TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
シェアするシェアする
報告する

4.工場見学 / 荒井律



工場見学の日がやって来た。一週間はあっという間に過ぎていく。

今日は大栄建設の新藤さん――鬼畜スーツ眼鏡の本物――に会える日だ。

ああ。もっと年齢を重ねる前に、一度でいいから骨の髄まで甘々に溶かされてみたい。少女漫画みたいな恋愛、めっちゃ憧れる――と妄想に花を咲かせてしまうのは、新藤さんに会えるからだ。

そのせいで興奮してしまって、お気に入りの乙女ゲームをプレイして、魔王男攻略してエンディングまでイッキ見したからだろう。いつまでも妄想(ゆめ)を見てしまう私は、脳内が十代の少女のまま止まってしまっている。アップグレードが追い付いていないから、夢見がちな性格のまま三十歳を超えてしまったのだ。精神面が大人になりきれていない、痛い女性であることは自覚している。


今日の目的地は三重県。朝早くに愛車で出発した。午前十時の待ち合わせだ。しかし工場付近で道に迷ってしまい、到着がギリギリになってしまった。余裕を持って出たはずなのに、おかしいな?


「もー。全然ナビができてないし。道に迷うなんて……ほんま最悪」


私が間違えた道を伝えてしまったから光貴に文句言われた。


「ごめん。ナビを見て案内したつもりだけど、側道を急に降りろとか言うから……途中で道を見失っちゃって……」


これはナビの過失であると思う。よって私に罪はない。

ただ、間違えた先がとんでもない所で一本の細い道をひたすら進むしかなく、目的地から随分離れてしまったせいで、結果迷子に。新藤さんに何度も連絡して場所を確認しながら、ようやく辿り着いた。

新藤さんには迷惑をかけてしまったので後で謝っておこう。


これは絶対に誰にも言えないけれど、新藤さんの声は低くて良く通る声で私のツボをキュンキュン刺激するから、何度も電話で新藤さんの声が聞けて超ラッキーだった。迷子になって迷惑をかけてしまったけれど、私だけが密やかに得をした。


新藤さんは既に表で待っていてくれて、私たちの車を見つけると手を振ってくれた。敷地内の駐車場に停め、彼の前に降り立つ。


「遠い所までご足労いただき、ありがとうございます。お疲れになられたのではないですか?」


深々と頭を下げて丁寧な挨拶をしてくれた。


「こちらこそ何度も電話してしまい、ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」


新藤さんに謝った。しかし彼は、気にしないでください、入り組んでいてわかりにくい場所で申し訳ございません、と笑顔を返してくれた。


あ。今日は爽やかな優しい笑顔だ。鬼畜スーツ眼鏡と違う。…残念。


んっ? 残念に思ってこんなに落胆するなんて、おかしくない?

乙女ゲームのやり過ぎにもほどがある。もう少し自制しなきゃ!


気を引き締めていると、今日見学する予定の煉瓦の建物前に立ってください、と新藤さんに指示された。私たち夫婦のほかに見学に来られたと思われるカップル、ご夫婦、家族連れ等、計七組がいた。

新藤さんは私と光貴に建物上を見るように指示してきた。見上げるとその建物の二階のテラスから、スーツを着た女性が手を振っている。


「みなさーん。こちらからお写真を撮りますねー」


女性の掛け声で何枚か参加者の集合写真を撮った。記念撮影らしい。顔はそんなに映らないようにするから、大栄建設のHPやPRに利用しても良いかとアンケートを受けたので了承した。今のご時世、様々な配慮が必要なのだと感じた。


写真撮影をした後、建物の見学の前に大栄建設は木造住宅専門のため、どのように家が建つのか一連の流れの説明を行っている。設計したのちそれに合う木を作り、箱型にはめ込んでいくという設計方式を採用しているらしい。海外の工場で木材を裁断までして入荷するから建設現場でもミスがなく、間違いが無いように家が組み立つといった内容を専門用語を交えて簡単に説明してくれた。

実際に自分達でも木を打つ体験をしてみた。指定された番号の木を空いている箇所に打つだけ。面白い位に簡単だったけれど、一回打ったら外れない。素晴らしい技術と工夫が生かされていることを知った。


次に家を囲う断熱材についての説明を受けた。他社のものと比べ、断熱材の厚みや断面図のきめ細かさ等を見た。そのため冬は暖かく、夏は涼しい空間ができるらしい。


更に木造住宅の一番の敵であるシロアリ対策の話も聞いた。

他では床下から多くても三十センチほどしか薬を注入しないようだ。しかし大栄建設では、一メートル近くも木材にシロアリ対策の薬を注入するのだそう。木材自体に加工をしてまうと説明していた。安心の家造りができる案内を順番に見回った。


次に耐震テストがあった。震度七を想定した地震規模の揺れを装置を使って再現するのだ。実際のテストに私も参加してみた。ヘルメット装着して揺れが来るのを待ったけれど、大栄建設が建てた家は想像よりも揺れずに家具は殆ど無事だった。勿論他の建築物とも比べていたが、雲泥の差であることは明らかであった。


ここまでの見学や体験終了後、お昼を過ぎていた。


写真撮影した建物に案内され、二階の広い会議室みたいな空間に人数分の弁当が用意してあった。そこで食事が摂れるようになっている。私たち夫婦の担当は新藤さんだから、自動的に私の前に新藤さんが座った。


わぁ。超ラッキー! 実物で目の保養をしよう。

テンションが上がった。

DESIRE -堕ちていく あなたに奪われる- ~この愛は、罪~

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

13

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚