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特別に入ることが許された淋しい病室。
『京本大我』と書かれたプレートが掛かっていたはずのベッドには、綺麗に畳まれたシーツげ置かれている。
彼は、3か月前に余命1か月と宣告されたそうだ。
それでも彼は、2ヶ月間長く生きた。
彼の分まで…なんて言えないけど、少しでも俺が、生きればな。なんて。
零れ落ちそうな涙を堪えながら、俺は病室を後にした。
「え…緩和ケア?」
担当医であり友人でもある樹から言い渡されたのは、“緩和ケア”という選択肢。
緩和ケアをするってことは、今おこなっている治療が終わるということ。
じゃあ、この症状がもっと酷くなるのか?
俺の人生は終わりに近づくのか?
もう、今の治療に俺は耐えられないのか?
もう少しくらいは、生きられると思ってたのに。
もっと生きるって約束したのに。
あの友人たちとも、会えなくなるのか?
悪い思考しか頭に浮かばない。
気づくと、瞳に涙が浮かんでいた。
「え…あの、俺ってもう… 」
やっとの思いでそう口にすると、温かい空気が俺を包んだ。
『大丈夫。慎太郎は大丈夫。ただね。今のままだと、しんどいのは慎太郎なんだよ。』
樹が、俺を優しく抱きしめてくれていた。
それに気づいた途端、さらに涙が溢れた。
「もっと…だってやりたい事とかまだいっぱいあるし。緩和ケアってそんな…」
『思い詰める事はないよ。慎太郎が生きやすくなるためにって。』
正面に向き直った樹は、さらに続けた。
『慎太郎さ、前に言ってたよね。優しくて良い友達に出会ったって。これからは治療とかでしんどくて会えない、なんて事ないんだよ。いつでも一緒に過ごせるよ。』
そう聞いて、俺は疑問に思った。
“友達と治療でしんどくて会えない”
俺が出会った友人は、病室には来ていないはずなのに。
連絡先は交換しているから、病院は伝えているが、“来る”などという連絡はもらっていない。
「俺の友達ってここ来てないよね?連絡もらってないし…」
そう樹に聞くと、樹は意外そうな顔をして、『来てたよ。4人とも。』
そう口にした。
『あ!そういえば…』
樹は病室の棚の引き出しを開けた。
そこから出てきたのは、たくさんのプレゼントだった。
猫の絵が挟まっている様々な色のガーベラの造花。
可愛らしい猫が描かれた表紙の本。
綺麗な毛並みの子猫の写真。
鉛筆で描かれた美しい猫。
「これって…」
そう樹の方を見ると、樹は微笑んで説明してくれた。
『えっと、この造花は高地さんって人が。造花は枯れないから、慎太郎もずっと元気で頑張って。って』
『この本は、北斗さんから。新作です。慎太郎さんが好きそうな本だと思うので。って』
『これの写真はジェシーさんから。子猫引き取ることになったって。精一杯育てるから、慎太郎さんも家来て下さい。って』
『この絵は…ここに入院してた京本さんですね。彼が亡くなった後、彼の病室に手紙が置いてあって。慎太郎に。って』
「ありがとうございます。」
俺は心からその言葉が出ていた。
俺のために。こんなにしてくれて。
もう少しの命。
この命を、人のために、尽くせるように。
恩返しのために、俺は緩和ケアをおこなうことに決めた。
コメント
2件
ほんとにありがとうございます、! 読んでると自然と涙が出てきました。 素敵な物語に出会えて良かったです!