた手首はぴくりと動かない。細い身体のどこにそんな力があるのかといつも思う。こうして毎度強引に行為に持ち込まれては流される。性質の悪い駄々の捏ね方に翻弄される
「帰れってさっきから言ってるんですけど」
「やだって言ってんじゃん。なんでお前そんなに不機嫌なの?俺が外に男作ってたなんて今更だろ。アキラだってどうせ前から知ってたやろ?」
それならアキラも共犯、と自分勝手を呟く赤い唇。口角を吊り上げたそれからちらりと見える犬歯が首筋に落ちて鋭い痛みが走る。ぶつり、と皮膚が破れる音がした。 いや、したような気がした。聴覚はその音を拾っていないのに、脳が勝手に認識をする。すっかり彼に飼い慣らされた身体が余計な情報を与えてくる。
「…見えるところに痕残すな」
「はいはい」
私の問いにはひとつも答えを返さない。何を言ってもこの自分勝手なクズには伝わらないことを知っている。
あはっ、と笑いながらたらいは私のシャツの釦を外していく。寛げたシャツの間、薄く筋肉のついた胸元にラベンダー色の頭が伏せる。前髪が素肌を擽り軽く身を捩ると、それを制止するようにぬるい体温の唇が皮膚に吸い付いた。肌の感触を愉しむように胸元から腹部へと唇が落ちる。もどかしい刺激に焦れる。いや、面倒くさい。するならさっさとすればいい、と未だ尖った神経が苛立ちをおぼえさせる。覆い被さった身体の股間はちょうど膝のあたり。ここからでは衣服に包まれたそこが興奮しているかどう かは見えない。面倒くさくなって膝を立ててぐっとそこに押し付けた。
「っあ…ちょ、っ、あきら?」
びくりとたらいの身体が跳ね上がり、瞳が上目遣いで訝しげにこちらを見つめる。
「するならさっさとしてくださいよ。今日はそういう気分じゃないのに付き合ってやろうってんですから。」
じっとおおきな瞳を見つめ、ぐりぐり、と膝を動かせばたらいの目尻が僅かに動き、衣服越しの性器が少しだけ張り詰めたのがわかった。彼の性欲には正直感心する。自分にはそれほどの欲がないだけに、そのまっすぐな性欲に疑問が浮かぶのもまた事実。情のある相手でも、ない相手でも、彼は平等に性器を熱くさせるのだろう。快楽に溺れるのだろう。そう思えば、いっそ博愛のようなものすら感じる。ぐっと、彼は自ら膝に股間を押し当ててきた。思わず足を引いても熱くなったそこが追いかけて来る。
「あのさぁ、アキラ。積極的なのは嬉しいよ、嬉しい、けど、何か勘違いしてね?」
「……勘違い?」
私の膝に下半身を押し付けたままたらいは上体を起こした。おおきな目がにやにやと細められ、彼の指が胸元に伸びる。そして、外気に触れて僅かに主張をはじめた乳首へと触れる。特別手入れをしているわけでもないのに滑らかな指先が突起を摘み上げ、指と指でそこを擦る。
「っ、ぅん……な、さっさと、しっ…」
「俺がねぇ、こうやって乳首触ったり、キスしたりすんのはアキラ、お前だけだよ?」