オーターが仕事に取りかかってから一時間後。
「お!勝手に帰らなかったな。」
仕事を終え帰り支度を済ませたオーターの下に、同じく仕事を早く終えたレナトスが再びオーターの執務室を訪れた。
「貴方が『一方的に』、『一方的に』取り付けたとはいえ、約束は約束ですからね。」
「何で二回言った?」
「大事な事なので。」
「あー、うん。なるほど。」
レナトスが一瞬気まずそうにオーターから目を逸らすが、すぐに視線を戻し話を続ける。
「待っててくれてありがとな。」
「別に。礼を言われるような事はしていません。ただ、勝手に帰りでもすればあとが面倒な事になるから待っていたまでです。」
「そうだとしてもだよ。ありがとな。」
「ですから礼など・・・・。」
レナトスがまたあの人懐っこい笑顔を浮かべながら言うと、オーターは照れ隠し(?)なのかフイッとそっぽを向いた。
まるでふてくされた子供のようなその仕草にレナトスは小さく笑みを浮かべる。
(オーターって、たまにガキっぽくなる時あるよな。・・・・可愛い。)
レナトスがそう思いながら和んでいると、そっぽを向いていたオーターが向きなおり口を開く。
「レナトス。」
「ん?どうした。」
「貴方今、失礼な事思ったでしょう。」
「(ギクッ)まさか、んな訳ねえだろ。」
「・・・・・。」
冷や汗をかきながら否定するレナトスをオーターは無言でジーッと見つめる。
二人のその様子は、『蛇に睨まれた蛙』状態だ。
が、先に視線を逸らしたのはオーターの方だった。
「まあいいです。」
「(ホッ)」
「せっかく仕事を早く切り上げたのですから、もう帰りましょう。」
「あ、ああ。そうだな。」
胸を撫で下ろすレナトスより先にオーターが執務室を出て行き、レナトスもそれに続いて執務室を出た。
*******
ザアアアア。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
魔法局をあとにし、雨が降るマーチェット通りを傘を差しながらレナトスとオーターが並んで歩いている。
いつもなら夕方でもまだ人で賑わっているこの通りも雨の日だからか、ひと気がなく静かだった。
(雨のせいでしょうか?静かだ。まるでこの男と世界に二人きりになったような。・・・何を考えているんだ私は。そんな事ある訳がないというのに。)
「何か、人がいなくて世界に俺達だけみたいだな。」
「!」
自身が思っていた事と同じ事をレナトスが口にしたので、オーターは驚き思わずピタッと立ち止まった。すると、レナトスの方も数歩歩いた所で立ち止まる。そして振り返り、驚いて固まっているオーターの前まで戻り彼を見つめながら、口を開いた。
「どうした、オーター?」
「い、え。何でも、ありません。」
まさか自身が思っていた事と似たような事を言ったから驚いたとは言えず、オーターはそう返すのが精一杯だった。そんなオーターに気づいているのかいないのか、レナトスはそのまま話を続ける。
「ふーん?なぁ、オーター。」
「何ですか?」
「俺ん家で、一杯飲んで行かないか?」
「・・・は?」
レナトスからのいきなりの誘いにオーターは驚きの声をあげた。それに構わずレナトスが話を続ける。
「お前、雨の日は憂鬱みたいだから、飲んで少しでも気が紛ねえかなと思ってよ。・・・どう?」
「・・・・・・。」
(酒に頼る事はできる事なら避けたい。ですが、この男なりの気遣いなのだろう。ならば答えは。)
「・・・いいですよ。」
「え?」
「貴方の誘い受けます。」
「そうか!」
オーターの返事に、パアアと効果音が聞こえてきそうなほど喜びながら笑うレナトスにオーターは目を細めながら思った。
(この人、確か私より年上でしたよね?まるで子供みたいだ。・・・不覚ですが少し可愛いと思ってしまったではないですか。)
「オーター?」
「!」
「どうした、ボーッとして?」
「何でもありません。それよりも早く貴方の家まで案内して下さい。」
「おお、そうだな。こっちだ。」
急かすオーターの言葉を受け、レナトスは自宅へと歩き出し、オーターもそのあとに続いて歩き出した。
コメント
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続きを………続きをお恵みくださぁい……